第2話 盛春、三姉妹のボウリングシャツ(2)
一応弁明しておくと、直司の暮らしはそこまで貧乏でもない。
現時点で衣食に不自由はないし、住処も借家ながら一軒家。
老朽化は進んでいるが、直下型の大地震でも来ないかぎり、まだ十年は暮らせるだろう。
その直司が、なぜそんなに危惧をいだいているかというと。
「うちは、借金が多いんです」
「ああなるほど。事業をやっている家はどこもそうだ。持ちビルでもないかぎり、金策に駆けずり回ってやっと店をだしている」
佐藤アンバーがうなずく。
「そうなんですか?」
藤野幸がきく。
「ショップ・BRIGHT☆STARはその筋でなら有名店だが、いわゆるマニアックなジャンルの店で単体で大きな利益を出すのは難しい。安売りの大型店や、海外有名ブランドの専門店でもなければ、今日日そうそう儲かるものでもない」
「そうなの?」
辻亮治が語り、藤野幸がきく。
「アパレルのほうも、最近やっと全国展開し始めたって段階だ。当たればでかいかもしれんが、コケりゃ大損。ここ一二年が勝負だな」
「そうなんだあ」
沖浦将が編み物まじりに言うと、藤野幸はふんふんとうなずいた。
辻君より、沖浦君のほうが藤野さんと仲いいのかな?
内心おだやかでない直司だ。
入学してそろそろ一月になんなんとするのに、いまだ手芸部員のプライベートをほとんど知らない。
「そんなに危機的な状況なのか?」
「今はそうでもありませんが、小学校ぐらいがひどかったですね。特に三年生の三学期。三食ろくにないありさまで」
「サンサンサンのフィーバーか。オイチョカブなら嵐だ」
さわやかに笑う佐藤アンバー。それから思い直して、
「ああすまん、不謹慎だったな。今のは謝罪する。悪かった」
「いいえ。別に構いません。——まあそんなわけで、いつか自分がオトナに、正確には就業できる年齢になったら、自分の食いふちぐらいはかせいでおかなくちゃって思ってました。それで、部活を休みたいと」
「そんなに毎日働く気なのか? 週2・3回にしておいたらどうだ? 年度初頭に学業でおくれをとると、とりもどすのが大変だぞ? 部活もできんし」
佐藤アンバーが親身になる。
ちなみに言葉のウェイトは、後ろにいくほど重くなっている。
「なるほど。じゃあ最初はひかえめにしておきます。働いて勉強がおろそかになるんじゃ、たしかに本末転倒ですもんね」
「ああ、ここは端切れならあるが大きい生地が常に不足している。お前の上納金、楽しみにしてるぞ」
「はい」
あれ? 直司は首をひねる。
何でそのお金を、部活動に使うことが決定しているんだろう。