襲撃者
「グレイはッ?」
あの爆発は、誰がやったのだろう。
もしあのベルトランがやったのなら、グレイは大丈夫だろうか。
ベルトランの魔力はお父様達よりは弱いけど、竜王族の中では相当なものだと聞いている。
幸い建物の瓦礫は飛んでこなかったが、竜体のマーサが一旦私を見た後、飛行速度がさらに上がった
「セシル様、怖かったら目を閉じていてください」
竜になったマーサから声が聞こえた。
「マーサ、喋れる?」
「はい。とりあえずグレイが時間稼ぎをしている間に逃げ切ります」
「マーサ、転移魔法はちゅかえないの?」
「残念ながら、セシル様の今のお体には転移魔法は特殊な魔法をかけないと、命が危ないのです」
「ちっちゃいから?」
「そうです。そして、残念なことに私もグレイもその特殊な魔法を使えるほどの魔力がないのです。
ノーランがいれば……」
「ノーラン!
ノーラン大丈夫?」
「セシル様、まずはご自分の安全を確保しましょう。帝都へ向かいます」
掴まれている指の狭間からそのまま城だった瓦礫の山と、さっきまでいた優美な外観の本宅が見えた。
「ノーラン、グレイ……」
本宅は綺麗なものだが、グレイもノーランも顔を見ない城で働く者たちもみな大丈夫だろうか。
そして、ヴァルハランドの街は特に火の手が上がったりしていないが、住民は大丈夫だったのだろうか。
恐怖と不安な気持ちとは全く関係なく眼下に広がる風景はのどかで、どんどん遠くなる城と、背後の山脈、城の周りに広がる白い石造りの街並みと街中を流れる山からの小川。
街から外れれば緑の森と草原がのどかに広がっている。
ふと視線を瓦礫の山に戻すと、遠く小さくなった城のほうから小さな影が勢いよくこちらに飛んでくるものが見えた。
「……グレイ? ノーラン?」
「違います!
セシル様、耳と目をふさいでください」
言われるまま耳に手を当て、目をぎゅっと閉じると、体にかかる重圧がめっちゃ上がった。
正直、ジェットコースターなんてちゃちいなというくらいの急加速よ。
魔法がかかっているからある程度保護されているのだろうけど、あまりの加速に息が苦しいし、内臓出ちゃうか失禁しちゃいそうだよ。
なんとかこのまま逃げ切ってお父様のところに辿り着きたい。
でも、ものすごい風圧の中、何かが近づいてくる気配がする。
キーンと耳鳴りがする速度が急に落ちて、高度がガクンと落ちた。
「落ちちゃう!」
思わず目を開けると、マーサが何とか態勢をとり戻そうと再び上を向いていた。
「無駄だ」
目の前に急に表れたのは、見知った顔のベルトラン。
でも目やはり赤く、全身血に染まっていた。
その血はまさかグレイのものだろうか。
「その子供をよこせ」
声音もベルトランと同じ。でも明らかにベルトランではないその男は、逃げようとするマーサに何やら呪文を投げつけようとした。
「危ない、マーサ!」
「セシル様っ」
呪文を詠唱し終える前に攻撃するのが鉄則と教えてくれたのはベルトランだった。
師匠の教えに従って、竜の大きな指の間から敵に向かって地面にたたきつける重力魔法を飛ばしたけれど、私の術は数秒しか効かず、相手は逃げた私たちにすぐ追いついた。
その余裕の顔はまるで、狩った獲物をいたぶって遊ぶ猫のようで背筋が寒くなる。
「まだ鬼ごっこをするか?」
追いつかれそうになったマーサが近くの平原に降り立ち、竜から人型に姿を変え、私を群生するセイタカアワダチソウの合間に隠した。
「セシル様、隠れてできるだけ遠くに走ってください」
草むらに置いた私の背を押し、私を隠すかのように男のいるほうに戻っていくマーサ。
「マーサはッ?」
「私は大丈夫です。ここは危ないですから少しでも離れてください。
後で探しに行きますから、早くっ」
彼女の必至な形相にこみ上げてくる恐怖を飲み込み、彼女に頷いてから背の高い草むらを小股でかけだそうとした。
でも、聞こえてきた言葉に足が止まってしまった。
「どうして、竜王族のお前たちが、たかが人間の子供を守ろうとする?」
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