【番外編】祭りのあとは 9
「セシル、絵はいいのか?」
「まじゅは感触を確かめるのが一番でしゅからね!
ロジオンしゃまの鬣、艶艶でしゅー」
ウソである。
触りたいだけの口実で鬣を触りまくる。
前世の地球上に住むライオンでこんなことをしたら、いや、まずライオンにむやみに近付いたらおそらく飛び掛かられて高確率で死亡案件になる。
それに前世知識のライオンには背中に翼なんてなかったし、しかもロジオン様の翼は、宗教画に出てくる通常の二枚一対の天使とは異なり、たまに見た六枚羽の天使のように翼が複数あって、しかも色は黒。
さすが魔王様。
この体は一体どういう構造なのかすごく気になる。
好奇心に従って翼の位置へ移動してあることを発見した。
「あー、黒一色だと思ったら、翼も鬣みたいに金色も入ってましゅ」
「んー、そうだなあ。金色にもなるからなあ、混じっているかもしれん」
ん?
金色にもなる?
どういうこと?
これはおいおい聞いていかねば。
「なんだ、翼が気になるのか?」
「はい。
あー、鳥さんみたいに二つじゃないでしゅか?
いっぱいあったら重くないでしゅか?」
今寝そべっているロジオン様の背中で閉じている翼。
付け根からはなんと片方で一、二……。
「重くないぞ。
あー、今日はいい天気だし、久しぶりにネティと走り回って気持ちいいから出してみたが、全部でこれはある意味、力の象徴みたいなものだからな。
その時で枚数が変わるが多いときは全部で十八枚くらいだな」
「ほ?
十八枚もあるんでしゅか!
枚数がその時によって違いましゅか?」
そんなことが出来るのか?
魔王様には常識が通用しないのか?
「そんなに驚くな。
でっかい目が落ちるぞ。
しかし、本当に気分は大丈夫か?
気分が悪くて毛皮に寝転がりたいとかそういう訳ではないのだな?」
「ネティしゃま、大丈夫でしゅよ。
あー、ネティしゃまの毛にも金と銀の毛が少し混じってるんでしゅね」
太陽の光の加減で透かさないとわからないが、黒猫様もそのふわっふわの毛並みには金色や銀色の毛が混じってキラキラ。
「きらきらー。
ロジオンしゃまの翼も全部見たいでしゅよ」
「うーむ。俺が全部翼を出した姿はミカエルにも見せたことはないしなあ。
ネティ、セシルは普段と変わらないようだし、どう思う?」
「確かに、……大丈夫みたいだし、いざというときはすぐ元に戻ればいいのでは?」
「そうか」
なんの話かよく分からないけど、全部出したら何かあるのかしら?
しかし、ネティ様といい、ロジオン様といいモフモフでキラキラ。
幸せでしゅ。
あ、しまった。脳内まで幼児化してしまった。
そして、ロジオン様が「よーく見てるんだぞ」と、前脚だけ起こし背中を向けると、翼が広がった。
「ふおーっ!
しゅごいっ!
ちゅばしゃが、金色になりましゅたよ!
見て下しゃい、ネティしゃま。
ロジオンしゃまのちゅばしゃが、一、二……十八枚ありましゅ!
ロジオンしゃま、ちょっとの間、しょのままでもいいでしゅか?
描きましゅよー!」
これは、絶対描かねば!
口調がいつも以上に噛み噛みなのは興奮してしまったせいだから仕方がないのだ。
芸術の神が再度私に降りてきた今、そんなことは気にしていられない!
「ロジオンしゃま、顔だけちょっとこちらに、しょー、しょーでしゅ!」
「あ……、ああ」
色鉛筆片手に構図を決め、広げた画用紙に幼児の手だろうが色鉛筆を握って素早く書く。
なにやらお二方は「本当に元気がなかったのか?」とか「どうやら吹っ切れたようだ」とかごにょごにょ話しているが、そんなことはどうでもいいのだ。
うーむ。被写体がまっくろ〇ろすけじゃないや、黒い個体なので、彩とか陰影とかある意味難しい。
くーっ!
まずはデッサン用鉛筆でさっさと書いた方がよかったかもしれないと思いながらも、とにかくまずは形だけでも掴むのだ!
「ネティしゃま、しょのロジオンしゃまの横で、こう、横に座ってこっち向いて下しゃい。
あー、可愛いでしゅー。
ロジオンしゃまと一緒に並んだ絵を描きましゅからねー」
年配者に向かって可愛いとはなんだ?とか、口調はどっか怪しげなカメラマンじゃないか?かと言われようが、この世界には今のところカメラを見たことないし、芸術の神降臨中の今、何と呼ばれようがこの際どうでもいい。
描かねば!
自分ではスタタタタっと被写体に走り寄って、ポーズ位置を再度確認して、再び色鉛筆握ってざざーっと描きだす。
「ロジオン、この様子だとセシルは元気になったみたいだぞ」
「そ、そうだな。よかったよかった」
「はーい。
元気でしゅよ!
