【番外編】 懲りてません
新年あけましておめでとうございます。
読んでいただいてありがとうございます。
この番外編もまだ季節が半袖の時期です。
また、新しく連載を始めておりますが、この作品と同じ世界観のものです。
お時間ありましたら、読んでいただけると嬉しいです。
一応、そちらは恋愛モノなんですが、まだまだ恋愛の雰囲気は……。がんばります。
「規格外の魔力を持つご令嬢は、恋など楽しんでいる暇がありません。」
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どうぞ宜しくお願いします。
今日はお父様もお兄様もお休みの日。
お昼からカイル様も一緒にヴァルハランドの植物園に行くのだ。
でも、午前中はお父様もお兄様も秋の皇帝陛下の三百年記念式典行事のルードリア帝国の子供達が参加する合唱団の曲の件で、二人で音楽室にこもる予定。
私は除け者だ。
お兄様はその合唱団にカイル様と一緒に入っていて、お兄様はピアノを弾く。
お父様もピアノは得意なので、なにやらアドバイスを受けているらしいが、音楽室は防音なので音は全く聞こえない。
その合唱は、各種族から集められた子供達が一緒になって、式典で神様への豊饒の感謝の歌詞の歌と、ルードレーン大陸で楽しく過ごしているという歌詞の歌を捧げるのだ。
ええ、どうせ私はまだ小さすぎて合唱にも参加できませんよ。
けして音痴じゃないんですよ。
小さいからまだ参加できないんです。くどいようですが、音痴ではなく、小さいから参加できないんです。お風呂の鼻歌が若干調子っぱずれなのは、毎日お疲れのお父様を癒すためですからね。
だから、練習しなくてはならないお兄様や、指導するお父様の邪魔しないように、お庭でお絵描きをすることにしました。
というか、今、ちょっとお庭で達成したいことがあるのです。
だから音楽室に行く前のお父様を捕まえました。
「おとーしゃま、お庭で絵を描いてもいいですか?」
「どこで描くんだい??」
「孔雀さんがいる噴水のあるお庭でしゅ。
大きなクスノキの下の日陰で描きましゅ」
「ああ、わかった。いいだろう。
水筒は持っていくんだよ?
お外は朝でもまだ少し暑いからね」
「はーい」
お父様に許可をもらって、マーサに水筒を用意してもらう。
夏から秋に移ってきているけど、日差しは強いのだ。
「セシル様、どこでお描きになりますか?」
「えっと、あしょこでしゅ」
指さした一角はちょうど大きなクスノキが生えていて、芝生の上に木陰を作っている。
しかもそこからは中庭の中央の噴水も花壇も見えるし、庭で遊んでいる孔雀たちも見える。
レジャーシートを敷いて、色鉛筆と紙を置いてくれるマーサに聞こえないように、私は目標位置を定め決意表明を小さな声で断言する。
「今日こそ孔雀さんを抱っこしたいでしゅ」
そう、実は今の私の大きな野望。
自分よりも大きいオスの孔雀さんたちですが、あのきれいな瑠璃色の体を抱きしめて、よしよししたいのです!
決して無謀にも抱きしめて持ち上げたりなどしようとは思っていません。
でも、いつも近くに行くと、華麗に逃げられてしまうのです。
マーサやグレイは孔雀にアプローチする私を見るとすぐに「孔雀が反撃したり、威嚇されて怪我をしたらどうするんですか」と注意され、家の中に戻されてしまうのだけれど、この野望は叶えたいのだ。
三日連続見つかって注意されたから、間二日空けて、今日再びチャレンジするのです。
まずはマーサの目をごまかすために、近くの花壇で咲いている白と紫のリンドウを描く。
青と紫の二色の他にちょっと枯れて色が変わった部分に黄土色や黄色など様々な色を使って花びらの色を塗りこんでいく。
うーん、いっぱい種類がある色鉛筆って楽しい。
葉っぱや茎の部分も、緑やヤマブキ、黄緑や深緑、あ、明るい光が当たる箇所は白を少し重ねてみたらいいのかな。
影の部分は灰色や黒色を重ねてみょうかな……。
ふと気配を感じて、花から視線を外すと、遠くの噴水のへりに孔雀さんが華麗に羽を広げていた。
おお! もしや孔雀さんは誰かに求愛しているのだろうか!
しかも、初めて見る白い孔雀さんもいる!
城は広いから、白い孔雀さんも生息しているのかもしれない。
花を描くのは中断して、同じレジャーシートの上で、私が今度三百年祭に着ていく貫頭衣の裾に金の糸で刺繍をしているマーサに近寄る。
「マーサ、あそこの孔雀さんの絵を描いてきましゅ」
「わかりました。
近くによると危ないですからね、いいですか、くれぐれも……」
「はい。あの少し離れたベンチで描きましゅ。
あしょこならいいでしょう?」
注意が長くなりそうなマーサの言葉を遮って、噴水近くにあるベンチを指をさす。
「はい。確かにあそこなら木陰になっていますから大丈夫ですね」
マーサの了解を得て、紙と色鉛筆を持ってベンチに向かうと、孔雀さんは逃げることなくゆらりゆらりと羽を広げながら噴水のへりから地面に下りて、よく見る青紫の孔雀さんも白い孔雀さんも羽を広げたまま佇んでいた。
白い孔雀と青紫の孔雀は私が色鉛筆を持つ間、じっと動かず、まるでモデルのように優雅に羽を広げて佇んでいた。
集中力が切れて、鉛筆を置くと、孔雀も羽をゆっくり閉じ、再び開いた。
「きれい」
側に求愛するメスもいないし、縄張り争いをしてる様子もないけど、ゆらりゆらりと優雅に羽を広げている姿は、うっとりしてしまうほど綺麗。
しかも、私が絵を描いている間、徐々にむこうから近寄ってきてくれたこの距離感。
これは、近寄ってもいいですか?
