本物?
奥の塔と呼ばれる建物は円形の背の高い塔を背後にもつ、ステンドグラスがいたるところにはめ込まれたこじんまりとした城だった。
しかしまあ、お父様は昔から私を限られた者しか近づけなかったことは分かっていたけれど、さっきもこんなでっかい城と庭を通ってきたのにマーサとグレイ以外誰とも会わないってどういうこと?
「ねえ、グレイ、マーサ。
他の使用人はどこにいましゅか?」
「セシル様、前もお話ししたと思いますが、エーミール様のご命令です。
エーミール様やルカ様がご一緒でない時は決まった者以外お姿を見せないのです」
「それは聞いてましゅが……、城やこの塔で働いてる者たちにもお礼いえましぇんよ?」
この離れの城でも吹き抜けの広い玄関ホールは塵一つなく、天井のシャンデリアもピカピカだ。
「お気持ちだけで十分ですよ。
さて、お昼にしましょうか。
お昼寝が終わったら一階を少し探索しますか?」
「はい。見てみたい!」
城の中は本宅と同じようにアールヌーボー風。
こちらの城も上品な調度品がしつらえてあり、内壁の色彩は柔らかいベージュとミントグリーンでまとめられている。
まずはお昼ご飯を食べようと、本宅の食堂より狭い食堂に入った。
中央の楕円の大きなテーブルに、マーサがお弁当を置いてふたを開けると、一口サイズに切った牛タン、カルビ、ロースの焼肉と、ガーリックライスと、素焼きされた夏野菜たち。
美味しそうです!
でも、お父様、確かにニンニク好きと言いましたが、ほんのり香る程度でよかったんですよ?
そこに本宅の料理長からマーサとグレイ用にもニンニクがたくさん入った焼肉ランチが準備されたから相乗効果で食堂の中どころか廊下にまで漂っていたニンニクの香りには苦笑いを浮かべるしかない。
食堂から廊下を南に歩き、その中でこじんまりとした部屋をマーサが選んで入った。
一階なので部屋からそのまま庭に出られるようになっているけれど、ちょっとした窓のドアノブや窓枠に草花の装飾がしてあるし、部屋の壁紙にもドアノブと同じ形のかわいらしい草花が散った柄だし、アイアンレリーフも同じ草花のように見える。
「かわいいお部屋」
「気に入りましたか?」
「はい」
まだ眠気は襲ってこないので、グレイがテーブルの上に置いた本を見ることにした。
椅子に座って本を開いたけれど、椅子から見えた外のお庭もこれまたきれいだった。
さっき通ってきた中庭のようなゴージャスさはないけれど、広い芝にと花壇には色とりどりのペチュニアみたいな花が咲き乱れていて、素朴だけれど、とても可愛らしい。
「おっ、また来客みたいだな」
「ノーランがまた玄関に向かいましたね」
「えー? またおとーしゃまと結婚したい人でしゅか?」
「おそらくな」
苦笑いを浮かべているマーサとグレイ。
うーむ。
確かに子持ちでもあのでっかい本宅の城と、この奥の塔と呼ばれる小さな城を持っていて、北方のヴァルハランドを治めている独身男性なら、イケメンじゃなかったとしても超大金持ちの超優良物件で女性が群がるだろうな。
勝手に不吉な妄想をしていると、グレイとマーサの動きが止まった。
「どうかした?」
「おかしい。
本宅の玄関の客と一緒にノーランの気配が玄関から消えた?」
「グレイ、念のため」
「ああ」
顔色を変えた二人が視線を交わしあうと、すぐさま異常事態の連絡をお父様に魔法で送った。
途端、ノックもなく扉が開き、久しぶりに見るベルトランが現れた。
今日のべうトランは疲れているオーラ全開なのか、私の目の錯覚なのか、何か黒い霧のような靄のようなものが彼の体の周りにまとわりついていて、思わず目をこすった。
「ベルトラン?
ノックもなくどうした?」
突然現れたベルトランにグレイ達が怪訝そうな顔で様子をうかがった。
三者互いに見つめあっている。
「ベルトラン、本宅の玄関でノーランに会わなかったか?」
「私たちがよくこっちにいるとわかりましたね?」
扉から部屋の中に一歩足を踏み入れたベルトランは二人の問いには答えず「ニンニク臭い」とつぶやき項垂れた。
まだ私たちニンニク臭いでしょうか。
ブレスケア必要ですか?
今日のベルトランは赤い長い髪が乱れ、いつもより顔色が悪い。
そしてもう一度顔を見てみると、いつも理知的に輝く緑の目が……。
「そのベリュトラン違うっ!」
「何っ?」
部屋に入ってきたベルトランに本物ベルトランに教えてもらったことがある突風の魔法を全力で吹き付けた。
「うわっ」
幼児からいきなり攻撃を食らうと思わなかったのだろう。
入ってきた扉から廊下の壁にたたきつけられたベルトランもどきは、めり込んだ壁から抜け出そうと真っ赤な目をして何やら呪文を唱えだした。
「まさか……操られてるの?」
「マーサ、セシル様と逃げろッ」
グレイは呪文を唱えるベルトランもどきの口に水の球で動きを封じ、マーサと私に窓側を指さした。
マーサは庭に飛び出すやいなや、三メートルくらいの黒竜に変化した。
初めて見るマーサの竜化に驚く私に、グレイは何やら早口で魔法をかけて窓からのぞく黒竜マーサが差し出されていた大きな前足に私を乗せた。
マーサは私を大きな指?爪でかかえると、すぐに急加速で飛びたった。
その瞬間、奥の塔が吹き飛び、その風圧で飛んでいたマーサの体が揺れた。
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