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拝啓、旦那様  作者: ring
1/3

前編

拝啓 旦那様


ぐずついた天候が続き、梅雨入りも近いと感じております今日この頃。如何お過ごしでしょうか。


さて、この度、私の不徳の致す所と重々承知しておりますが実家へ帰らせて頂きます。


旦那様におかれましては、新しい方との縁を結んで頂きたく勝手ながら義両親様の立会の元、私との離縁が済みました旨、ご報告させて頂きます。


もう少し私に旦那様を引き留める事が出来ましたら良かったのでしょうが、浮気に対して寛容になれず申し訳御座いません。


私との子であるライオネルは、新しい方が懐妊したと報告が御座いましたので連れて行きます。書類上も既に父親の欄は削除されておりますので、旦那様との関わりは全て無くなった事も合わせてご報告させて頂きます。


2年と短い間でありましたが、妻として嫌々ながらも一緒に過ごして頂き、ありがとうございました。


旦那様の、一層のご活躍を祈念しております。 敬具



サラ・レーベル。



******


「さぁ、ライオネル。かか様と一緒に行きましょうね」


1歳になる息子を抱き上げ、私は2年間過ごした屋敷を出る。あー!スッキリした!


彼の熱意に負けた両親が結婚を許したのが最初の間違い。


『ずっと私の事を見てくれてただろ? 恥ずかしがり屋の君は私へ告白なんて出来ないだろうと、私から君のご両親へ話をしたんだ』


頼んでない! しかも相手が何故あんたなのよ!


そりゃあね。行き遅れで魔術師なんてやって両親が私の結婚を焦ってたのも知ってたけど、絶対この日に実家へ帰れなんて手紙が来たら親不孝な娘としては、たまには親孝行しようかと、高いお菓子を持って家へ帰るわ。

父に呼ばれたのも、また結婚する相手の釣書かとげんなりしながら全て燃やしちゃえばいっか、とお気楽に思っていたら、


『今日、お前の結婚式だからな。付き合ってる人がいるなら早く紹介してくれれば良かったのに』


いやいやいや! オカシイでしょ?


抵抗虚しく私は、アーガス・タイゼンと結婚をしてしまった……


アーガス・タイゼン。子爵家の三男で私と同じ年。アカデミー時代から何かと目立つ奴だった。


騎士科と魔術科。年に三回ある合同演習は何故か毎回奴とバディを組んだ。

魔術科は、花嫁修業の一環で通う令嬢も多くて、奴の周りにはいつも肉食令嬢がワラワラいた。


騎士科らしく引き締まった体躯、キラキラ輝く黄金色の髪にスッとした鼻梁で、深い翠眼に見つめられるとぶっ倒れる令嬢続出であった。

それでもフェミニストなのか、誰にでも優しいから更に肉食令嬢達はヒートアップ。


ウヘー、面倒くさーい。


極力、お近づきになりたくない私にとって合同演習の日は、ため息製造機に早変わり。何故かって?


自分達のバディを無視して、強引に合流した肉食令嬢方が全く役立たず、逆に邪魔。

森に仕掛けられた標的を倒していかなきゃならないのに、


『キャー!! アーガス様。こわぁい!』

『アーガス様! ステキ!』

『ちょっと、あんた達が早くやりなさいよ!アーガス様に怪我させたら承知しないわよ』


毎回、コイツら……ご令嬢方を何度アカデミーへ全員転移させてやろかと思ったか!