昨日ネティしゃまとお話しして、しゅっきりしましゅた。
あー、ロジオンしゃまも、ネティしゃまも尻尾は丸めないで下しゃいよー」
そう、昨晩ネティ様と話してすっきりした。
どうせいつか死ぬ。
今回の人生も一度きりなのだ。
確かにお父様やお兄様、周りの皆より圧倒的に先に逝くのは種族的に仕方がないとしても、今世は楽しい思い出をいっぱい作ると決めた。
そして今は久しぶりに感じた強い「描きたい」という欲求を爆発させるのだ!
「ふふっ、わかったわかった」
「セシルの好きに描け」
「はーい」
ふむ。
ロジオン様の鬣は光が当たるところはちょっと黄色やオレンジも微かに重ねて、ネティ様のお目目の金色は……。
うーむ、これは傑作ができるぞー!
なーんて自分の右手に芸術の神を感じながら午前中の朝の時間を過ごしていたら、突然集中力を打ち破る「バーン」と何かを破る音が響いた。
「きゃあっ」
「お?」
「なんだ?」
また、何かウラジミールみたいな変な奴がやってきたか?
でも、「魔王」ロジオン様と「冥界の門番」(?)ネティ様は、そんな破壊音を聞いても動じず、一瞬首を傾げ「ああ、エーミールか」と呟いただけ。
はて。
お父様ならお城に行きましたが?
と思ったら、いきなり影が差し、蒼い空に見覚えのある大きな黒竜が。
「……おとーしゃま?
今日は私を連れて遠くにお出かけの日でしゅたか?」
先日ウラジミール事件で知り合った私の祖父のフルブライト様から聞いた誕生日だと、私の三歳の誕生日はまだ二週間ほど先らしいので、お父様が治める城下町以外の遠くへのお出かけは、転移魔法に耐えられる特殊な術を掛けるか、お父様達が竜化した後、私を手に乗せて運ぶかの二択なのだ。
「違うっ!
セシルはロジオン様の覇気を浴びて、大丈夫なのかい?」
「はい?」
え?
その「はき」って何?
「おとーしゃまも一緒に描いてほしかったでしゅか?」
「はははっ。
セシル、エーミールは俺の覇気で竜体になったんだ。
エーミール、俺達にもよく分からんが、なぜかセシルは大丈夫のようだから、心配するな。
セシル、さっき何度も俺やネティが「大丈夫か?」と聞いただろう?」
「あー、はい。
何かあったのでしゅか?」
「実は俺がこの姿になると、弱い者は近づけんのだ。
こうやって俺が翼を二枚以上増やして更に金色にすると、力の作用なのか全力で対抗しようとエーミールやネティ達のように変身してしまうんだが」
「ほう?
ロジオンしゃま、何か変なビームとかオーラでも出してましゅか?」
「ビーム?
オーラ?
何だそりゃ?」
しまった。前世知識のビームとかオーラはこの世界ではないのか!
「えー? なんかこう背中から光みたいにゃ……」
仏様の後光や千手観音様の手じゃないけれど「背中からこう」と手を広げてわちゃわちゃ動作したら、前世で見た「北〇の拳」の某キャラが繰り出す拳の幼児ゆっくりバージョンのようになってしまい、しかもなぜか竜の姿のお父様含め、お三方に爆笑された。
ビームやオーラが分からないならと一生懸命説明しているのに、爆笑するなんて失敬な。
「子供の発想力は豊かだな。
そうだなあ。セシルにわかりやすく言うと、この姿で翼を多く出せば出すほど、力の強さが伝わるというのか……」
それは、よく犬の散歩で強い犬とすれ違うと弱犬が逃げると言う強者の風格という奴か?
「ほうっ、威嚇してましゅか!」
納得とばかりに手を叩くと、ロジオン様がいつもの黒髪黒目の体躯の良いイケメンに戻り、続いてネティ様、お父様が元の姿に戻ってしまった。
「セシル、本来なら普通の人間なら、本能で恐怖と威圧感を感じて中庭にすら出てこれないんだよ」
「えー?
しょうなんでしゅか?」
まったく感じなかったどころか、芸術の神が降りて来ましたけども。
あー、しまった!
絵が!
絵が途中です!
「あー!
絵が描けてましぇん!」
それにもう一度あの姿見てみたい。
いや、多分もう見なくても描けるけど、描く前に触って堪能してから描きたいでしゅよ!
色鉛筆握りしめてガックリうなだれる私。
「分かったわかった。また変身してやるから。
エーミール、そんなに心配しなくてもよさそうだぞ。
というか、あのロジオンの姿に平気で寄って大丈夫な奴は初めてだな」
「そうだな。ネティの言う通り長く生きてきたが初めてかもしれん。
……そうか」
ん?
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