表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

寝取られビデオレターが届いたが観ずに食べてしまったため、なんの用件か聞くためにビデオレターを送った

作者: しいたけ

 朝から多忙を極め、昼飯すら食べていない俺は、家に届いていたビデオレターを空腹のあまり食べてしまった。


「やっぱりごまダレにしとけば良かったな……」


 包み紙に書かれていた宛先は、友人の田原。

 なんだろう。最近仕事が忙しくて会えていなかったが、何か伝えたい事でもあったのだろうか?


「仕方ない。俺からもビデオレターを送るか」


 久々のやり取りにビデオレターを選んでくれたのもあり、俺は同じようにビデオレターを送ることにした。


「──コホン、あー、田原? 久しぶり。元気? 俺は元気」


 ソファに座りビデオカメラに向かって話しかけるが、些か緊張して上手く話すことが出来ない。


「ビデオレター、ありがとな。久々にお前から連絡貰って、嬉しかったよ……ただ」


 水を一口飲み、息を整える。ここからが本題だ。


「あー、あのさ……お前から貰ったビデオレターさ、食べちゃったんだよね……だからさ、中、観てなくてさ……悪ぃ。もう一回だけ送ってくれないかな?」


 そっと立ち上がりビデオカメラを止めた。

 仕上がりを確認、自分の声の違和感についてはスルー。

 そして職場でほかの荷物と一緒に、送ってもらった。




 ──田原から新たなビデオレターが届いたのは、それから三日後だった。


 俺は仕事終わりの空腹を何とかこらえ、手にしたごまダレを今一度冷蔵庫へとしまい込む。代わりに女子社員から貰ったまましまいっぱなしだった10円チョコを口へと放り込み、ビデオレターをセットした。


「──山本。俺だ。田原だ……」

「おっ」


 久々に目にする友の顔に、思わず顔がほころぶのが分かった。懐かしい。過去の有象無象の記憶が次々と蘇った。


「あのさ……お前から貰ったビデオレターの事なんだけどさ……」


 田原は妙に言葉の切れが悪く、頻りに頭を掻いては何か言いづらそうに顔をしかめている。まさか──


「……食っちまったんだ。何言ってっか分かんねぇと思うけどさ……これが旨くてよ」


 どこかで目にした、耳にした言動だった。


「そんとき無性に腹減っててよ」


 まんま俺だ……。


「しかもごまダレが合うんだよ……」


 やられた!

 田原はいち早くごまダレとの相性に気が付いていたのか!


「だから中観てねぇんだ。もう一回送ってくんねぇ?」


 何か吹っ切れた俺は、素早くビデオを抜き、冷蔵庫から荒々しく掴み取ったごまダレをビデオレターへとふりかけ、ひと思いに齧り付いた。


「クッ……! 一度ビデオ機に通してるから温くなってる……!!」


 やはりビデオレターは鮮度が命らしい。

 ごまダレとの相性は抜群だが、温いビデオは食べられたものじゃなかった。


「クソッ!」


 俺は田原に一言文句を言ってやりたくて、ビデオカメラを回した。


「……おい田原! ごまダレが旨いって最初に気づいたの、俺だからな……!!」


 たった一言。それだけが言いたくて、再度田原へとビデオレターを送った。

 田原からの返事があるかどうかは期待できなかったが、俺はそれからずっとモヤモヤしながら生活していた。




 ──返事が来たのは四日後の事だった。


「来た……ッ!!」


 ごまダレを手にし、無心で蓋を開けた。

 逆さにしてぶちまけるだけとなったビデオレターだが、俺の心の中に住まう何かが、グッと俺の手を止め、何かを伝えたそうにしていた。


「……ちっ」


 ごまダレを一度置く。

 分かっている。田原は俺と同じくごまダレに気が付いた奴だ。もしかしたらごまダレ以上の何かが、このビデオレターに入っているかもしれない。そう思ったのだ。


「……あー、山本へ。田原だ。何度も悪ぃ」


 ビデオレターには、テーブルにつく田原が映し出された。白い皿の上には俺が送ったビデオレターらしき物があった。


「多分よ、これ観たら鮮度が落ちるだろうからよ、観ずに食うわ」


 流石は田原だ。既に鮮度にも気が付いている。油断ならぬ奴だ。


「でよ、俺気が付いたんだけどさ。下茹ですっと臭み抜けてメッチャ美味ぇぜ?」


 俺は開いた口が塞がらなかった。

 確かに、確かに僅かながらビデオレターには臭みがあったのだ。だが、俺はごまダレとの絡みばかり気になって、肝心の素材を生かした調理法へと目が向かなかったのだ……!!


「ホホ、美味ぇ」


 ビデオの中で田原はごまダレビデオレターに一心不乱に齧り付いている。その顔を見れば分かる。絶対に美味い、と。


「山本、悪ぃけどもう一回送ってくれや! じゃな」

「チクショウ……!!」


 思わずテーブルを殴り付けた。

 ごまダレに気が付いた事に有頂天となっていた俺、そしてごまダレに飽き足らず先を見据えた田原。勝負の差は歴然だった。

 俺はその日、人生で初めて本気で泣いた。


 それから俺は必死にビデオレターの美味しい食べ方を研究し続けた。だがその間にも田原はより成長していると思うと、何一つ満足する気にはなれなかった。




 ──数年後、田原がMDの食べ過ぎで死んだことを人づてに知り、心に穴が開いたような寂しさを覚えた。

 気が付けば俺ももうすぐ四十を迎える。独身には辛すぎる訃報だ。

 田原の墓にはごまダレビデオレターを供えてやった。もう競うことも出来ないのが、ただただ悲しい。


 それから俺は奴の命日には、塩揉みしたのちに麹で炒めムニエルにした寝取られDVDを食べることにした。俺の人生でごまダレビデオに次ぐ大発見だ。

 寝取られものでなくてはこの味は出せない。

 お気に入りの寝取られDVDを冷蔵庫から取り出し、友を思いながらそっとカバーを開けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] イイハナシダッタノカナー
[一言] こういうぶっ飛んだ思考がないと物書きってできないのかなって思いましたマル
[良い点] もう、全くもって意味わからんのに面白かったです。 マジでシュール。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