第3話 初夏、反抗とプライドのエナメルシューズ(10)
どうしてこんな休日になったのだろう。
バッターボックスに入って足元をととのえながら、直司は考える。
「打てよー! トッポいにーちゃん!」
「ヘイヘイピッチャーびびってる!」
ワンナウトランナーなし。
マウンドの沖浦将が、自信たっぷりのワインドアップを見せる。
そして矢のような投球。ボールはエグい音をたてて空気を切りさきミットにおさまった。
「ナイスピー!」
キャッチャーの辻亮治が、マウンドに返球する。
河川敷の草野球、中高年で構成された2つのチーム。
そこに乱入し、直司ほか3名は両チームにわりふられた。
三階の裏、直司の第一打席。
ちなみに両チームのおっさんたちは、全員例外なく酒が入ってる。
地面は空き缶と一升瓶がいくつも転がっている。
どうにも納得できない気分で、直司は再びバットをかまえた。
沖浦将の第二球目は、顔面ギリギリの危険球。
「……まさか、狙ってないよね」
「そんなわけあるか。バカぢからがコントロールできないだけだ」
辻亮治がうけおった。
直司としてはそれを盲目的に信じたいのだが。
「将な、」
「うん?」
「妹、いるんだ。ちい香ちゃんって子だ」
辻亮治の声は小さい。
直司にだけ聞こえるようなささやきだ。
「大病を患ってて、ずっと療養所で暮らしてる。たまに外食なんかに出られたんだが、それもここ一年はご無沙汰だ」
第三球はアウトローのボール球。
これでワンストライク、ツーボール。
「その子が、桃、好きなんだね。時々いくっていうのが、あのお店だったんだ」
「お前は察しがよくてたすかる。それで、お前の妹を相当気にかけてたようだった」
「え! ……それは」
第四球はど真ん中。
直司は盛大に空ぶりした。
「案ずるな、女の子としてみてたわけじゃない。背格好は似てないが、莢音ちゃんになんとなくちい香ちゃんの面影を重ねたんだろう。昨日は相当駆けずり回ったようだ。お前の妹を探しにな」
辻亮治の返球を、沖浦将が軽くうける。
「そっか、お礼、言っとかないとね」
「一応気にかけといてくれって話だ。お前はもう、俺たちの仲間の一人なんだから」
辻亮治の言葉に、直司の胸が不意に熱くなる。
「……ありがとう!」
第五球目もど真ん中ストレート、直司はその球を、思いっきりひっぱたいた。
三遊間の深いところを転がったボールを、ショートが飛びついて止める。
直司は懸命に一塁を目指す。
ショートはヒザ立ちのままボールをサードにトス、サードが矢のような送球を一塁に送る。
「つっこめ明星! セーフだったらキスしてやるぞ!」
佐藤アンバーが大声をはりあげた。
「「「「「「何ィ————————————ッ!!!!!」」」」」」
辻亮治と沖浦将、そしておっさんたちのどよめきがひびきわたった。