第3話 初夏、反抗とプライドのエナメルシューズ(1)
その日直司は、郵便受けに一通の手紙が入っていることに気がついた。
『直司さん、お元気にしてますか? こちらはつつがなく過ごしています。』
そんな挨拶に始まり、かしこまった文面で自分たちの近況報告、そして本題。
『みんな直司さんに会いたいと、口々に言っています。も、普段どおりを装っていますが、あの子の机の引き出しには、靖重さんと直司さんの写真がずっと入ったままです。いずれ時間を見つけて、遊びに来てください。素直になれないあの子ですもの、どんな天邪鬼をしでかすかわかりませんけれど、お兄ちゃんの役割と思って、我慢してあげてください。それでは、梅雨空つづきますが、なにとぞ御自愛下さいますよう。乱文乱筆失礼しました。古西彩』
差出人は古西彩。
直司の母親だった。
「明星君、妹さんがいるのよね?」
昼休み、藤野幸と直司は机をはさんでむかいあっていた。
「うん。それと姉さんと兄さんも」
「ふうん。妹さんってなんて名前? いくつ? どこの学校に行ってるの?」
どういうわけか藤野幸は、直司の妹に興味しんしんだった。
妹以外の家族のおぼえがぞんざいなのは、愛嬌と言えるかもしれない。
直司のように欲目で見られれば。
「名前は莢音。13歳。お母さんの実家でお世話になってる」
「ふうん、サヤネちゃんかあ。良いなあ、妹さん。私も会ってみたいなあ」
「そういえば、僕も長いこと会ってないや。高校に入ってからは忙しかったから」
「そうなの? じゃあ会いに行こう! この週末に行こう! 楽しみだなーんふふ。なに着てこうかしら」
呆気にとられている直司を尻目に、藤野幸は一人勝手に盛りあがる。
——……なんで藤野さんが着るものを考えているんだろう。