知らなかった真実
……人間の子供?
私のこと?
その言葉が刺さって足が止まってしまった。
「何を言っているのか……」
「マーサといったか?
私はこの男、ベルトランだったか? その男の体の記憶はすべて見た。
この男がルードリアの南の海の珊瑚の精霊の一族であることも、お前は私が城に入って出迎えた家令の妻であることも、黒の大公の娘が実際はクローデン王国の私が襲撃したルドンの街の領主の館の奥で見つけた子供だということも知っているぞ」
「まさか……、そんなバカな」
うろたえるマーサの口調が相手の言葉に真実味を与えて、私の足を止めさせた。
早く言われた通り走って逃げないとと思っているのに、なぜか足は止まってしまって近場の草むらに隠れた。
「ベルトランを乗っ取ったというあなたは何者です?」
「ああ、私か? 最近お前たちに一番なじみがある言葉だと、私はかつて聖人と呼ばれていたこともあるなあ」
「聖人?」
ベルトランもどきとマーサは数メートルの距離で向かい合っていていた。
足音を消して草むらに隠れながらよく聞こえるように更に側に近寄って話を聞く。
草がちくちくするけど今は彼らの話が聞きたい。
勝者の余裕なのか、ベルトランの顔で嫌らしい嗤いを浮かべ淡々と言葉を続けた。
私を大好きなお父様の子供じゃないと言い切ったベルトランを乗っ取ったというかつての聖人だという男。
そしてわなわなと震えているマーサの後ろ姿。
震えるマーサの後ろ姿が相手の言葉を肯定しているようにしか見えなかった。
「聖人、あれは打ち取られたはずです」
「ああ、打ち取られたのは神官の体の時のものだ」
「まさか、その聖人とやらも操っていたのですか?」
「ああ。
あれが今のところ一番長く使った体だな。
治癒魔法を使えて、使い心地もよく、見目もよかった上に神官という立場もあったから周りの信頼も得やすく人を支配しやすかった」
「聖人が傀儡だったのですか」
「そうだ。
だが、当時の私はまだ弱っていたし最初のうちはあの体の持ち主にだいぶん良くしたぞ。
あの男の体にいる間に、あやつが作りたかった宗教国家とやらの夢を実現させてやったんだからな。
まあ、国を作って諍いを起こして命を奪えば奪うほど、私の体の復活も早くなるから一石二鳥だったが。
ただ、北の大公のもとに生まれたばかりの子供の命が欲しいあまりに奪ったものの、赤ん坊は転移に耐えられず塵になり、全く役に立たなかった」
お父様達の赤ちゃんが転移魔法に耐えきれなかった……。つまり、本当の子供は……。
あまりの衝撃に、思わず尻もちをついてしまった。
尻もちをついた瞬間、貫頭衣からのぞく腕を草の葉で切ってしまったけど、痛みなんか感じなかった。
ただただ呆然とする私の耳に二人の声がただ流れ込んでくる。
「まさか竜王族も生まれて三年経つまでは、転移魔法は使ってはならない種族などと、あの時はじめて知った。あれは失敗したが、いい勉強だった」
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