ちょっと思い出してみる
そう、夢の出だしは白だった。
久しぶりの気持ちいい眠りの夢は長かったが、ほとんどが白色だった。
白い世界でまるで自分が生まれたての赤ちゃんに戻ってはっきりと物は見えないけど、愛され、大事にされていたような夢。
しかも、夢なのに心地よさに負けて何回夢の中でも眠ったか。
夢の中でも何かおかしいぞ、この夢はいつ覚めるんだと思っても眠気には勝てず、いつも意識を手放していた。
で、急にものすごい空腹感と嫌な臭いを感じると火事のようなすごく嫌な香りだった。
しかもお腹の上に何か乗っていて動けなかった。
この固いもの。起きた今もお腹の上に硬くてどこか冷たい硬いものは載っている。
で、硬いものは載っているわ、何かにくるまれているようで動けないわ、しかも、どんどん煙臭くなってくるし、ドーンという地響きが伝わってきたし。
これ、火事?
やばいんじゃない?
眠っている場合じゃないよ、目を覚まさないと思っていたら、若々しい子供のような声と大人の男性らしい艶のある声が喋っている声が聞こえ、ドカンと何か壊す音がして、ひょいと自分が抱えられた。
これは救出されたのか?
ほっと安心して意識は再び遠のき、今に至ったわけだ。
しかし、こんなに気分上々な朝って久しぶりすぎて思い出せない。
振り返れば、半年前、転職したのはいいけど、残業過多のブラック企業から、お局様君臨の陰湿いじめ企業に変わっただけだった。
私にとって残業多いほうが人間関係悪いより楽なんだと身をもって知ったわよ。
社会人になって入った地元で有名なメーカーはふたを開けたら残業ばかり。
しかも次第に残業どころか年末年始もお盆もゴールデンウイークも休みなく働く環境に陥って疲れ果ててしまった。
死んだ魚のような眼をしてくたびれていた私に、数年ぶりにあった学生時代の先輩に再会したとき
「残業なしだし、給料も上がるし定年で辞める内勤の人の後任探しているから来てよ」と先輩の勤務する専門商社に誘われた。
その言葉に乗せられて転職したものの、来年の春の誕生日で退職すると言っていたおばちゃんったら、社内規定の変更で定年の年齢が伸びたとたん、笑顔で丁寧に仕事を教えてくれていた顔が般若の顔に変わり、規定変更を理由に「仕事は続けるし、あなたに私のポジションを引き継がせるつもりはないわよ。あんたに仕事なんて渡さない」といきなりメンチを切られましたよ。
そしておばちゃんから表でも裏でも嫌がらせを繰り返されたわ。
社内でも三本の指に入る社歴の長さで裏番長状態のおばちゃんから、その日からコネの中途採用なんだからどんな仕事でもやりなさいよと、会社の周りの草むしり、窓ふきを一人でやれとやらされた。
周りはもちろんおばちゃん怖くて見て見ぬふり。
しまいには秋風吹きすさぶ中、会社の建屋を横切るどぶに落ち葉が溜まってるからと、どぶさらいを一人でやれとまで無茶振りされ、なんとか業務の空き時間を見ながら完遂したけど体冷やして風邪ひいて大変だったわ。
業務じゃサーバーデータに保管してあったファイルの保管場所が勝手に変わっているわ、業務を楽に進められるように作った覚書は隠されるわ、書類や保管してある備品の置き場所変えられるわ、地味な嫌がらせが続いて本当にうんざりしていた。
でも転職したばかりだし、負けてなるものかと変な意地が炸裂して頑張っていた。
でも、社歴が長い上に外面がいい彼女の社内での発言力は強力で、社長から取引先まで仲良しこよし。聞いた話では気に入らない社員を何人もやめさせているらしい。
だからか誰も逆らわない。
会社に誘ってくれた先輩に相談したらしたで助けてくれるかと思えば、知らぬ存ぜぬ他人の振り。
しかもおばちゃんは人事課に、自分がいるのだから後任はいらないと、まるでまだ自分が何十年も働けるようなアピールぶりをして、猫の手も借りたい状態の部署がいくつもあるんだから異動させてあげなさいと私の意見など無視状態で上申。
こっちももうおばちゃんの後を引き継ぐ気にもなれないから、異動を受け入れたものの、なぜか異動先は未経験の営業。しかも私が入社する前から重大クレームを起こしていたチームへ。
異動先もどんな嫌がらせやねん。
直接執拗な嫌がらせがないからメンタル部分は楽になったけど、今度はクレーム対処で同部署の先輩たちと一緒に現状伺いと謝罪を繰り返し、社内で資料を漁り、改善案を模索しても、全然改善のめどが立たない吐きそうな毎日。
こんなことなら残業転職の後悔とやりきれなさと哀しみの入り混じった感情を持て余す日常。
転職の失敗で、更にふさぎ込みがちになって友達とも会う気にもなれず、数合わせの合コンも行く気になれず、干物女街道突っ走っていた。
ただ会社とマンションの往復の日常。
転職して発症した全身の酷いだるさと軽い頭痛が続く中、とどめを刺すかのようにぐるぐるとめまいまで始まってしまった。
でも休むことが許されない仕事。
逃げたい逃げたい逃げたいと願い続けた結果、目が覚めた場所がここ。
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