表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Days 〜県立常盤追分高校手芸部〜  作者: ハシバミの花
第1話 春、愛と情熱のアロハ
5/35

第1話 春、愛と情熱のアロハ(4)

「で、彼らは何者だ?」

「それを最初にきくべきだったと思わない?」

 いつもながらポイントのずれた父に、直司は疲れた顔をみせる。

「ふうむ! お前にしちゃあ興味深い意見だ! で、何者なんだい?」

「彼らは……」

 どう紹介したものか。

——友達、ではないし、知り合い、いや、クラスメイト? いやいや。

 直司は迷う。

 ここまでの展開があまりにかけあしで、彼らとの間には説明できるほどの関係がきずけてない。

「はじめまして、辻亮治といいます。お名前は雑誌などで拝見しています。お会いできて光栄です」

「ちわ、沖浦っス」

「どおもー、藤野幸でーす」

「佐藤アンバーです。県立常盤追分高等学校、手芸部の部長です」

 なんと個性豊かな面々だろう。

 この状況をどう説明すべきか考えて、直司は気が遠くなった。

「ふうむ! それで?」

「ああ、うん……」

「アロハシャツ、なんですよー」

 横から口火を切ったのは藤野幸だ。

 佐藤アンバーが持っていた紙袋をひったくり、中から件のシャツを引っ張り出す。

「ほお、パウライダーか。生地、縫製、染めの技術から類推するに、これは1940年代後半のものだな」

 ピュウ、と佐藤アンバーが口笛を吹く。

 彼女がやると、そんな動作も嫌味がない。

「一目見るだけでわかっちゃうなんて」

 藤野幸が目を輝かせる。

「このシャツは、私のクラスメイト高峰という女子からあずかったものです。所有者は彼女の祖父、なにやら私に相談したい事があると言うので」

「同じ物が手に入らないか、という話でしたが?」

「そう、同じシャツが必要だ、とね。理由をきいてみたが、答えてもらえなかった。まあ一見してよいものだと感じたのでひとまずあずかってみた、という訳だ。で、部室で君らに相談したらそこにいるパッとしない男子がいて、その伝手でここに来た、という流れでして」

 佐藤アンバーは淡々とここまでのゆきさつを説明しつつ、ナチュラルに直司をおとしめ、そして靖重に話をもどした。

「同じウェアというのは、まず不可能だろうね」

 靖重はあっさりと言う。

「タグを見てほしい。Manoa Sunrise(マノアサンライズ)ってあるだろう? これは、1930年代にハワイのオアフ島に発足したリゾートウェア・ブランドで、中堅ながら良質な製品を生産していたが、50年代経済が急速に成長する中、アメリカ本土が経営する大量生産ブランドに吸収され、時代と共に縮小し、70年代に経済のトレードオフが進んだ際に部門ごと消滅した。そして80年代末会社は倒産、現在は跡形も無くなった。工場も機械も型紙も製造工程も、すべてが失われた」

「難解な単語が頻出しましたが、つまり、流転の末に会社ごと無くなっちゃったわけですか?」

「ま、そうだ」

「ですが、アロハならヴィンテージマニアにコレクターも多いですし、そういうところを当たれば」

「念入りに探せば見つかるかもしれないが、彼らが手放すと思うかね? 労力を費やして集めた大事なコレクションだ。その思い入れは、君らのような若い人間でも多少は理解できるだろう?」

 うーん。一斉に黙り込む。衣料に並々ならぬ関心があればこそ、それは心に染みる一言だった。

「じゃあ、新作として作ってもらえないですか? これだったら、欲しがる人もいると思いますし」

 藤野幸が言う。

「今現在主流の柄ではないし、アロハはそもそも夏服というイメージが強い。長袖も作られはじめてはいるが、回転しにくい。工場の手配やらなにやら今からはじめて半年はかかる」

 うーむむむ。高すぎるハードルに、雰囲気は更に重くなる。

「あの、いいですか?」

 直司が手を上げる。

「そもそも佐藤先輩のお友達は、なぜそのシャツと同じものを必要とされてるんでしょうか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