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拝啓、旦那様  作者: ring
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中編

サラを初めて見た時、一目で恋に落ちた。


ふわふわの栗毛にクリクリした瞳。少し低い鼻もぽってりした唇も、全て僕の理想通り。しかも背が低くて思わず抱き締めたくなる身体。


彼女は見た目はか弱い令嬢なのに、魔術の腕は学園一。しかもアカデミー設立以来最高の魔力の持ち主。

研究熱心で学力も常にトップ。


でも、彼女の魅力に引き寄せられるのは僕だけじゃなかった。


騎士科はほぼ男子。話題は当然魔術科の女子の中で誰が好きとか、可愛いとか、胸が大きいとか、まぁ思春期によくある話だ。

その中でも断トツ1位なのが、サラ・レーベル。彼女だった。


先輩から演習のバディがきっかけで恋人になる人が多いと聞き、僕も彼女のバディになるべく学年トップを目指した。

自分で言うのもアレだが、僕は女性に昔から好かれる。だから彼女とバディになれば、すぐ恋人になれると思っていたが。


初めてバディになった時、彼女目当ての男子が一緒に進もうと乱入してきた。しかも何とも思わない女子を連れて来て僕と彼女を引き離そうとしたのだ。


当然、僕は女子を後ろへ下がらせ彼女の隣を死守したが、彼女は指示しなくても僕の考えが分かるかのように、欲しい所へ足場を作り、敵が動かないようにして僕が剣を一振りするだけで済むようにしてくれ、疲れたら黙ってヒールをかけてくれて。

バディとしても最高の彼女を僕は必ず手に入れると誓った。


アカデミー時代。僕は彼女のバディをずっと勝ち取る為に鍛練も学科も常にトップを死守したが、彼女はかなり恥ずかしがり屋で、まるで野良猫みたいにいつも違う場所に居た。それを探すのも楽しかったけれど魔術科へ行くと、彼女を探す僕の周りに人が集まったがいつもの事と気にしなかった。


でもね。彼女は僕の姿を見ると大きな瞳がパッと更に大きく見開き嬉しそうな顔をしてから、僕の周りにまとわりつく女子を見ると、すぐ転移しちゃう。

どう考えても僕が好きだけど、恥ずかしがり屋だからヤキモチ焼いたとしても言えないなんて、益々僕は彼女に夢中になった。


アカデミーの卒業式。恥ずかしがり屋の彼女へ僕から告白しようと思ってたのに、沢山の女子生徒に囲まれてしまい気付いた時、彼女は家へ帰った後だった。





騎士団に入団後は私からアプローチして裏では彼女に近付く人間を排除した。女性からいくらアプローチされてもやんわり断り続け、彼女のバディとなって8年。

小規模の討伐なら私と彼女二人だけで充分と言われる位。彼女とは言葉を発する事無く以心伝心、阿吽の呼吸、完璧なコンビネーション。


これはもう結婚するしか無いよね。恥ずかしがり屋の彼女から言えないだろうと自分の両親と彼女の両親へ話を通して、結婚の準備を進めた。


今、思い出しても彼女は完璧だった。真っ白なウェディングドレスを着て、私へ歩み寄る姿は一生の宝物だ。

初夜は彼女が恥ずかしがり屋だから、少しだけ媚薬を入れたワインを飲ませて身体の隅々まで堪能した。夢心地だった私と違い、彼女はぐったりしていて……


その姿を見て、私は愕然とした。彼女を失うかも知れない恐怖から、私の私が機能しなくなってしまった瞬間だった。


色々試したがダメ。しかし彼女には言えず。家へ帰り彼女に知られ嫌われたら生きて行けない、でも、彼女を手放したく無い。


解決策も見つからず、深夜に彼女の寝顔を見るのだけの日々が3ヶ月経ち、同僚からも心配されてるが相談出来ず。彼女には正騎士試験が近い事を理由に秘密の深夜の帰宅以外の時間を空いている寮の部屋で過ごした。


「おい!サラが魔術中に倒れたらしいぞ」

「何!?サラは何処だ!」


仲が良い騎士に教えられ医務室へ行くと、ベッドに横たわるサラの姿!

