【番外編】祭りのあとは 3
そして私達が王宮で過ごす最終日。
一時、ぽんぽこりんに膨らんだお腹も、元の幼児体形のお腹に戻って一安心?
今日は昼食後、いつもよりちょっと長いお昼寝をした。
それは夜の催し物を見るために。
今夜は本来なら五歳以下の子供は参加できない催し物がある。
ディナーが終わった後の王宮の夜の庭で精霊たちが行う魔法の演舞が行われるのだ。
でも、私はこの前のウラジミールの事件で頑張ったご褒美だということで、特別に見せてもらえることになった。
私はこの中で四百年祭まで生きていませんから、とっても嬉しいのです。
皇帝陛下のご一家はじめ、参加権利がある貴族や来賓が集まる中を指定された場所へお父様に抱っこされながら進む。
王宮の庭を眺めることができる皇帝陛下の席の近く、色持ちの大公様の席があるバルコニーの特等席だ。
色持ちの大公の中で子供がいるのは我が家だけだ。
しかも指定年齢以下の私がいるのだから、注目度が半端ない。
一応皇帝陛下から周囲にはウラジミール事件の解決に役立ったご褒美と周知してあるらしいけど、こう、なんというか視線がむず痒い。
席に着くと早速ドリンクがサーブされ、演目が始まるのを待つ間、青の大公様がこちらの席にやってきた。
「やあ、エーミール。ルカ君、セシルちゃん、昨日は祭りを一緒に行けなくて残念だったよ。
ところで、今日、陛下からいいものを見せてもらってねえ」
すごくいい笑顔で私達を見る青の大公様は、こう、図書館とか美術館とか似合いそうな雰囲気の落ち着いた大人、お父様もどちらかというと口数少なめなインテリ王子系に分類されそうだけど、何というか、お父様とは違う落ち着きというか、貫禄があるのだ。
お父様、一応皇帝陛下の弟なんだけど、なんだろう、この人の貫禄は。
やはりお父様の生きた年数が竜王族では短いからなのか?
「なんでしょう?」
「ああ、エーミール。
そんなに警戒しないで欲しいな。セシルちゃんが陛下にプレゼントした絵を自慢されたんだよ。
すごく上手な絵だねえ」
「ほえっ?
陛下があの絵を他の人に見せちゃいましたか?」
心当たりがあるのは、昨日、城下町のお祭りに行っていない陛下に、お土産といってりんご飴やジャム、菓子パンと一緒に、王宮滞在中から書き始めていた皇帝陛下と皇后陛下とカイル様の家族の絵を城下町の画廊の軒下で売っていた額に入れて渡したのだ。
王宮で熱を出してしまってお世話になったお礼と趣味を兼ねて描いた絵には大小二匹の金色の小さな竜も描いてある。
大きい一匹は家族の上空を飛んで、小さい一匹は皇帝陛下の肩に留まって。
「もしかして見られたくなかったのかな?」
「そんなことないでしゅよ?」
「ああ、良かった。
もし、できるなら、この三百年祭の何か思い出を描いたら、私にも見せてほしいなあ。
実は今度、私の領地のアナトールの灯台の一角に、アナトールに住む子供達が描いた絵を展示する企画を計画しているんだ。
その他の区域に住む子供達が描いた絵も展示しようと思ってさっき白や赤にも頼んできたんだが、黒のエーミールのところからはセシルちゃんやルカ君も絵を描いて出してくれると嬉しいな。
あ、カイル殿下も絵を出してくれるように頼んでいるよ」
「え? カイルもですか?」
初耳のお兄様は目を見開いて青の大公様を見つめると、青の大公様はちょっと困ったような笑顔で言葉を続けた。
「今回の企画はもともとうちの領土内の子供達の交流を兼ねて計画していたんだが、ウラジミールの事件で吸血鬼や人間の子供に悪印象を持つ者がうちの領土でも出ちゃってね。
それを何とか改善したくて、……大人の事情のように聞こえてしまう言い方だが、今回事件で活躍した殿下やルカ君やセシルちゃんの絵が欲しいんだ」
「あー、にゃるほど。
みんな仲良くなってほしい!」
「そうそう、セシルちゃんのいう通りなんだよ。
出来たら、各地方の子供達全員に絵を描いてもらうようなことがしたいが、それは難しいだろうから、希望者だけという形なんだが、離れて住んでいても交流がもてるようなそんなことがやりたくてね」
「それはしゅてきな案でしゅ。
頑張りましゅ」
「じゃあ、僕も頑張ります」
お兄様と私の快諾の返事を受けた青の大公様は嬉しそうに笑って席へ戻っていった。
黙って聞いていたお父様に良かったか尋ねると、お父様はただ嬉しそうに笑った。
「セシルがいいというなら、お父様は何も言わないよ。
頑張って描きなさい」
「はいっ」
前のめりになりそうなほど強く頷く私に、お兄様も「頑張ろうね」と目を輝かせた。
うん。私の描いた絵でそんな交流ができるなんてとても楽しいじゃないですか!
俄然やる気がみなぎる私とお兄様の前に、青の大公様からだという可愛いプチショートケーキを出され、兄様よりも早くアッと言う間に平らげたのはご愛敬と思ってほしい。
そして、ケーキを食べ終わり「ほら、もうすぐ始まるよ」とお父様に促されるまま庭を見る。
篝火が焚かれた庭で始まった精霊の演舞は幻想的で美しかった。
蛍のような転々とした光を纏う精霊が、闇夜の王宮の中庭に点々と篝火が灯されている中を歩き、それぞれの光の魔法を繰り広げる。
その魔法は花火大会の仕掛け花火のように勢いよく吹き出し、時には軽やかで、また激しく華やかに。
その彩に魅入ってしまえば、一時間ほどの演目はあっという間だった。
「きれいでしゅ」
最後、細い滝の流れのように白い光が庭の先に消えていき演目の終了を告げた。
精霊たちの力強くダイナミックで美しい魔法の演舞が行われるのは百年後。
もう二度と見ることはないと思うと、より感動は激しくなって、そしてすごく哀しくなった。
お父様もお兄様も今後百年毎にこの光景を見るだろうけど、私はこの一度きり。
お父様達は私が一緒に見たことも、私が一緒に過ごしたことも私が去った後、長い寿命を持つお父様達は覚えていてくれるだろうか。
急に襲ってきた巨大な寂しさに飲み込まれ、動くことが出来なくなった。
「セシル、どうした?」
「セシル、どっか痛いの?」
いつの間にか頬を伝う涙に、お父様とお兄様が慌てたが、泣き笑いでごまかした。
「しゅごく綺麗で、き、綺麗でしゅ……涙が止まり、……止まりましぇん」
そう、私はこの優しいお父様やお兄様を置いて逝くのだ。
この愛情いっぱいのお父様やお兄様達がいる世界から、私は先に……。
ふと襲ってきたどうしようもない寂しさと哀しみと執着。
今世、せっかく竜に変身できるんだと楽しみにしてきた自分が、前世と同じ人間だと知って、残念に感じたのは少し前の話。
でも、再度寿命の長さで種族の違いをありありと感じてしまったこの感情が大きすぎて、幼い体に精神が引っ張られているからなのか「寿命だから」と冷静になることもできなくて、急に襲ってきた巨大な哀しさと寂しさに泣き止むことができなかった。
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