第3話 初夏、反抗とプライドのエナメルシューズ(5)
直司にとって、莢音の行き先は探すまでもなかった。
自宅から少し離れた公園で、莢音はいつものブランコに座っていた。
嫌なことがあると、莢音はいつもここに来た。
「忘れ物」
直司は莢音に荷物をさしだす。
学校指定のカバンと小さめのスポーツバッグ。
もち手のつけねに流行おくれのキーホルダーがいくつもついていた。
莢音はカバンを受け取らなかった。
ただ地面をにらみつけていた。
「手芸部に入部したことも、バイトを始めたことも隠してたわけじゃないんだ。ただ自分の中で納得と言うか、整理する時間が必要だった。僕にとって高校生活は、まだ全然安定してないから。弱音とか吐きたくないし、心配も掛けたくない。莢音や母さんや兄さん姉さんも、今は大事な時期だろ? 無理言って父さんの元に残った僕が、みんなの負担になるわけには行かないよ」
「どう、して、なのよ」
どうして一緒に古西の家にきてくれなかったのか。
あんな、家族をかえりみない父の元にのこったのか。
そう言いたかったが、声にならなかった。
かわりに涙がこぼれおちた。
「父さんは一人じゃ何もできない人だから。母さんにはみんながついているし、莢音は、僕がいなくても大丈夫だろ?」
莢音が激しく首をふる。
休むことなく、何度も首をふる。
後ろでツインに結んだ髪が揺れた。
「……そうか、ごめん。もう莢音をほっておいたりはしないから。それでいい?」
莢音は答えなかった。
「後で、藤野さんに謝りにいこう。いいね?」
莢音は答えなかった。
だけどそれは肯定を意味する沈黙だと直司は知っていた。
二人が肩をならべて自宅にむかうのを辻亮治が見かけたのは日暮れ前だった。
「ええ、公園を重点的に探したのが功を奏しました。明星の自宅地域は聞いていましたから。はい、声はかけませんでした。二人が会えたのなら、妹さんは心配いらないということですから」
『判った。有難う。——ところで将は?』
「無事そうだというメールだけ打っておきました。あいつには駅方面を探してもらいましたから。将のことだから、相当かけずり回ったはずです。きっと思ってもない文句を一杯言うでしょうね、あいつは幸にもおとらないバカなので」
辻亮治はいじわるげに笑った。
「明星は無事妹を見つけたようだ。私たちも帰ろう。今日はバイトの予定、無いんだろう?」
完全に自失している藤野幸を、佐藤アンバーが優しくうながした。
藤野幸は粘土アニメのようにぎくしゃくと立った。