もし、サラを失ってしまったら私も死のうと心の中で誓う。


しかし、そこで告げられたのはサラが妊娠していた事。嬉しくてサラを抱き上げた私は、気持ち悪い。と言われ慌ててベッドに下ろした。

大切なサラをいつまでも硬いベッドに寝かせる訳にはいかないと、すぐ馬車を呼び家へ二人で帰る。この時は神に感謝したよ、これからはサラとお腹の子を守る為に生きよう!


悪阻が酷いサラの為、家の事は全て私がやり、私の留守は人を雇い外には護衛も雇った。

一度だけ、サラから離縁の言葉を聞いた。


「私、本当は離縁しようと思ってたの。だってアーガスは帰って来ないし、色々な方と噂があるから手っ取り早く親を納得させる為かと思ってた」

「私はサラだから結婚したんだ。一番私の動きが分かり、アカデミーの時からずっと一緒に戦うならサラしかいないと思ってたよ。

それに君の事を一番分かるのは私だけだ」


色々な噂の意味は全く分からなかったが、私は自分の思いをサラへ精一杯伝えた。

人生とは戦いだ! 私もサラを勝ち取る為に並々ならぬ努力を要した。私の背中を預けられるのはサラしかいない!


私の思いが通じて、にこりと笑うサラが可愛すぎて直視出来なかった。


それからの日々は幸せの連続。潤んだ瞳で、ありがとう。なんて言われると恥ずかしがり屋のサラが精一杯私へ話しかけている喜びに浸り、私の私問題なんて些細な事のように思えた。

毎日、家へ帰ればサラが居る喜び。悪阻が治まればサラの手料理を毎日食べ、寝るまで傍に居る事を許されるのは私が夫になったからだ。


週に1、2度。私は深夜に出掛ける。

勿論、私の私問題があるから不貞なんてしない。騎士団員の恋愛相談を受けているだけだ。何故か私へ恋愛相談をすると相手と上手く行くと噂になり、騎士だけじゃなく文官からも相談されるようになったのは、ちょっとだけ意味がわからない。


しかし、彼らへ愛し合う事が如何に素晴らしいかを語ると、熱が入りしばしば朝になるが私とサラの幸せを分け与えていると思えば苦にはならない。


生まれた我が子は、私に似てると言われるが聡明で恥ずかしがり屋な所は愛しのサラにそっくりで可愛くて仕方ない。

しかも、私の私問題に対して愛しのサラは何も言わず受け入れてくれる。まぁ恥ずかしがり屋だから言えないのかも知れない。

そんな所も私は愛してるのだ。


職場復帰したサラ。私の妻なのに可愛いサラへ懸想する男達は後を絶たない。勿論、私は全て把握し秘密裏に話し合いで処理してるからサラは安心して魔術師生活を謳歌している。


2回目の結婚記念日の1ヶ月前、大規模な討伐へ向かう事となった。サラとライオネルの為、サプライズを考えていたのに、討伐へ行かなければならないとは。これは神々が幸せな私に嫉妬して試練を与えているとしか思えない。


遠方へ行くので、今回の討伐にサラは不参加。可愛い息子を連れて行く事もムリなので愛しのサラに会えない時間は、サラへの思いを毎日書き綴った日記をサプライズプレゼントにする事に決めた。


それなのに……


「この手紙は、何なんだぁぁぁ!!」


サクッと終わらせるつもりが、大量の害獣が出て1ヶ月もかかってしまった。

やっと家族に会えると家へ帰ろうとしたら報告書を出せと言われ渋々自分の机へ向かうと、愛する妻からの手紙があった。


名前がサラ・レーベルになっており、少し違和感を覚えたが恥ずかしがり屋の彼女からの初めての手紙に名前の事などすぐ忘れ。喜び勇んで開けたが内容はあまりにも衝撃的過ぎた。


浮気って何だ?

ライオネルの父親の欄に私の名前が無い?

新しい人が懐妊?


そうか、サラは私に会えず拗ねて結婚記念日にビックリさせようとしたんだね。

私がサラ以外を愛する事が無いのに、意外と情熱的だったんだ。新たなサラの魅力に私はメロメロさ!


