【番外編】祭りのあとは 1
十話ほどになる予定ですが、番外編を連載しますので、お付き合いいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
待ちに待った竜王族の皇帝陛下ミカエル様の三百年記念祭。
北のヴァルハランドの領主であり、皇帝陛下の弟のお父様はもちろんお兄様と私を連れて帝都ルードリアの王宮に参上した。
秋晴れの青空の下、祭りの前日から各都市に住む竜王族が三百年を祝う祝砲と光の魔法で青空のキャンバスに美しい絵を描くというので、朝、早めにご飯を食べた後は、お城は家令のノーランに任せ、竜化したお父様とお兄様、護衛のグレイと乳母のマーサと一緒にヴァルハランドから東のアナトール、南のトレヴァランド、西のイスマイルの上空の絵を見終わってから帝都ルードリアの王宮に向かった。
特殊な防御魔法をかけて王宮まで転移してもいいけれど、絵を描くことが好きな私に、この空のキャンバスを見せてやりたいとお父様達が各地方の空を飛ぶことを計画してくれた。
ヴァルハランドの空に描かれた花と妖精の絵、アナトールは太陽の女神と月の神、南のトレヴァランドは空を海と見立てたのか船と魚に人魚、西のイスマイルは宝石を意味する幾何学模様に竜の絵、そして帝都ルードリアの上空には幾種類もの動物の絵が青いキャンバスに描かれていて、私はお父様の手の指の狭間から見える光景に大興奮!
絵が見たくて、檻のようになっている竜のお父様の手の中で動き回るものだから、飛んでいるお父様に「あまり動くと、手がこそばゆい」と注意を受けてしまった。
ちょっと反省。
さて、お祭り初日。
その日は、王宮から青・赤・白・黒の色持ちの大公と金色の皇帝陛下が王宮からヴァルハランドの山の聖域まで竜化して飛び、聖域で花と水を捧げて再び戻ってくるという儀式があるので、皆が空を見上げる日だ。
王宮の正面の門から城の入り口まで、バルコニーから竜化した皇帝陛下達が飛び立つ姿を見ようと、種族関係なく多くの住民や観光客がひしめき合いながら見守る中、王宮の巨大なバルコニーから皇帝陛下を先頭に通常の竜王族の竜化よりも数倍大きい五体の竜が空を飛び立つ姿は圧巻だった。
あのウラジミール事件の時、陛下とカイル様、お父様とお兄様がウラジミールの棺を運んでものすごい勢いで飛んできた時とは違って、ゆったりと空を旋回し、その後、住民からよく見えるように低い位置で飛んで行った。
もちろん戻ってくるまでのその間、私はお兄様やカイル様と一緒に、王宮の一室で休憩タイム。
そして、皇帝陛下達が戻ってきて昼からは、お兄様やカイル様も参加する合唱の発表会や、楽器の演奏会が続いた。
いつもよりちょっと緊張した面持ちでピアノ伴奏をするお兄様、そしていつも以上に堂々と指揮棒を振るカイル様の姿。
私はよく見えるように観客席のお父様のお膝の上でちょっとお行儀が悪いけど立ちながらお兄様達の勇姿を見て感動した。
夜は各国のお客様との親睦も兼ねてのパーティーとなるので、お兄様もカイル様も含め子供は奥に引っ込み、その日はカイル様とお兄様と一緒にご飯を食べて、大きなベッドに三人で眠ってすごく楽しかった。
そして二日目は、約束通りお父様の引率で私とお兄様とカイル様と、護衛と荷物持ちを兼ねてグレイが同行し、お父様が黒の大公だとか、カイル様が皇太子だとか有名人なので、一応気配を消す魔法をかけて城下町のお祭りに繰り出した。
秋晴れのさわやかな空の下、時間と体力の問題から、見て回るのは王宮から少し離れた商店街の大通りと公園だけだと言われたけど、それで十分。
広い道路の両側に店が並んでいて、その店の前に、各店の出店みたいな露店や、あとは各地から集まった流れの商人が屋台を出している。
雰囲気はまるでヨーロッパのマーケットと日本の祭りの屋台の融合だ。
パンや、クッキー、ハーブ、ジャム、コーヒー、紅茶、クレープにから揚げ、ソーセージ、焼きそばにイカ焼きどころか、魚の塩焼きや干物まで売っていた!