だが、奴は違う。

『さぁ、私の後ろで待ってるんだよ。君達に怪我させたくないからね』


ウヘー。よくやるわ。

しかし、実力は確かにあるから奴と組むのは楽だったが、その度に肉食令嬢方から非難の目を向けられ、訳のわからん事を言われたり散々だった。

肉食令嬢方とバディになった騎士科の生徒とやるけどタイミングが合わない。面倒くさいから1人でやる、すると、いつの間にか隣に奴が居て標的は確実に倒せるが、肉食令嬢方が煩い。


無限ループ……


お昼、放課後、休日……

どこに居ても、ふらっと肉食令嬢方を引き連れ現れては去って行く。何がやりたいのか全く分からないけど、ぼっち生活を邪魔されたくない私は、場所を変え会わないようにするのに奴は現れて……


うん。無限ループ……


『アーガス様が行く先々で待ち伏せしないで!!』

『アーガス様が貴女なんか相手になさると思っていますの!?』

『アーガス様に近付かないで!』


あー、煩い。でも、二年間アカデミーへ通わないと魔術団に入れないから肉食令嬢方から逃げ廻りながら、何とか卒業して念願の魔術師になった。


やっと肉食令嬢達から離れて、ドキドキワクワクの魔術師になったのに…


「やぁ、サラ。これからも宜しくね」


目の前でキラキラオーラを思う存分輝かせているのは、騎士団へ入団したアーガス。何故に騎士と魔術師が対面してるかと言えば。魔獣被害が多い我が国では、要請さえあれば現地まで行き魔獣狩りをするからだ。


「アーガス殿。お久しぶりです、今回は貴方では無い方と行くはずでしたが?」


新人二人が行くなんて聞いた事は無い。指導役と四人がセオリーだが。

要請があった地域が王都から近い事、今回の害獣が弱い事から手練れの騎士とバディを組み、私は騎士の補佐として気楽に後ろから付いて行くだけと説明されたはず。


「先輩が急に体調不良になって、アカデミーでいつも私がサラのバディをしてたから、慣れたバディの方が良いと私が来たのだ」


「左様ですか、じゃあとっとと行って早く帰りましょう」

「サラは私の馬に乗って下さい」

「転移しますので、先に行って待ってます。では」


シュッ。と転移する寸前、何か言ってた気がするが奴の近くに居ると碌な事にならないと私の勘が言っている。


何度もアカデミー時代に行った場所であり、一足早く要請のあった森の入り口で待っていると、物凄いスピードで奴は現れた。


「今度から1人で行かないように」


と、爽やかな笑顔と仄暗い瞳で言われてしまった。奴の顔がちょっと怖いから、とりあえず頷き。森の中でさっさと魔獣倒して、帰りは爽やかな笑顔に押し切られ奴の馬で帰ったのだが。


「アーガス様! 任務ご苦労様です!」


肉食令嬢の1人。侯爵令嬢のバーバラ嬢が待ち構えた騎士団の正門前。運悪く一緒に騎乗した私を見つけワナワナされた。


学生時代にも散々嫌味を言ってきた相手でもあり、対面すれば面倒くさいから、さっさと魔術棟へ転移して任務完了の書類を出し寮へ帰る。

バーバラ嬢を女子寮の前で見かけて、転移で自室に戻ったが、やはり奴に関わると碌な事にならないと実感した。


楽しい魔術師生活を送っていたのだが、あれから駆除要請のバディが奴に固定されたのだけが不満。


15歳でアカデミーへ入り。17歳で魔術師になり、普通の貴族令嬢は二十歳前には結婚するが。男爵家と言ってもほぼ商人の我が家は領地も無く、弟も居るし金もある。

どこかと政略結婚もする必要が無い私は、のびのび成長して、のびのび魔術師生活を謳歌して、気付けば23歳。


そして届いた『不幸の手紙』。

この手紙をいつもみたいに無視していれば、奴と結婚なんてしなかったのに!




