絶体絶命ですか?
「まさかっ、……セシル様?
どうして?」
切り刻まれた草の後から姿を現した私を見つけたマーサが駆け寄って私を抱き上げた
「……ごめんなしゃい。
私、おとうしゃまの本当の子供じゃないって聞こえたかりゃ、戻ってきました」
「セシル様……」
問いに揺らいだ目が、完全にお父様達と家族じゃないという事実を教えてくれた。
「……マーサ、私がこいちゅを少し抑えている間に、マーサだけでも転移でおとうしゃまのところへ
逃げれましゅか?」
「なっ、何を言うのですか!」
「大丈夫、簡単に殺しゃれないです」
ああ、やっぱり。
マーサだけだったら転移で逃げ切れるのだろう。
だったらマーサがお父様のところに転移して、私の命が助かるかはわからないけれど、この男はまだこの国で私の命を使って何かしたいのだから、まだきっと命の猶予はあるだろう。
それにもし間に合うのなら、お父様達を連れてきてもらって、ベルトランに乗り移ったこの男を捕獲したほうがいい。
「チビが何を言っているのか。
お前は……」
「うりゅしゃいっ!」
水魔法で水の檻を作ってベルトランを乗っ取っているウラジミールを囲んだ。
「うおっ!」
前世の記憶と今世読んだ本の内容が正しかったら、吸血鬼の王に効くかわからないが、吸血鬼は水が苦手なはずだ。
いきなり水の中に閉じ込められたベルトランもどきは、なんとか水の檻の中で空気を入れこもうと術を駆使しているが、通常の生き物なら先に水で溺死してしまうだろう。
おそらくこの術もすぐ破られるだろうけれど。
「マーサ、今のうちにおとーしゃまを転移魔法でちゅれてきてっ」
「でも」
「いいから早くっ」
「わ、わかりました」
ためらったマーサが一瞬で消えた後、水の檻は一瞬ではじかれた。
やはり、ベルトランが持っている魔力では私の魔法など力の差で早々決着がついてしまうことは分かっている。
「黒竜の女を逃がして気が済んだか?」
風魔法でぬれた服を乾かした吸血鬼は、数歩で距離を縮め、容赦なく私を抱き上げた。
「さて、洞窟でわが本体にそのエネルギーを直接移してやろう。
暴れるなよ」
まて、この場じゃなく、洞穴に帰る?
「なぜでしゅか?
この国で騒ぎを、ふがっ!」
「臭いっ!
この私の最も苦手な臭いを発するな!」
いきなり私の口を大きな手でふさぎ、ベルトランじゃない、ウラジミールは苦しそうにしゃがみこんだ。
なんと、ニンニクが苦手なのも共通事項なのか!?
口をふさぐ手を思いっきり噛み、一瞬緩んだ手から顔を出して思いっ切り焼肉の残り香薫る息を吹きかけた。
「うぎゃあっ」
腕の中から乱暴に放り出され、地面に転がり落ちて痛かったけれど、ニンニク臭に苦しむそのすきに距離をとって草むらの中に逃げた。
マーサが戻ってくるまでに時間を稼がなくては。
「無駄だっ」
けれど、走って数十秒もたたないうちに相手が目の前に降り立ち、真っ赤な目を怒りで充血させて睨みつけてきた。
「やめた。
おぞましい臭いをまき散らすチビに用はない。
お前はここで処分する」
ビュンと風の刃が私の首をめがけて飛んできた。
寸でのところで土の壁を作りよけたものの、幼児の防衛など一瞬で終わりだ。周囲の草が縄のように足に絡みつき、動きを奪った。
体を縛る草を炭化の魔法で消しても、その上から新たな草が次々と体を包み込んでいく。
「温情をかけて一瞬で殺してやろうと思ったのになあ」
ゆっくりと手を挙げたその指先には炎が剣状になっていた。
「これで切り裂いてやろう。まずは腕か?」
体は草で縛られて動けず、その指先がこちらに振り下ろさるのを見ているしかできない。
「いやアッ」
襲ってくる炎の恐怖に目をつぶって、襲ってくる炎の剣から身を守るために大量の泥で檻を作り振り下ろされる剣を止めようとした。
視界が土で覆われた向こう側でドンッという音がして、一瞬で泥が崩れ去って熱い空気と炎の塊が頭上に下りてきた。
殺されるッ。
読んでいただいてありがとうございます。
気に入っていただけましたら、ブックマークと応援よろしくお願いします。
また、お恥ずかしながら、誤字脱字ありましたら、報告よろしくお願いいたします。