私はそう結論付けて、サラとライオネルが待つ自宅へ帰ったのだが……



誰もいない。いくら愛しのサラの名前を呼ぼうと我が子の名前を呼ぼうと返事は返ってこない。


両親の所へ行き勝手に離縁を認めた事を責めたら、父に殴られ母には泣かれてしまった。


「私は浮気などしていない!!愛してるのはサラだけだ!」

「なら、この手紙は何だ!」


父から投げつけられた手紙を読む。


身体がガタガタ震えた。そうか怒りに震えると聞いた事があるが本当に震えるんだな。


「全て嘘です。私は私の私問題がありライオネル以外に子どもは出来ません」

「私の私問題とは何だ! 言い訳など聞かん!」

「私はサラ以外……初夜以降、誰とも閨をしていない!!」


なっ!……


固まる父、目を見開き私を凝視する母に。


「私は浮気どころか、サラが最初で最後の女性なのです!!」


ずっと隠していた事実に、二人は口をあんぐり開け固まった。


「では……本当に浮気などしていないと…」

「当たり前です。私はサラを心から愛している。私の私問題など些細な事、このまま一生サラを抱けなくても一緒に居られるだけで私は幸せです」


いち早く復活した母から、サラは魔術団長へ相談していたらしいと聞き。すぐさま魔術棟へ向かったが。


「その前にサラと私を別れさせようとした虫を駆除しなければ…」


魔術棟前から踵を返し、騎士棟へ向かう。


「お? 帰ったんじゃなかったのか? おいアーガス。顔が怖いが何があった」

「ああ、虫を駆除しに来ただけだ」

「虫? 本当どうした?」


いつも気さくに話す同僚が、振り向いた私の顔を見て息を詰めた。


「マルガリータが何処に居るか知ってたら教えてくれ」

「っ!マ、マルガリータか!?確か詰所に居ると思うが…」

「そうか。ありがとう」


私が礼を述べると、ヒッ。と顔が強ばる同僚を残し騎士団の詰所へ歩を進めた。


「マルガリータはいるか?」

詰所へ入りマルガリータを探せば、男性騎士に囲まれて談笑していた。


「アーガス!! 私に会いに来てくれたの?」


駆け寄ってきたマルガリータは満面の笑みを浮かべ私へすり寄ってこようとする。


「私がいつマルガリータを愛した? お前の嘘を信じて私のサラが居なくなったんだぞ!!」

「ああ…そんな事ね。だってサラとは初夜しかしてないんでしょ?」

「何故それを!」


クスクス笑いマルガリータが私へ耳打ちした。


「アーガスとの夜は素敵だったわ、何度も私を求めて」


私の私は、こんな虫と閨を共にしたのか?まさか…そんな事は断じて無い!!


「マルガリータ。私は君とどの様に過ごしたんだ?」

「それは、騎士団の皆で飲んだ時に酔ったアーガスを私が介抱して…」

「ほう。それから?」

「サラとは初夜しかしてないってアーガスが言ったのよ!」


詰所に居た騎士の1人が大きな声を上げた。


「ああ!! あの時か!」

「俺も覚えてるぞ、アーガスがついに浮気するかって」

「そうそう。マルガリータがアーガスを落とすと宣言してたからな。隣の部屋でナニが始まるのを皆で聞いてた」

「あれは傑作だったな。アーガスはサラの名前を叫んで寝ちまったもんな」


ガハハハハ!! 皆の笑い声にマルガリータの顔が真っ赤になる。


「ちゃんとシタわよ!!」

「嘘つくなよ。怒って部屋を飛び出したのも皆知ってる」

「マルガリータ。私を騙しサラに嘘の手紙を出した事。せいぜい後悔するんだな」


元々、男を侍らし騎士団の秩序を乱していたマルガリータ。今回の件で騎士団に居られなくしてやる、勿論それだけで済ますつもりは無い。


「何よ! 私に靡かない男なんてこっちからお断りよ!」


捨て台詞を吐き、マルガリータは詰所から出て行く。今逃げても、きっちり罪は償って頂くがな。




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