でも、意外と結婚しても魔術師生活は変わらず、騎士団と魔術棟の間位に家を借り、衣食住が変わっただけで済んだ。

初夜に何が起こったのか覚えていないが、翌日は身体が重すぎてまともに動けない私を、キラキラオーラなアーガスが、甲斐甲斐しく世話してくれたのは今も記憶に残っている。


まぁ、結婚しちゃったし、騎士の腕は認めているし、基本優しいし、私も妻として頑張ろうと腹を括った新婚時代。

魔術道具が大量にある為、ハウスキーパー等は雇わず全て自分でやり、料理は自分が美味しいのを食べたい欲求に従い作りまくった結果。毎日の食事に苦労もせず、騎士は毎日家へ帰れない事を知っていたから、最初の1ヶ月なんて、本当に私は結婚したのか? と考えた位。その後3ヶ月間アーガスが家へ帰る事は無かった。


相変わらず駆除要請のバディは奴だが、全く家へ帰る気配は無く、私は何か裏があると睨んだ。

すると、出るわ、出るわ。肉食令嬢方との密会の話や、未亡人と朝までコースの話。


ウヘー、マジかー。


地味でモテた事が無い私と結婚したいと思ったのは、うちの両親と同じで親が煩いから遊んでも文句言わない何とも思わない私を選んだ?

少しムカッとしたけど、一度結婚した実績があれば両親も文句言わないだろう。さっさと離縁したろうと準備してた時。妊娠が分かった。


「サラ!!大丈夫か!?」


キラキラオーラが無く、汗だくで医務室へ飛び込んで来たアーガスに妊娠を告げると、いきなり私を抱き上げくるくる回り喜ぶ姿に吐き気と共に。

(まぁ、こんなに喜ぶなら離縁は止めるか)

そう思った。


それから人が変わったように、毎日家へ帰ってくるし、甲斐甲斐しく世話を焼く姿に私はちゃんとアーガスと向き合って無かったと反省した。


「私、本当は離縁しようと思ってたの。だってアーガスは帰って来ないし、色々な方と噂があるから手っ取り早く親を納得させる為かと思ってた」

「私はサラだから結婚したんだ。一番私の動きが分かり、アカデミーの時からずっと一緒に戦うならサラしかいないと思ってたよ。

それに君の事を一番分かるのは私だけだ」


あー……これは恋愛感情じゃなくバディとしてか。


話し合いから数日後。アーガスが深夜に家を抜け出し明け方に帰ってくる事に気付いた。寝室は別、初夜以降、夫婦の営みは無い。まぁ妊娠中だからと思ってたけど、ライオネルが生まれても週に1、2度は深夜に出掛ける。イラッとしたがライオネルには優しく子煩悩だし、元々アーガスは私を女と思って無いからと見て見ぬふりをした。


魔術団は、出産3ヶ月後から復帰する事にしていた。背中にライオネルをくくり付け仕事をしていたが、同僚から聞いた話は相変わらず肉食令嬢方や未亡人との密会が続いていて、大丈夫か?と心配されてしまった。


「アーガスは私を女と見て無いし、ライオネルの事は可愛がってくれるから大丈夫よ」


イラッとしたが、言ってくる同僚が全て女性だから私を追い出し自分がアーガスの妻になりたいのだろうと確信。夫としては最低だが、父親としてはライオネルを可愛がってくれて満足している。浮気は私を女として見て無いから諦めていた。




しかし、2回目の結婚記念日2ヶ月前。私は再び『不幸の手紙』を受け取ってしまった。


マルガリータ。騎士団に所属する女性騎士。数多の誘いを受ける美人騎士としても有名な彼女から、私宛に手紙が届く。


内容は、アーガスと真剣なお付き合いをしていて、この度懐妊した。

私が妻としてアーガスと夫婦の営みが全く無い事も知っていて、愛の無い結婚からアーガスを解放して欲しい。自分はアーガスを愛してる、アーガスも自分を愛してる。


イラッとしたが。はい、そうですか。と言うのもムカつくので魔術団長へ相談し、私はライオネルと二人で同盟国である隣国へ、魔術師生活を送れるように秘密裏に動き見事隣国行きのチケットをもぎ取った。


結婚記念日1ヶ月前。アーガスの義両親へ話をしたら反対されたが、マルガリータからの手紙を見せると渋々納得してくれた。

自分の両親へは、離縁して隣国へ行くねー。と手紙を出し終了。


そして、2回目の結婚記念日に私はアーガスと離縁し、隣国へ旅立った。



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