表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Days 〜県立常盤追分高校手芸部〜  作者: ハシバミの花
第2話 盛春、三姉妹のボウリングシャツ
17/35

第2話 盛春、三姉妹のボウリングシャツ(5)

「ただいま」

 家に帰ると、玄関に靖重の物らしいブーツが脱ぎ捨ててあった。自分のスニーカーと一緒にそれをならべ、ダイニングをのぞく。

 三人がけソファーの上で、靖重が酔いつぶれていた。

 ほとんど空になったスコッチの壜と、飲みかけのまま放置されているグラス。

 ロックで飲んでいたのだろう、アイス容器とタンブラーには、ずいぶんと雫のついた跡があった。

 床には二人が新婚当時のアルバムなどが散乱しており、息子としては幻滅することこの上ない。

 直司はテーブルの上をすべて片づけ、グラスの中身を流しに捨てて、スコッチの壜には麦茶をなみなみと注いでおいた。

 知らずに飲めば驚くだろう。

 もしかして、気づかないかもしれない。

 酔っぱらいというのは、まったくしまつのわるい生き物だった。

 別居中の母親との離婚が成立していらい、父親は毎日飲みつぶれるようになった。

 最初は同情していた直司も、そろそろあわれむ余裕がなくなり、だんだんと父親を正気にもどす手段が容赦なくなってきている。

 家捜ししてアルコール類をかきあつめ、屋上、瓦葺(かわらぶき)の屋根のうえに作られたもの干し場に、壜の口を全部開けて置いておいた。

 靖重が発見したらさぞなげくだろう。

 高い酒の風味がだいなしになったとか言って。

 それでもまだ酒びたりになるのなら、次は中身を全部捨てようと直司は思っている。

 腕をくんで木製の手すりによっかかる。

 夕焼けがでていた。

 遠くの空がとても綺麗で、それが少しさびしいと直司は思った。



 次の日学校にゆくと、

「帰るまで待っててくれると思ってたのにー」

 藤野幸が甘えた声で直司に言った。

「ごめん」

 直司はあやまった。

 アルバイトは順調に日数を重ね、仕事もじょじょに板についてきた。

 なんとなくシフトも固定され、直司は水木曜日と連ちゃんで藤野幸と一緒に働くようになった。

 他の店員とも顔みしりになり、四人グループで二人分の時間を切り回しているのだというと、珍しがられた。

「20周年のイベントがあるんだよね」

 三週間ほど経ったある日、店長が言った。

「このお店ができて、もうそんなになるんですか?」

 店がまえが新しいので直司がおどろくと、

「そうじゃなくて、このチェーンが日本に上陸してからの年数で、二十年なの」

 説明されて、直司はなるほどと思った。

「全店で期間限定メニューをやったり、特注ののぼりを出したりするんだけど、各店舗で自由にできる予算枠があるんだよ。それで、なにかアイデアを募集してるんだ。君たちも、なにか思いついたら提案してみてよ」

 店長は、特段期待もしていないふうで言った。

 他の三人も同じような話をされていたらしく、バイト前の時間など、自然に話題にあがった。

「それで、なにか思いついたのかい?」

 佐藤アンバーが、優雅に紅茶を含みながらきた。

「うーん、まあお店に飾り付けするとか、サンダース人形にかわいい服着せるとか」

「レイクロックにサンダース大佐はいない」

「しかもありきたりだ」

 藤野幸の何の気なしな思い付きを、やや強い調子で他二名が却下する。

「じゃあ二人はあるの? なにかアイデア」

 聞き返されると、どちらも難しい顔をした。

「有るには有るんだが、実現は難しい」

「ネックは、金なんだよな」

 店長から提示された金額が、充分でないというのが二人の言い分だった。

「それっぽっちじゃ、広告もうてねえし」

「人目を引きたくとも、店舗を大々的に飾れない」

「手作りでいいじゃない。色紙の輪っかとかーきらきらのリボンとかー」

 藤野幸が、うきうきしながら言う。

「小学生のお誕生会じゃないんだぞ」

 辻亮治が、面倒臭そうに言う。

「いいと思うけどなー手作り。かわいいしー、暖かいし」

 藤野幸の飾りつけた店内を、直司は見てみたいと思う。きっと,クリスマスのようなフワフワしたものになるだろう。

「明星は、なにかアイデアが無いのかい?」

「僕ですか? 一応考えてみたんですけど、」

 直司は申し訳なさそうに切り出す。

「ただそれをやるには、僕じゃなくて、みんなの手を借りなきゃいけなくて」

 全員が直司を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