【番外編】祭りのあとは 10
「そうだな」
いきなり一人で何か納得したロジオン様がなぜか目をキラキラ輝かせて私の顔を覗き込んできた。
しかもその後、逞しい腕で私を抱き上げたと思ったら、いきなり頬擦りされた。
「うぎゃー、何しましゅか!
近いでしゅよ!」
魔王様にはお髭というものがないのか、髭剃りあとのようなざらざらした感触はないけど、神々しいイケメンフェイスをいきなりくっつけるのは止めてください!
幼児の手で押しのけても、笑って「照れるな」と押し切られ、しかも何やら「よし」と意味不明の納得のお言葉を吐いたロジオン様。
何が「よし」なのかさっぱりわかりませんけど?
「ロジオン、どうしたのだ?」
「いや。ネティ、俺は運命を今感じたのだ。
エーミール、セシルがカイルの嫁にならん時は俺の嫁にくれ」
「へ?」
「え?」
「は?」
これは返事にならない声を出した私、お父様、ネティ様の順。
えっと、さっきの言葉は何かの呪文ですか?
それとも私の耳が変な異音をキャッチしましたか?
「あ、あのロジオン様。何を……」
健気に聞き返したお父様。いや、顔が固まって顔色真っ青にするくらいなら聞き返さなくてもいいし。
「あの姿に耐えられてしかも一緒に居られる連れなどずっと見つからんと思っていたんだ。
だが、子供のカイルの初恋相手を横取りするのも気分が悪いからな」
えっと、あの、その……。
いやはや、ロジオン様。ネティ様のお兄様だから見てくれは全く問題ないんですが、なんとも味気ない「嫁にくれ」宣言。
「ロジオン、本気か?」
驚いているのか呆れているのかわからないネティ様の真顔。
「ネティ、その言い方はないだろう。
俺のあの姿に耐えられるものがこの世にいたとは。
きっと、セシルは俺の嫁になるために生まれてきたんじゃないか?」
「へ?」
「えっと、ロジオン様、あの?」
「ロジオン、頭でもやられたか?」
これは意味が分からず言葉にならない声を出した私、辛うじて真面目に対応しようとするお父様、完全に呆れ顔のネティ様の順。
「いや、まともだぞ。
そうだ!
今、俺に微かな未来の一つが見えた。
セシルと一緒に旅をする未来が。
セシル、お前がカイルを選ばず俺を選んだとしたら、お前が行きたい場所にならどこでも連れてってやる。
もちろん俺が居れば護衛も必要ないぞ。
カイルだと皇太子だから自由にどこにも行けんし、堅苦しいルードリアの王宮住まいだろうが……」
「ロジオン、何を言っておる!
忘れているかもしれんが、ロジオンも魔族を統べる者として一応城はあるんだぞ!
一度しか足を踏み入れてないらしいがな!」
「あれは勝手に誰かが作った城だろ?」
「何を言うのだ。
魔族を統括しやすいようにとお前の部下達が……」
「いえ、その前にセシルを嫁になんて、カイルが聞いたらどうするんですか?
カイルは兄上よりも厄介……」
いや、あの抱っこされている私をよそに、大人たちの会話がポンポン進む。
いや、私、嫁になるとも何とも言ってないし、未来が見えたって、それ妄想じゃないですか?
それよりも、まずロジオン様って幾つよ?
「で、どうだ、セシル?」
あの「で、どうだ?」じゃないし。
大人たちの会話を止め、いきなり顔を覗き込んできた整った顔に、お行儀が悪くてもビシッと指を突きつけた。
「ロジオンしゃま、いくちゅでしゅか?」
「ん?
そうだなあ。この大陸が出来てすぐぐらいか?
もう数えるのも面倒だと思って二万年くらいから数えてないな。
ネティもそうだろう?」
「失礼な。十万年くらいまでなら数えておったわ」
いやいやいや、その二万年とか十万年とかおかしいし。
「まあ、俺が数えるのをやめてからもそれ以上軽く数十万年は経ってるから……」
ネティ様の娘さんは三百年も前に生まれた私のご先祖様。
そんな月日を軽くぶっ飛ばすロジオン様とネティ様の過ごした年月。
クロマニョン人とかネアンデルタール人とか人類の歴史で習った記憶が浮かんできましたが、これはどう反応していいんですか?
シリン様の親子のような年の差どころか、ご先祖様が生きていた三百年前すら塵のように感じる年月を生きてるロジオン様と結婚?
考えれば考えるほど、どんどん眉間に皺が寄っていく。
輪廻転生をした私を言うのもなんですが、多分、ロジオン様が今まで生きてる間に私は何回か、いや下手したら何十回か生まれ変わってそうな気がしますが。
ご先祖様というよりも、下手したら畏れ多くも神様って言うレベルの年上よね?
そんないい年をした神様みたいな方が、こんな幼児に求婚って逮捕ですよ!
「ロジオンしゃま、ブーでしゅ。犯罪でしゅ!
ロリコッ、ふがっ」
「こらっ、セシルッ」
しまった。
シリン様の時のようにまた心の声がそのまま駄々洩れに漏れてしまった。
慌てたお父様に手で口を塞がれたものの、ほぼ丸聞こえ。
ネティ様は爆笑、ロジオン様はふてくされて、私はお父様の腕の中に移動という結果に。
でも、仕方がないと思うの。
もういつ生まれたか分からないくらい昔から生きている方が、三歳にもならない幼児に結婚って、竜王族でも魔王様でもちょっとおかしいわよ。
ぷんぷん怒る私は悪くないと思うの。
そしてその数日後、どうやらその話はお父様がお兄様の陛下に愚痴ったようで、それを聞いて大爆笑した陛下がカイル様に黙っているわけもなく、そしてカイル様の口からお兄様に伝わって……。
それからというもの「魔王」ロジオン様がルードリアの王宮に行くたびにカイル様やお兄様が黒獅子の姿になったロジオン様に挑み、カイル様やお兄様、そこにたまにシリン様とかが竜化して戯れる光景が風物詩化。
ネティ様は「男どもがじゃれあいたいだけだから放っておけ」というし王妃様も「元気ですわね」と笑っている。
でも、その時間は王宮で働く種族的に力が弱い方々の大半が、ロジオン様の発する力の圧にぶるぶる震えて仕事にならないとか、陛下がその光景を面白がって見に行こうと仕事をサボるので、その都度お父様が現場まで追いかけなくてはならず、ロジオン様の影響で陛下の金竜姿とお父様の黒竜姿も頻繫に見られるようになり、ルードリアの王宮は長い歴史の中で今が一番騒がしいと長生きな竜王族の諸先輩の方々に溜息をつかれてしまっているという話をお父様に同行して王宮に行っているグレイから聞いても、そんな事情は私の知ったことではない。
うん、私のせいではないのだ、きっと。
読んでいただいてありがとうございます。
番外編はこれにて終了です。
お付き合い、ありがとうございました。
評価やブックマーク、お気に入り登録、感想大変ありがとうございます!
本当に感謝しています。
誤字脱字がありましたら、報告いただけると助かります。
また、同じ世界観の作品を連載をしていますので、そちらも応援していただけると嬉しいです。
「規格外の魔力を持つご令嬢は、恋など楽しんでいる暇がありません。」
https://ncode.syosetu.com/n7480hj/
読んでいただいてありがとうございました。




