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悪女皇帝は返り咲く  作者: 智慧砂猫


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第19話『仕事は山積み』



 宴も終わり、翌日にはいつもの日常が戻ってきた。ひとつ違うのは、オルキヌス騎士団の面々が集まり、執務雑務に徹してサポートするようになったこと。


 そして問題は────。


「……あ~、なんだね。私の机に山積みになってるこれは?」


 フレアの目の前に高く積まれた書類の山が、三つはある。ギデオンは優しくも悪辣な笑みを浮かべて、自分の抱える書類の束を追加で机に置いた。


「全て首都の現状を回復するため、他の領地にいる貴族に協力を仰ぐための要請書。また、北部の各地から支援物資と派兵の要請が来ております。地域の現状に応じて陛下が以前のように目を通しやすくリストアップしておきました。重要度の低いものも除外せず、どの程度の支援を行うかは陛下が判断してください」


 流石にフレアも苦笑いしか出てこない。騎士団の再結集を待った半月も、ありとあらゆる書類と対峙してきたのに、まだこんなにあるのか、と。ペンを握る手が思わず脱力してしまいそうになった。


「そ、それにしても、仕事の時は他人行儀なんだな?」


「はは、またそれですか。切り替えは大事ですよ、俺のように上司がいるとね」


 お前はいいよな、と言われている気分になって肩が重くなる。これなら元の世界で適当に仕事をしていた方が楽だったのではないか。そんな考えが頭を過った。


「ああ、それと報告が」


 何枚かの報告書に、ギデオンは視線を落として文字に目を滑らせた。


「ルイーズがメンテルを拷問して、金の行方を吐かせました。陛下の状態を知る貴族は数名のみに限られており、徹底的な管理の下に悪政が行われていたようです。ウェリオット伯爵家、バーナン子爵家、コモンド男爵家など……爵位こそ大した事はありませんが、歴史ある家門としては影響力が高い貴族派ばかりです」


 フレアは、それらの家門が全て首都でも皇宮周辺の土地に陣取った事を知っている。酒に溺れた皇帝を支配下に置き、操り人形にするためにメンテル単独では、そう上手くいかないものだ。予め勢力を固めて、親皇帝派を遠ざける狙いがあったのだろう、と推測する。呆れて言葉も出てこなかった。


「(にしても拷問か……。ルイーズって見た目には細身の中学生くらいに見えるのに、あの残酷さはどこから来るんだろう?)」


 悪戯が好きそうな笑みを浮かべて、愛らしさと憎らしさが手を取り合ったようなルイーズの性格は、いざというときは恐ろしいほど無垢で残酷だ。拷問する事を喜々として実行している節がある。


 年齢を聞いた事はないが、さぞや苦労してきた十数年だろうと思った。


「陛下。聞いておられますか」


 ぼんやり考え事をしていたところで、ギデオンの声にハッとする。


「あ、ああ。悪い、他にまだ報告が?」


「いえ。メンテルの件はクライド団長に処理してもらう事になりましたので、報告は自体は以上です。ただ、他に頼み事があるのですが────」


 ギデオンの頼みは単純明快。シルヴィとブリジット以外の侍女を複数人、それに加えて執事や正規雇用の騎士を増やす事だった。何枚かの紙をギデオンはめくって確認してから、フレアに差し出す。


「首都は働きたい者たちで溢れています。そこで今朝方、掲示板で募集を掛けたところ、応募者が雇用の定数を大幅に越えています。こちらが、その定数と応募者の総数。それから名簿になります。判断は陛下にお任せしたいと我々も意見を一致させております。いかがなさいますか?」


 差し出された紙を受け取って、フレアは名簿と睨めっこをする。


「すごい数だな……。ざっと見ても騎士の応募だけで百人を超えているようだが」


「はい。今現在の臨時雇用の騎士は人数が百名ほどです。彼らは、メンテルを処刑するまでが雇用期間となっていますから、その補填は必要でしょう」


 国力を高めるためには騎士団だけでも数千人規模にしたいのがギデオンやクライドの考えではある。だが首都が傾いたままでは望めない人数だ。まずは少数から、しばらくはオルキヌス騎士団の面々が入れ替わりで強化訓練なども行い、個々の戦力を高めていくのが最適だろう、とフレアに進言した。


「……騎士はお前とクライドで決めてもらえると助かる。だが執事と侍女は私が面接して誰を雇うか決めよう。人数が多いから数日に振り分けてくれるか」


 名簿を返されたギデオンは受け取ってから、胸に手を当ててお辞儀をする。


「ではそのように。演舞場にいるクライドにも伝えてまいります」


「ああ、よろしく頼むよ。こちらはのんびり処理しておこう」


 パシパシと軽く書類の山を叩いて、また苦笑いする。面倒ではあるが、自分の仕事なのだから仕方ない。ギデオンも嬉しそうに微笑んで部屋を後にした。


 一人になって誰の気配もなく、静かになるとフレアはがくっとうなだれる。


「……慣れない。というか、なんだ、この仕事量。本当に私がやるのか?」


 以前の働き詰めだった自分でも、こればかりは信じられないと言わざるを得ない山の量。今の体はとことん元気で、数日もロクに眠れなかった後に夜まで飲んで楽しく過ごした後でもぴんぴんしてはいる。してはいるが、仕事を前にすると元気がなくなる。数時間で終わればいいな、と淡い期待に涙が出そうになった。

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