朝は来る
ん-、どこからかパンが焼ける香りと、コーヒーの良い香りが漂ってきてお鼻がぴくぴくしちゃう。
ぐるぐるぐる~っと鳴くお腹の虫と空腹感で目を覚ますと、大きなお父様のベッドの上。
白いシーツの海の中から、むくっと起き上がり、眠い目をこする。
「……お腹がしゅきました……」
うーん、よく寝た。
ぐっと両手を伸ばす。
夢も何も見ませんでした。
ちょっと頭が痛いですが、眠りすぎの痛みかしら。
そしていつの間にか服はいつもの白いフリフリパジャマになっていました。
誰が着替えさせてくれたんだろう。ありがとう。
昨日は無理やり意識が落ちて……そして思い出した。
昨日の……。
「セシル、起きた?」
「お、おにーしゃま?」
広いお父様のベッドには、お兄様もパジャマ姿のまま寝転がって、じっとこちらを見ていた。
窓から差し込む朝日に白金髪の髪が輝いて眩しい。
「お顔を洗って、歯磨きして父上が作ったご飯を食べよう。
お着替えの服は僕がさっき用意したんだよ」
起きた私の手を強く握って、水魔法で顔を洗うように促した。その笑顔はどこか必死で、一生懸命何かの感情を押し殺している雰囲気が伝わってきた。
きっとお兄様は、私がどこか行かないか心配なのだ。
私が眠ってからお兄様やお父様達はいったいどんな話し合いをしたのだろう。
頭の中ではまたぐるぐると不安やもやもやなど暗い気持ちが渦巻いてくる。
「ルカ様、セシル様おはようございます。
セシル様のお着替えは私がやりますから」
「おはよう、マーサ。
でも、マーサ、今日は僕が」
「おにーしゃま、淑女は着替えりゅところは見られたくないでしゅよ。
おにーしゃまも着替えてきてくだしゃい。
おはようございます。マーサ。
お着替えのおてちゅだいよろしくお願いしましゅ。
あ、おにーしゃま、おとーしゃまに、ちゅめたいカフェ・オレ、甘いやちゅ頼んで欲しいでしゅ」
「わかった。
今日のセシルは噛み噛みで可愛いね」
「しちゅれいな。いちゅも可愛いでしゅよ」
ぷんと頬を膨らませた抗議を笑顔でかわし、お兄様はぎゅーっと私を抱きしめ消えた。
「おにーしゃま……、辛そうでした」
そう、わざといつも以上に喋り方を嚙んだのはわざとではなく、幼くなって甘えて頼った方が安心するかと思ったからだ。
実際、カフェ・オレを頼んだら不安そうな瞳がぱっと輝いて、とても安心したように微笑んだのだから。
水魔法で顔を洗って歯を磨き終わると、お兄様が用意したという服を奥から持ってきたマーサが広げる。
「セシル様、こちらがルカ様がご用意した今日の服です。
白地の布に裾は紫と金の唐草柄の刺繍が入って可愛いですね」
「はい、おとーしゃまとおにーしゃまの目の色でしゅね。
あ、マーサ、グレイとノーランは大丈夫でしゅか?」
「はい。出血は多かったようですが、運よく深い傷もなく回復しておりますよ。ありがとうございます。
もちろん、他の者も大丈夫です。
後で挨拶に伺うと思います」
「よかったでしゅ」
「ええ、皆大丈夫です。
さあ、パジャマを脱ぎましょうか」
「はい」
パジャマを脱いで、貫頭衣を頭からかぶり、赤い竜鱗のペンダントを首から下げ、髪を櫛で梳いてもらって、簡単にハーフアップにしてもらって今日も準備は終了。
そしていつもの通り、お父様の仕事部屋の続きの間にしつらえてあるダイニングテーブルへ向かうと、お父様の部屋の扉の前にノーランがいつもの姿で立っていた。
「おはようございます、セシル様」
「ノーラン! おはようございます。
大丈夫でしゅかっ?」
「はい、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
セシル様もご無事で安心しました。
さあ、お食事の準備ができていますから中に入りましょうね」
「はい。
ノーラン、無事でよかったでしゅ」
無事な姿を見て安心したのもつかの間、中からドアが開いて、灰色の髪のグレイが出てきた。その姿は傷を負った気配を感じさせず、いつもと変わらない。
「おはようございます、セシル様」
「おはようございましゅ。
グレイも無事だったでしゅかっ!
良かったでしゅ。
お城、ドーンとしたから……」
「ええ、ご心配かけました。
ベルトランは強いですからね、不意を突かれたものでやられてしまい、情けなくもあんなことになってしまいましたが、怪我はそのあと駆けつけてくれた医師に手当てされましたし、音に驚いた城下の者達が駆けつけてくれたので、彼らの魔力で城に仕える者の無事も確認できましたし、あの奥の塔も元に戻っていますよ」
「え? もう元に戻っていますか?
しゅごいっ」
「気になるならエーミール様に許可をもらって見に行ってみるといいですよ。
さあ、中で朝ご飯を食べましょう」
「はい」
ノーランが側にいるのでいつもより丁寧な所作のグレイに促されて中へ入ると、中にはいつもと変わらぬ朝食の風景があった。
ただ、違うのはどこかその雰囲気がどこか薄い膜で何かを包み込み、それは何かの拍子にはじけてしまいそうな感覚的な違和感があっただけ。
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