正体
「……おのれっ」
凄惨な話を実に面白い自慢話のように語る姿に、マーサが握っていたこぶしから血が流れているのが見えた。
彼女の怒りの感情がびりびりとあたりの空気を震撼させて、風が吹き始める。
マーサから黒竜特有の気象を操る力が、怒りのあまり無意識に漏れ出している。
明らかに周囲の空気の温度も下がってきているのに、相手はベルトランの体を手に入れ、彼の能力を操れる余裕からか、マーサの怒りの波動を感じても鼻で嗤うだけだった。
「ああ、もう冥途の土産話は聞かなくていいのか?」
「黒竜の私を殺せると?」
「黒の大公ではあるまいし。
この男の力なら、お前など屠れるだろう」
言葉通り、ベルトランが右手を軽く挙げると、風がやみ、流れていた雲がゆったりと元の夏空に戻った。
「お前の力など、簡単だ。
まして本体が復活したら竜王族など目ではない。
三年ほど前に怒り狂ったあの赤い竜にやられて力を若干失ったが、この男を使えば前以上の力で復活できるだろう」
「本体の復活のため?
どういう意味ですか?
人間の命を奪って、そのエネルギーで冥界の神を弑して生命の平等を行うと謳っていたのではないですか?」
「生命の平等なんてものは、信者と言う手駒を増やすために、あの時体を借りた男の思想の残り香を利用させてもらっただけだ。
ああ……、冥界の神を殺すという名目は丁度よかった。
奪った命を使って冥界の神ではなく、古い魔族の中で「冥界の門番」という別名を持つ男を殺したかったからなあ。
三百年前、卑怯にも傷を負った私を不意打ちし、吸血鬼の王たる私を、北のみすぼらしい山の洞窟に封印した男に復讐するために、魔王に匹敵する力が必要だった」
「あなたは吸血鬼なのですか?
この炎天下の中にいるのに?」
相手のあっさりとした正体の告白もだけれど、吸血鬼だということにもすごく驚いた。
確かこの前読んだ魔族の種類が書いてあった本には、この世界の吸血鬼も人の血を吸って、霧になって移動し、蝙蝠に変身すると書いてあった。
ただ、この世界の吸血鬼は血を吸われた人間は吸血鬼にならないし、血を吸った吸血鬼の傀儡にはならないそうだ。
でも太陽光の他に、銀にも弱く、トネリコの杭で心臓を打たれると死ぬと書いてあった。
そんなこの世界の吸血鬼なのに、この夏の太陽の下で平気な顔で動き回っているということは、相当力が強いのだろうか?
マーサの驚愕の声に気を良くしたのか、相手は「仕方がないな、教えてやろう」と語りだした。
「私は月夜の下でしか出歩けず、血を吸って満足しているだけの下等なものとは違う。
さっき、私は吸血鬼の王と言っただろう?
それは私が命をも吸って力を得られるから王という存在なのだ。
陽光の下を歩き、変幻自在で、怪力無双。
魔法陣を操り、美しい魔法陣の中に奪った命や魔力を貯め、自らの力に変換する吸血鬼の王だ。
きっとあの男は私の力が脅威だったから私を封じたのだろうな。
だが、私は封じられた体から意識を切り離して、洞窟に住む弱い生き物の意識に乗り移ることで外の世界に戻れる手段を探した。
そしてついに、私が封じられた山だとも知らずやってきた若い神官に乗り移り体を得ることができた。
当時の私は、棺に近づく動物を操り意識に乗り移ることはできたが、人に乗り移ることはなかなか難しく、なかなか心を完全に操ることができなかった。
だから暫くはあの神官が望む治癒の魔法陣や、植物が育つ魔法陣を夢という形で教えてやった。
だが、教えてやる代わりに、やつが信じていた従来の神々の無力さを延々と夢の中で訴え、世の不平等さ、無常さを知らしめ、奴が望む世の中を作るには、今までとは違う新たな信仰が、お前の力を使って自ら聖人となって世の中を変えることが必要だと説いてやった。
人に役立つ能力が上がったと喜んだ神官は、私が吹き込んだ夢のシナリオ通り自らを聖人と名乗り布教活動をはじめ、ナーガ教団を作りどんどん信者を増やしていった。
そして頭の中でささやく私を盲目的に信頼していった。
それがやがて自分の体を完全に奪われると知らずにな。
男を完全に操れるようになった後は楽しかったなあ。
信者の中で強い者を使役の魔法陣で使い魔力や命が溜まる魔法陣を与え、彼らの魔法陣にはどんどん奪った魔力や命が溜まっていった。
おかげで本来の体が復活できそうなほどになった。
でも、ただ復活するだけでは面白くない。
そこで、どうせなら教団の信者どもと、残っていた人間の最大の国と言われているクローデン王国を争わせて、両方を殲滅させて大量の命を得てさらに力をつけて復活すればよいと思いついた。
しかもその時にクローデン王国を守護する竜王族の貴族に赤ん坊が生まれたことも知った。
どうせならその赤ん坊の命の力も欲しいと思った。
そう思いついたらどうしてもその赤ん坊が欲しいと執着してしまった。
それがいけなかった。
赤ん坊を奪ってみたものの、転移魔法で赤ん坊は塵と消えて命は得られず、後を追ってきた母親の赤 竜の女に体も、あの女の魔力を奪った魔法陣も、その襲撃時に奪った命を貯めた魔法陣もやられてしまった。
あの赤竜の強さは本当に計算外だった。
寸でのところでなんとか近くにいたネズミに乗り移って本体に戻った。
だが体は失ったが、今まで貯めてあった力はそれほど失っていなかったことが幸いして新たな体を奪うことができた」
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