聖人だけじゃない
「じゃあ昨日までは本来の体にいたのですか?
そして次の体は、そのベルトランですか?」
「それまでは妖精族の若い男だ。
この男の体を手に入れたのは昨日だ。
妖精族の男は私の本体が眠る山の付近で遭難し、雨をよけるために洞窟に避難しにきた。そして洞窟で私の棺に触れた男の体に移ったのだ。
その男の命が手に入れば復活できると思えるほど魔力が高かったが、どうせなら、復活する前に、前の体を屠った赤竜が住んでいた竜王族の国に一泡吹かせてやろうといいことを思いついた。
竜王族の国と他の国に諍いを起こしてやろうと」
「まさか、そこで妖精や魔族の子供を誘拐してこの国へ連れてきたのもあなたですか?」
「ほう、女中の割には察しが良いではないか。
そう、ノーザンバランドの子供とルードリア帝国の子供たちを何人か攫って、皇帝の三百年記念祭期間中にまとめて子供達の遺体をさらしてやろうと思ってな。
三百年記念祭なら各国から多くの者が来るだろう?
どうせならノーザンバランドのどこかの国から攫った子供も殺しておけば国際問題になるだろうからな。
だが、妖精族の男の記憶では、聖人が死んでからすぐに、私が作りたい魔法陣を作ると魔導会という厄介な存在に捕まってしまうことが分かった。
だから今度は聖人の時に培った知識と経験を活かしながら国を移動し、魔法陣を使わず寒村や、はぐれた場所に住む妖精族や魔族を密かに襲い、襲った者の中から使えそうな者を二人選んで魔導会とやらに嗅ぎつけられない魔術を施した使役の魔法陣を施し、やつらの同族の子供を攫い、連れてくるよう命令した。
もちろん、失敗したらその場で自害して、私までたどり着かないようにしてな。
転移魔法に耐えられそうな年の子供を攫わせることに成功した後、子供達はこん睡状態にして、国境を無断で転移してもわからないように子供達と一緒に、夜明けの時間にルードリアの公園の林に転移した。
そこでだ。夏の早朝にもかかわらず、散歩している奇特な人間に、転移してきた現場を見られてしまった」
「それがわが国で誘拐事件を起こし自殺した男ですか?」
「ああ。
転移した途端、意識を取り戻し泣きわめいた子供の声につられて現れた。
今思えば、あの時気絶させた後、子供と一緒に殺してしまえばよかったと思うが、その時ルードリア帝国の子供を攫わせる手駒ちょうどいいと思ったのだなあ。
だが、早速使おうと思ったら、そいつは魔力が少なすぎた。
まさか魔素の多いルードリア帝国に住む人間の魔力が、あんなお粗末なものとは思わなかった。
仕方がないのでその男の魔力を増やすために、まずは魔力を貯める魔法陣を書く場所に隠す術を施したが、意外に魔力を食ってしまったので早速うるさい子供を殺して魔力を貯めた。
自分の魔力は減らしたくなかったからな。
そして新たな手駒になった男に国賓として来ていた他国の子供が街に出るときに誘拐させることにした。
ところが、あいつは失敗した。
しかも魔法陣の場所で見つかってしまった。
残っていた二人を使って次の子供を手っ取り早く攫おうと思ったが、警邏が厳しくなったから、もう一度洞窟に戻って計画を練り直すことにした。
そして戻った矢先、何やら魔法陣の痕跡を追跡してくる妙な術が届くわ、ルードリア帝国の国境の入出力の管理が厳しくなって許可なく転移魔法で出入国はできないという話は聞こえてくるわ、ルードリア帝国で何か事件を起こすことはあきらめようかと思っていた矢先、このベルトランという男が山に現れたのだ。
この男は、私と使役していた二人を怪しみ、我々を捕縛しようとした。
だが、洞窟の私の本体に近い場所にこいつが移動したのが運の尽きだったな。
私はこの男の気配を察知したその瞬間に本体に戻り、この男に乗り移った。
この男の精神は強くて、この体をいただくために使役した三人の命を使わなくてはならなかったが、この男は今まで使った中で魔力も強く知識も半端ない。
しかもルードリア帝国に簡単に出入りできる。
いい体を手に入れることができた。
更にこの男の記憶のおかげで、面白いことを知ることもできた。
三年前、私を屠ったあの赤竜の伴侶が、死んだ子の代わりにルドンの街で拾った子を育てているらしいということをな。
だったら帝都に向かう前にその黒の大公が育てているという子供を使ってひと騒動起こしてやってもいいだろうと思ったのだ。
面白いだろう?」
「なっ、面白さのかけらもないです!
しかも……いったいどれだけ命を奪えば気が済むのですか?」
胸糞悪い長い話を得意げにとうとうと話し切った男は、マーサの怒気のこもった声に顔をしかめた。
「うるさい。
冥途の土産に話を聞かせてやったんだ。お前の説教なんぞ聞く耳も時間もないわ。
さあ、お前はどうしてやろうか。
さっきの館の竜たちは後で使役してやるつもりで生かしてあるが、お前はどうしてやろうかな。
ああ、その前に、いつまで隠れているつもりだ? そこのチビは」
語り終えて満足したベルトラン、いや吸血鬼の王は、私が隠れていた周囲の草を一瞬で切り払い、にやりと笑った。
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