チャンスありますか?
マーサはレジャーシートの上で刺繍に熱中している。
「これはチャンスでしゅ」
そろりそろりと近寄っていくと、二羽とも羽を閉じ、首を傾げ、丸い瞳でこちらを見てくる。
「攻撃しないでくだしゃいね。
仲良しになりたいだけでしゅ」
そのうち、白い孔雀が青い孔雀の方を見てこちらに背を向けた。
チャンス!
私の頭の中では思いっきり足を動かして走り、白い孔雀の体に抱き着こうとした途端、孔雀がとびかかってきた。
「え?」
蹴られる!
顔の前に手をクロスさせてしゃがんだ途端、ポンという音を立てるかの如く目の前の孔雀が消えて、代わりに抱きしめられていた。
「ほえっ?」
「まったく、セシル、危ないよ。
走る姿は小股で可愛いけど、その速さじゃ本物の孔雀は逃げちゃうし、孔雀はきれいだけれど、抱きつくのは危ないんだから」
そう、白い孔雀からいつのまにか現れたのは銀髪、金混じりの琥珀色の瞳のカイル様だった。
そして、もう一方のうちの孔雀さんたちと同じ姿の孔雀もポンと姿を変え、そこにはお兄様がいた。
「なんで?」
驚いている私をよそに、マーサはレジャーシートや刺繍していたものをさっと片付けて、カイル様とお兄様に一礼した。
「セシル様がお描きになっている孔雀が、カイル様とルカ様だとわかっていましたから、安心でした」
「本物は僕らがいると逃げるからね。
マーサ、植物園は早めに行くと思うから、準備お願いできるかな」
マーサが孔雀の正体を知っていたことにも、孔雀がお兄様とカイル様だったことにもびっくりしている私を抱っこしたまま、カイル様が苦笑いを浮かべていた。
「ルカから聞いたよ。
庭の孔雀を捕まえようと毎日努力してるみたいだって」
「おにーしゃま!
おとーしゃまとピアノの練習は?」
「ごめん、セシル。練習は終わったよ」
「ほえ?
もうそんなに時間たちましたか?」
「今日は早く終わったんだ。
だから早目にカイルを呼んで、セシルの様子を見に来たんだよ。
本物の孔雀はあっちの森。
孔雀はセシルより大きいし、足や嘴で怪我をしたら大変だし、だったら僕達が変身して側にいようかと思って」
「……はい」
「怒ってるわけじゃないよ。
セシルの好奇心はよくわかるけど、私達は、セシルが可愛いから怪我をしてほしくないんだ」
「はい」
二人がかりで諭されてしぶしぶ頷く私と、ちょっと苦笑いを浮かべるカイル様とお兄様の背後からお父様が現れた。
「おとーしゃま?」
「カイル、セシルを抱っこしてどうした?」
お父様の問いに答えるお兄様とカイル様に、言い逃れができず俯く私。
「セシルはまた孔雀を捕まえようとしたのか?」
そう、孔雀を抱きしめたい要求はお父様にも伝わっていて、一昨日軽く注意されたばかりだった。
「……はい、しました」
「孔雀が好きなのはいいことだが、もう少し大きくなってからにしなさい。
まだ小さいのだから危ない。
カイルもルカも小さいころ懲りずによくやって、ついに怒ってしまった孔雀に嘴で突かれていたことがあるんだ。
そんな先輩のアドバイスは聞いておくものだ」
「え? カイルしゃまもおにーしゃまもやっていましたか!?」
お父様に暴露されて二人が苦笑いを浮かべる。
「そうだよ、結構痛かったから、僕らと同じ思いをしちゃ可哀そうだと思って」
「ああ、しかもそれでも懲りずにやるものだから、そのうち二人が庭に出る気配を察するとさっと逃げるようになってしまうくらいにな。
セシル、準備ができたら植物園に行こうか?」
「はーい」
今日も平和。
今日も楽しい。
お父様とお兄様とカイル様とマーサと護衛のグレイと一緒に昼から行った植物園も楽しかった。
そんな私の楽しい一日は無事すぎていくのだった。
そしてまた次の日。
懲りずに孔雀さんに向かっていく姿をグレイに見つかって「変なところで兄妹似るなよ」と俵抱きに担ぎ上げられ、城の中へ連行されるのだった。
その後、グレイからその報告を聞いたお父様が「どうやら血は繋がっていなくても、兄妹は似るらしい」と変なポイントで喜んでいたとマーサに報告していたノーラン。
その話をこっそり盗み聞きしていた私が、孔雀を抱きしめる野望を叶えるぞと改めて決意したのは内緒だ。
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