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酷く、蝕む  作者: リスト
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令嬢の騎士

ティアリア・ローバッハ侯爵令嬢。

宰相閣下のご息女であり、現王太子のレイモン・アールランド殿下の婚約者。

気位が高く、高潔。

近寄りがたさを感じるが、一度懐に入れた者にはとことん甘い。

金の巻き髪に、青い瞳。

控えめに言っても、美しいと形容される方だった。


ローバッハ侯爵家の縁戚であるヘイズ子爵家。

そのヘイズ家の三男である俺は、剣の素質を見込まれ彼女の騎士へと抜擢された。

彼女が12、俺が15の時の事だ。


「あなたが私を守ってくださる騎士様ね」


初対面時、吊り目寄りの瞳を細め、品定めするようにこちらを見つめる彼女に少し戸惑いを覚えた。

随分大人びた子だな、それが彼女の第一印象。


「あら、私を守るのがあなたの仕事でしょ?」


危ないから貧民街にある孤児院に行くのはやめてほしいと苦言を呈した俺への一言。


「そうですけど…何も自分から危ない所に行かなくても…」


「まぁ。あなたは私に物知らずな王妃になれとおっしゃるの?真に目を向けるべき場所はどこなのか…私の騎士様なら分かってくださるわよね?」


“私の騎士様”

その言葉がなんだかくすぐったくて、嬉しかった。


「ふふふっ、お父様には内緒よ?アーデン」


幼い頃から淑女と呼ばれる程の教養を見せる彼女の、たまに見せる年相応の顔。


「まぁ!まぁ!あなたは物知りなのね!凄いわ…こうすれば良いなんて考えつかなかった!」


孤児院の子供達と一緒になって遊び、笑い、時に市井で生きる為の彼らの知恵を学び、驚き、感心する。

彼女がそんな態度だからか、その場においてあまり身分の差という物を感じなかった。



「お嬢様ってば!もう、どこでこんなに汚して…アーデン様。その顔…何かご存知ですね?」


彼女付きメイドのリアは、今ではもう没落した男爵家の娘らしい。

彼女とは幼少の頃からの付き合いで、彼女の1番の理解者と言えるだろう。


「ふふ、今日はお父様が帰ってこられる日なの。だからどうしても食べていただきたくて…」


「高位貴族の御令嬢は料理なんてなさいません!…まったく…ふふ、旦那様も喜んでくださるでしょうね」


顔を見合わせ笑い合う彼女達を見ると、一種の疎外感を感じる。

でも、微笑む彼女達を見ているのは悪い気分ではない。



「あ、そうでした。レイモン殿下からお手紙が届いておりますが…」


リアが差し出した封筒には、確かに王家の印がある。


「ありがとう。………はぁ…くだらないわね」


手紙の内容が分かる様にわざと書面を広げて見せてくる。


「………は…?…おっと。すみません、つい」


内容を見て思わず声が漏れた。


【来週の夜会には、ケニーと参加する。

故にそなたのエスコートは行わないので、そのつもりで】


ケニーとは王太子が寵愛しているという男爵令嬢の事か?

彼女の話に度々出てくる。

なんでもロッド男爵が遊びで手を付けた踊り子の娘だそうで、最近まで母親と共に公演の為に各国を渡り歩いていたとか。


「最低限、婚約者としての義務は果たしていただきたい所ですけどね。…まぁそんな事を言っても、殿下は変に曲解なさるからあまり言いたくないですし…」


直近のものではあれか。

『婚約者以外の異性とみだりに触れ合うのはよろしくない』と言えば、『自分が愛されないからと言ってケニーに当たるな!』だったか。


護衛騎士として視察に向かう彼女に着いて行った先での出来事だったからな…俺もリアも一瞬何を言ってるのかわからず、唖然としたものだ。


「まぁ…殿下の事はどうでも良いです。それより来週の夜会のエスコート役ですけど、お願い出来ますわよね?アーデン」


彼女の微笑みに心臓が音を立てる。


「…謹んで、その栄誉を賜ります」


目を伏せ小さく会釈をすると、クスリと笑う声が聞こえた。


俺は彼女にとって異性ではなく、ただの騎士である。

例え家族以外のどの男より親しくとも、ただの騎士である事には変わりがないのだ。


彼女は王太子妃になり、王妃となる女性だから。


…別に残念だなんて思ってない。



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