助かった?
死ぬっ!
死ぬ前は走馬灯のように記憶が巡ると聞いたことがあるけど、今は自分が作った土の壁の魔法が消し飛び、ゆっくり炎の剣が自分めがけて振り下ろされるのが見えるだけだ。
もう駄目だ。
目をつむった瞬間、迫りくる熱い塊が一瞬で消えたのを感じた。
「え?」
「もう大丈夫だ」
聞こえてきたのは、お父様の声でもグレイやマーサの声でもない。
今まで聞いたことがないバリトンボイス。
恐る恐る目を開けると、声の持ち主はお父様や皇帝陛下よりさらに大きい体で、短い黒髪に黒目の彫りの深い顔立ちをした知らない男の人だった。
黒い鎧を着て、背から金の刺繍が施されているマントがはためいていて絵本で見たことがある戦乱時代に活躍した騎士様みたいだ。
「頑張ったな」
助からないと思っていたけど、助かった。
信じられない幸運に、言葉が出なかった。
いきなり現れた知らない人に助けられた幸運と衝撃で、ただ呆然と目を丸くしている私をよそに、その人は私の手足に絡みつく草の拘束を消し、がっしりとした腕でさっと私を抱き上げた。
「泣かずに頑張った。
女中に助けを呼びに行かせたとはいい判断だったぞ。
俺が来たからもう大丈夫だ。
あれはさっさと始末しよう」
背後でドンッという破裂音とともに、抱き上げてくれた人の背後を見ると、背後で草の上にうずくまっているベルトランの姿が。
この人、詠唱なしであのベルトランを抑え込める魔法を使えるということは、相当強い。
「ろ、ロジオン?
貴様ッ」
「ウラジミール、改心もせず俺が西の砂漠に行っている間に好き放題していたようだな。
あの時せっかく温情をかけてやったのに」
ロジオンと呼ばれた私を助けてくれた人は、余裕の動きでベルトランの、いやウラジミールを見た後、私を見て、草の葉でできていた切り傷を一瞬で直してくれた。
本当にいい人だ。
助かってほっとしたら、涙が出てきそうだった。
「あー、怖かったな。
守ってやるから大丈夫だぞ」
「ロ、ロジオンしゃま?」
「そうだ。私はロジオン。よく覚えたな」
「ありがちょ」
いっぱい聞きたいことがあるが、さっきベルトランならぬウラジミールからニンニク臭いと言われてしまったことを思い出した。
助けてくれた素敵なお方に、ニンニク臭を嗅がれたら恥ずかしいし、申し訳ない。
さっき殺されかけていたくせに、助けてくれる人が現れた途端、安心してニンニク臭が気になってしまう。
とにかく、臭いをまき散らさないようになるべく短い言葉でお礼を言った。
「どういたしまして。
何かいっぱい聞きたそうな顔をしているが、これから私はあの愚かなウラジミールに憑りつかれてしまった可哀そうな珊瑚の精を助けるから、大人しくしてここにいてくれるかな?」
「え? ベリュトランは助かりましゅか?」
「ああ、だからいい子にしていてくれ」
「はい」
大きくうなずいた私の頭にポンと一回大きな手を置いた後、ロジオン様は唇に余裕の笑みを浮かべたまま私を再度草むらの間にできたくぼみに下ろし、振り返って一歩進み出た。
蹲ったまま言葉にならないうめき声をあげて動けないウラジミールに向かって、手を掲げ何やら詠唱を浮かべたロジオン様。
蹲るウラジミールの周囲に大量の水魔法で水の壁ができ、その壁を銀色の薔薇が檻のように周りを囲み、水の中にウラジミールが囚われた。
私がさっき詠唱なしで作った水の檻と比べて、その頑強さは比べ物にならないことが檻から放たれる魔力で分かった。
「あー、水の中に空気の膜を張ったか。
だが、抵抗すると空気が減るぞ」
水の檻の中を覗き込み、観察しているロジオン様に向かって水の檻の水がガタガタと激しく動き、水が飛び散ったが、一瞬で檻は元に戻った
圧倒的な魔力の差。
しかも、ロジオン様が醸し出す余裕の空気が、もう少しで殺されそうだった殺伐とした雰囲気を消してしまった。
「さて。まだかな」
ふと上を見上げたロジオン様の視線の先。
「ああ、来たな」
ロジオン様は一体どこを見ているのだろうと、数十秒、同じように青い夏の空を眺めていたら、北の山脈の方角から、黒い小さな塊がいくつかこちらにものすごい勢いで向かってくる光景が見えた。
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