そして酒の立ち飲みに、マグロだけでなく巨大な名前も知らないネッシーみたいな深海魚の一種だと言う魚の解体ショーまで!
お父様曰く、私も一度は魚料理として食べているそうで、淡白な味だそうだけど、いや、あの、私、マグロの解体ショーとかあまり見たいと思いませんので、そういうの結構です……。
この世界、食べ物も文化も生まれてきてまだ短い期間しか知らないけど、前世の西洋とか東洋とか、和風も洋風も混合状態。
だからお祭りの屋台も日本の屋台のように看板が出て「たこやき」とか「やきそば」みたいなわかりやすい表示は店はない。
各店舗のテントの下で何か売ってんだけど、どの世界でも出店や屋台は似たようなものなのか、雰囲気は一緒。
食べ物以外も、安価なアクセサリーとか、雑貨を売る屋台もあったし、服屋の前にテントを張ってある場合は、たいてい店内の服、靴屋の前は靴を売っていた。
魔法は使わないというルールで行う輪投げとか、射的とか見ていて楽しい。
ただ、スーパーボールすくいや金魚すくいは見当たらなかったけど。
そこでさっきから気になった食べ物が一つ。
店頭に果物が並んでいるけど、果物を売っているわけではなく、透明なカップにかき氷のようなものを入れて売っている。でもそれは氷がうっすら果物のように色づいているだけで、かき氷のシロップほど鮮やかな色ではない。
しかもその砕けた氷の上に、透明なシロップがかけてあるのだ。
異世界かき氷か?
「おとーしゃま、あれは何でしゅか!」
「あー、少し時期が外れているけど、果物を凍らせたものを粉々に砕いた果樹氷というものだよ。
食べてみるかい?」
「はい、食べましゅ」
かき氷ではなく、果物自体を凍らせてそれを魔法で粉々に粉砕して、そこに甘いシロップをかけて食べる氷のお菓子は食べたことがない。
種類はリンゴ、苺、桃、バナナ、葡萄があった。
「悩みましゅ」
じっと店の看板を見つめていると、屋台のおばちゃんから優しく声をかけられた。
「おや、お嬢さん、今日はお父さんとお兄ちゃんたちと一緒に……、これはこれは、黒の大公様ご一家ですか?
しかも皇太子殿下まで」
一応有名人なので、気配を消す魔法がかけてあっても、面と向かいあえば相手は分かる。
声をかけてきたおばちゃんはものすごく恐縮した面持ちでこちら側をうかがっていた。
「ああ、店主、一応お忍びなので、あまり大きな声で言ってほしくは無いな。
セシル、皆で一種類ずつ買って分ければ全部の味がわかるよ」
「あ、さすがカイルしゃま!
賢い!」
「ということで、全種類くれるかな?」
「かしこまりました。
今から準備いたしますから、もしよかったら、この屋台の裏の店が、私どもの果物店で、中にテーブルと椅子がありますので、そこでゆっくり召し上がってください」
「感謝する」
お店のおばちゃんとのやり取りはすべてカイル様が頑張り、皇太子殿下から畏れ多いとカイル様が渡そうとするお代の支払いを遠慮するおばちゃんにお金を握らせる姿はさすが。
その間、お父様とお兄様はというと、ちょっと離れたところにいる集団に顔をしかめて睨んでいた。
「まさか、おとーしゃまの再婚相手候補でしゅか?」
「ちがいますよ、セシル様。
相手の顔をよーく見てください」
横のグレイに尋ねると、グレイが呆れた顔でその集団を見ていた。
「ほえ?」
「やっぱりついてきたのか。赤の大公達は」
「カイルしゃま、気付いていたんですか?」
「ああ、ルカや叔父上たちも気が付いていた。
途中で別方向に行くかと思ったら、まさかずっとついてくるとは」
そう、視線を向けるとそこには赤の大公レオン様、シリン様、私のおじい様であるヨハン・フルブライトおじい様と、なぜかロジオン様までいた。
読んでいただいてありがとうございます。
完結後も評価やブックマーク、お気に入り登録大変ありがとうございます!
本当に感謝しています。
誤字脱字がありましたら、報告いただけると助かります。
また、「規格外の魔力を持つご令嬢は、恋など楽しんでいる暇がありません。」という同じ世界観の作品を連載をしていますので、そちらも応援していただけると嬉しいです。
https://ncode.syosetu.com/n7480hj/
どうぞ宜しくお願いします。




