【番外編】祭りのあとは 7
「……セシル」
ベッドから半身を起こしたネティ様が涙が止まらずうわーんと泣きわめく私を抱き上げ「そうかそうか」と背中をやさしく撫ぜる。
「まさかそれを悩んでおったのか。
賢い子というものは時に困るものだなあ。それは確かに長寿の我らには話しにくかっただろう。
よく話してくれた」
「こ、この前の陛下の、お、おまちゅり、しゅごく楽しかったでしゅよ。
でも、でも、今度のおまちゅり、私はもう……死んでましゅ」
「そうか……。
……セシル、確かに人間の命は我々と違って短い」
涙が止まらない私の顔を覗き込んだネティ様の瞳も哀しみの色が浮かんでいた。
「ご、ごめんにゃしゃい。
ネティしゃまもだんにゃしゃんや娘しゃんを……」
「それは仕方がないことだ。
でも、確かに亡くした時は哀しかったが、今は出会ってよかったと本当に思っておるぞ。
私はあの男と結婚して、彼や娘と一緒に過ごした期間はとても楽しかったし、彼は確かに死ぬ間際に、命が短いことを悔いてはいたが、彼なりに精いっぱい楽しんで生きていたし、私も家族で過ごした時間はかけがえのないものだという記憶は残っている。
んー、そうさなあ。
どうやって簡単に説明したら伝わるやら」
「ネティしゃま……」
「セシル、たとえ短い命でも「先に死ぬ」と悲しんで過ごすより、頑張って生きた人生を大好きな皆に見送られて死ぬと考えたらどうだ?
それに、例えは悪いが、ウラジミールのせいでルカの母のクローディアは竜王族にしてはとても短い命を終えた。
つまり長生きな種族もいつ死ぬか分からんのだよ。
だったら、毎日を楽しく過ごそうと思わぬか?」
確かにネティ様のおっしゃる通りかもしれない。
遠い記憶の前世を思い出せば、昔は仕事で追い込まれ人間関係で悩み、心と体を追い詰めて、人生を楽しむことが出来ず、自分をすり減らし顧みることなく過労死か何かで死んでしまったのだ。
それにどんな生き物でもいずれ死ぬことは分かっているし、種族の違いだから寿命の違いは仕方がないと理性ではそう思っていても、今、この恵まれて幸せな環境を手放してしまわなくてはならない悔しさとか、大事な人たちを置いて死別してしまう哀しさとか寂しさがいつもついて回るのだ。
「でも、でも……、次はネティしゃまもおとーしゃま達もいないところに生まれたら寂しいでしゅよ……」
「そうだな。
死の別離の寂しさや恐怖は誰でも一度は想像してしまうものだが……、どう説明していいやら」
「……ネティしゃまも死ぬこと考えたことありましゅか?」
「あまりに生が長いと色々な者達と死に別れるからな、セシルとは違う意味で「生」や「死」を考えるぞ。
だがな、まず言えることは、こんな小さなうちから、そんな淋しさや哀しさを感じて過ごすなど、時間がもったいない!」
「ふえっ?」
急に語調を変えたネティ様が、フフッと笑って、私のほっぺを軽くつまみ、ぷにぷにと涙にぬれた頬を数回軽く引っ張るので「うにゅ」という変な声が出てしまった。
「それにさっき言っただろう?
セシルの魂の形は不思議だと。もしかしたら、長生きかもしれん。
そんなことを考えて哀しい気持ちで毎日を過ごしていたら、もし私のような美女に育つ未来があったとしても、叶わぬぞ。
まず、お肌によくない!」
ん?
そのばっさばさの睫毛が取り囲む黒い瞳が放つ挑戦的かつ楽しそうな輝きを放った。
……まさかのまさか、その瞳にはネティ様には未来が見える能力があって、私がネティ様もかすむような美女に育つ未来が見えるのか?
「ふふっ、この子供独特の柔らかいきれいなお肌が、悩みが原因で失敗したすの入ったプリンのような毛穴が開いたお肌になったらどうする?
吹き出物いっぱいのお肌になったら、治っても跡が消えるまで時間がかかるのが人間のお肌だぞ?
そんなことになったら私の血筋とは言いたくないほど不細工になるかもしれん」
「うひょーッ!」
そ、それは嫌だ!
せっかく今はつきたてほやほやの餅のようなぷにぷにお肌なのに、幼児にストレスニキビはないだろうけど、ストレスぶつぶつ蕁麻疹とか嫌だ!
「ふふっ、嫌だろう?
そんなことで悩むな。一日一日楽しく過ごせ。
人間だろうが竜王族だろうが、魔族だろうがいずれ死ぬのだ。長い短いではない。
どれだけその与えられた生を豊かに過ごすかだ。
実は私も孫までもが先に死んだときに、人間よりも強大な力を持つ私の力を利用したいと思う不届きな輩がひ孫たちに近寄るようになって、それを知った私はひ孫以降縁を切ったのだ。
そしてクローデン王国、いや、人間には近寄らず深い森の奥に入りただ自分の役目ばかりを行うようにしていた。
だが、この前久しぶりにロジオンにルードリアの王宮に連れていかれて、セシルの顔を見たら、何か忘れていたモノを取り戻した気がした。
だからな、セシルには毎日元気で過ごしてほしいのだ。
それに、今回みたいに何か話したい悩みや困ったことがあったら私を頼るといい。男親や兄には話しにくいこともあるだろう。
あとは、あの皇太子と結婚したくないとか」
「ネティしゃま!
しょ、しょれはあにょ、そにょ」
寿命の悩みの話からいきなりそっちの話ですか?!
「あれは絶対そのまま大きくなってもセシルを嫁にするつもりだろうな。
あの単純明快な皇帝の息子とは思えんほど、あれはちょっと面倒臭い性質を持っていそうだが」
「しょれは、例えば陰険というやちゅ?」
前世の大人の記憶がある私から見ると、カイル様は天真爛漫な子供とは言い難い。
子供のくせにどこか策士的というか、二面性を感じるのは確かに否めないが、まさかネティ様から見て何か心配な要素があるのか?
「いや。陰険とはちょっと違うな。
まあ、育て方を間違えねば、今の皇帝よりも真面目ないい皇帝になろう。
セシルの相手でも問題ないだろう」
えーっと、まさかネティ様から見ても私の結婚相手はカイル様で決定なの?
あのキラキラしいカイル様に文句はありませんが、皇太子の妻に拾われっ子の私で良いの?
「さて、悩みは解決したか?」
「あにょー、カイリュしゃまの話……」
「ああ、それか?
セシルが他にいい男でも見つけた時は……悩みになるかもしれんが、将来素敵な旦那様もいて安定だな」
そ、そういうものですか?
皇太子の相手にはふさわしくないって反発とか、ライバル令嬢登場とかそういう話もある気がしますが、あの、そんな簡単に話を終わらせてくれなくてもいいですよ?
「あにょ、そにょ」
「小さいうちからそんなに悩むと禿げるぞ。
さあ、もう私は眠い」
ネティ様は私を抱っこしたまま横になり大あくび。
ネティ様、美貌が崩れますよ。
「さあ、寝るぞ。
美人になりたいのだろ?
睡眠は大事だ」
お、おうっ。それはどの世界も共通らしい。
頷く私の額をネティ様の細いしなやかな指でピンと弾かれた途端、私の意識は深い眠りの世界に「さあ、眠れ」とネティ様の優しい声とともに落ちたのであった。
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