第2話 盛春、三姉妹のボウリングシャツ(10)
そして、20周年記念イベントの日が来た。
「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか! こちらでおめしあがりですか? かしこまりました! それではご注文をどうぞ!」
休日のレジ前は、朝からフル回転だった。
店内には上陸当時に放映されたテレビCMが流れ、当時と同じユニフォームで身を固めた店員は、客席からの注目を、大きく集めた。
相乗効果で店内はかつてないほど活気づいていた。
「なあ、様子を見にきたよ」
昼前、靖重も顔をだした。
レジ対応は藤野幸だ。
「あ、いらっしゃいませー。二階なら空いていますよ。禁煙席ですけど」
「いや、僕も店番があるからね。テイクアウトで。お嬢さんのおすすめはどれかな?」
「セットメニューがお安くなっております」
靖重はチーズバーガーをたのむ。
「このチーズバーガーが、クロック姉妹のお店で一番の人気商品だったんだよ」
ウンチクをひろうする靖重に、藤野幸はきょとんとした。
「クロック姉妹って、なんですか?」
「直司に聞いてごらん」
靖重のウインクはこなれていて、きっとたくさんの女の子にも見せたのだろうと藤野幸は推察する。
「チーズバーガーセットツー! ドリンク、ダイエットコーラです!」
「はあい、ただいま!」
バックヤードでオーダーを受けたのは直司だ。
てきぱきと動く姿。
直司もいつの日かあの父親のような素敵なウインクをするのだろうか。
「明星君、クロック姉妹って、なあに?」
「え?」
たまりにたまったフライドポテトのオーダーを、かたっぱしからやっつけていた直司が、驚いたように手をとめる。
「あ、ごめん。あとでいいや」
ダイエットコーラを注ぎおえ、ポテトフライのSを手にレジへともどる。
支払いをおえた靖重は、
「さあ、失意のカウチポテト生活もこれでおわりだ。そのユニフォームは、僕にも思い出があってね。久しぶりにサンディエゴの風を感じられてうれしかったよ。ではまた」
靖重は軽い足取りで店をあとにした。
父親の来店に気づいていたのだろうか、直司が作業をつづけながらほほ笑んでいるのを、藤野幸は気づいた。