第3話 初夏、反抗とプライドのエナメルシューズ(3)
直司が校門に急ぐと、果たして莢音はそこでまっていた。
そして、最初っからつんけんぷりぷりしていた。
「しんっじらんない……! ふつう妹からの電話で誰かとか聞く?」
「ごめん、相手確認せずにボタン押しちゃったから」
小走りでやってきたので、直司の息は少しあらかった。
とにかくどこかに腰をおちつけよう、喫茶店、いやバイト先なら割引きがきいたはず、みたいな吟味をしていると、
「で、この人たち、誰?」
「へ?」
妹の視線に誘導されてふりむくと、
「やあ、君がサヤネちゃんか!」
「こぉんにちわぁー!」
ほがらかに会釈した佐藤アンバーと藤野幸、そして無言でたたずむ辻亮治と沖浦将。
つまり手芸部全員の姿が。
〈〉
結局、腰の落ち着け先はバイト先のバーガーショップになった。
従業員割引きチケットで人数分のドリンクを買い、まだ夕方のラッシュ前で空いている二階客席の一角を、六人で占拠した。
「やあ明星君、もしかして合コンかい? うらやましいね!」
客席を清掃に来た店長が能天気に声をかけた。
男子三人に女子三人、うん合コンに見えなくもない。
そのやり取りを気いて、莢音が直司をにらみつけた。
「あのね、先月からここで働いてるんだ。そうだ、割引券いる? 一応全チェーン店有効なんだけど……」
莢音は直司をドロ目で見つめている。
なにかが気に入らないようだ。
「………………………………で?」
さっさと説明しろ早くしろ今すぐしろと、莢音が視線で兄を威圧してくる。
「えーっと、まずこちら、うちの学校の三年生、佐藤アンバー先輩」
「佐藤アンバーだ。よろしく。明星クンには公私共々お世話になっている。是非君とも仲良くしておきたい」
佐藤アンバーは愛想よく挨拶し、そしてとびっきり魅力的なウインクをして見せた。
直司に。
「………………………」
莢音の中でなにかが渦巻いている。
誰? この女、うざ、とか、そういう感じのどす黒い感情だ。
「こちら、クラスメイトの藤野幸さん」
「こんにちわぁ、あなたがサヤネちゃんだね。お話は聞かせてもらっていまーす」
直司本人には莢音に関する具体的な話をした記憶が無いが、藤野幸は気にせず笑っている。
「………………………………………………」
莢音の中でなにかがうずたかく積もっている。
この女性たちは何者で、お兄ちゃんとどういう関係なの? みたいな鬱屈が。
「こっちの二人は、辻亮治くんと沖浦将くん、えーと、同学年なんだ」
「辻です、よろしく」
「沖浦だ」
二人の仏頂面は毎度のことだ。
が、そのすぐ下にはち切れそうな笑いの気配を、直司は敏感に感じとっていた。
「………………………………………………………………………」
危険だ。
莢音の中でなにかが決壊しようとしている。
早急なる対応が必要だ。
ただ一人それを察した直司だが、一体なにをどう対処したものやら見当もつかない。
「で! この人たちは誰?」
「い、や、だから……」
顔面あぶら汗まみれの直司だ。
なんとか細かい説明をごまかせないものかと、さっきからつながりの悪い脳細胞をフル回転させていたのだが、
「われわれは県立常盤台高校手芸部のものだ」
佐藤アンバーがあっさりとばらした。
「そう! 私たちは彼の手芸部仲間なのさ!」
外国の青春ドラマで主役をはれそうな素敵な笑顔で、声高らかに言ったもんだ。
「手芸、部、って……………………………!」
「放課後みんなで集まって、手芸するの。作りたい服決めてー、型紙作ってー、生地を裁断してー」
「刺繍や裁縫、編み物などもおこなう」
「洋服の丈を直したりもするな」
「どぅおっしてぇ——?!」
莢音がとうとつに爆発した。