退治開始
そこにトネリコの木から切りだしたと思われる、先が尖ったお兄様達の身長と同じくらいの長さの白い木の槍をお兄様とカイル様は片手に一本ずつ、お父様は六、七本くらい肩に抱えて現れた。
「ロジオン殿、これでいいかな?」
「ああ、十分だ。
じゃあ、始めるか。
エーミール達はその槍を棺の四方の角に打ってくれ。
俺には二本くれ」
お父様達は指示通り揺れる石棺を避けながら、指示された角近くの地面にトネリコの木の槍を突き刺した。
そして地面に転がる残りの槍を見てロジオン様は一本ずつ渡していった。
「残りの槍は念のため各自必ず持っていてくれ。
あいつが弱ったら誰でもいい。
心臓に杭を打つんだ。
心臓に杭を打つには、あいつの魔力が減ってきて弱ったところでないと杭は打ちこめないだろう。
完全にあいつを退治するにはこの木の杭じゃないと退治できない。
あいつも物凄い勢いで反撃してくるだろうから、ある程度ダメージを与えて弱らせたら、杭を打ち込む。
あいつの性分から言って、逃げるより挑んでくるだろうから、とりあえず戦う。
棺の蓋をぶち破ってウラジミールはでてくるだろう。そして奴は、まず我々のいずれかの命を奪って自分の力にしようとすると思う。
ミカエル、お前はウラジミールが棺から出てきたらすぐに檻の中の取りつかれていた珊瑚の精を助け出して、保護を頼んだぞ。
おそらく保護した男はしばらく意識が朦朧としているだろうから、その手にトネリコの槍を握らせ、動けない間にウラジミールに付けられた使役の魔法陣を探して、すぐに消してくれ。
魔法陣を消した後も、念のためトネリコを握らせておけば、乗っ取られていた奴もおそらく大丈夫だと思う。
だが、珊瑚の精が目を覚ました時は用心してくれよ。
カイルとルカは、外にあの男の力が漏れ出ないようにする結界と、皆に防御の結界を張ってひたすら結界維持に徹すること。
お嬢ちゃんたちの側のこのあたりで結界を張っていてくれ。
エーミールは俺の補助に回って、ウラジミールの攻撃をすべて無効化してくれ。
あと、お嬢ちゃんたち女性には、杭を打ち込む姿はちょっとえぐい光景だから、最後は目を瞑っていてくれよ」
指示に頷く皆の顔を確認した後、ロジオン様は一応こちらにも気を配って声をかけ、すぐに揺れる石棺の方に向き直って左腕に残った槍を抱え右手をかざした。
お兄様とカイル様は駆け足で私たちの前にやってきて、私を見て少し微笑んだ後、緊張した面持ちで片膝をつき、両手を地面につけこの草原の周囲に結界を張った。
お兄様とカイル様の白金色の結界が半円状に辺りを覆う。
「始めるぞ」
ロジオン様の掛け声とともに、石棺の鎖がジャラリという音ともに外れた。
石棺が静かなまま数十秒経った。
石棺の横の水の檻のゴポゴポという音がかすかに響く中、ピーンと静かな緊張感が漂っている。
「来るっ」
ロジオン様が一歩下がると同時に、バーンッという破壊音ともに、石棺が砕け散り、中から黒い塊が空高く飛び出し、石棺を囲んでいた杭が塵となって消えた。
お兄様たちの結界のおかげなのか、石棺の破片は音の割に周囲には飛び散らず、その横では瞬時に水の檻を破壊した陛下が中に閉じ込められていて意識のないベルトランを抱えた。
「ミカエルッ、そいつを抱えたままそこから離れろッ」
「わかった」
はるか上空からものすごい勢いで黒いモノが数メートル側まで下りてきた。
「来たな」
余裕の笑顔を浮かべたロジオン様が右手を挙げて黒いモノめがけて強烈な光を放つ。
目、目がやられる!
光った瞬間、マーサが私の目の前に手をかざし事なきを得たけれど、ものすごい光だった。
目くらましだったら十分効果はあったと思いますよ。
「ロジオン、貴様ッ」
「さっきから同じ言葉しか言えないのか?」
ロジオン様の頭上から数メートル上空で止まったウラジミールは、光に相反する黒い霧を手から放っている。
彼の姿は黒そのもの。
目を凝らしてよく見ると、波打つ黒髪、抜けるような白い肌、薄い唇からかすかにのぞいている犬歯が吸血鬼らしい特徴といえる。
均整の取れた細身の体躯に古代ローマのトーガのような形の黒い布を纏い、素足にサンダルを履いているが、すね毛や胸毛は見当たらず麗しい男だった。
吸血鬼だから、てっきり前世で見た映画みたいに、退廃的で夜が似合う魅惑的な色気ムンムンの容姿だと思っていたら、上品で端正な顔立ち。
初対面だったら、おそらく大半の女性は「イケメンは正義」だという心理で、彼が善良な麗しい美青年だと見惚れてしまうだろう。
まさか彼の中身が残酷で身勝手な命の略奪者だとは思えない風貌だ。
そしてまた前世との相違点を見つけてしまった。
吸血鬼は赤い裏地の黒マントにシルクハットとステッキだと思っていたのに、違ってた。
まさか、黒いトーガ風な服に藁草履のようなサンダルだとは……。
異世界文化の違いですか!
「トネリコのおかげで、弱いお前は上にしか逃げられなかっただろう」
「うるさいッ」
目を吊り上げて怒りの形相のウラジミールに対し、余裕しゃくしゃくのロジオン様。
その横ではお父様が静かに様子を傍観し、皇帝陛下は数十メートル離れた地で地面に伏せさせたベルトランの手に杭を握らせ術を施している。
きっと陛下は今、ベルトランにあの吸血鬼ウラジミールに付けられた使役の魔法陣を消しているんだろう。
それにしても誰か、サングラスください。
さっきからロジオン様、魔王……失礼、冥界の門番という二つ名をお持ちの魔族のくせに光眩い攻撃を手からずっと放出され、お目目がずっと太陽を見ているような感じなのです。
この世界、魔族でも光の魔法が使えるんですか?
しかも光が昔懐かしいバブル時代のミラーボールもおそらく敵わないと思う派手派手しいキラッキラな七色に光る光なんですけど、皆さまお目目は大丈夫なんでしょうか。
「マーサ、お目目眩しくないでしゅか?」
「先ほど弱い遮光の魔法を使いましたが、もう少し強くしましょうね。
どうですか?」
「はい、ありがちょ。
ちょっと眩しかったけど、今、大丈夫」
周囲がサングラスをかけたようにはっきり暗くなり、再び視線を戦いに戻すことができた。
大地にはお父様とロジオン様、上空にはウラジミールという構図は変わっていなくて、ウラジミールが黒い霧のような攻撃を発しながら上空へ再度上昇した。
もちろん、それをそのまま逃がすわけもなく、威力が強くなった光が上昇するウラジミールを逃すまいとどんどん上へあがって、光の柱のようになっている。
普通魔族って闇魔法が得意とかじゃないですか?
魔族は闇だと勝手に思い込んでいた私の固定観念が古いのでしょうか?
それともお強いから規格外なんでしょうか?
多分、規格外なんでしょうね、と心の中でアホな独りボケ突っ込みをやらかしている間にもさらに戦いは進んでいる。
「これならどうだ、消し去ってやる」
再び急に上空に上がったウラジミールが手をかざすと、上空から巨大な岩が隕石のように落ちてきた。
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