妄想で泣いてしまいました
血まみれになって倒れるお父様とお兄様……。
子供だからか悪い想像が膨れ上がって、いつの間にか涙も出てきて止まらなくなってしまった。
「セシル、どうした?」
プイと顔を背けた私の顔をお父様が覗き込んでくる。
「もし、聖人生きてたら、退治しに行く?
敵討ち……しゅる?」
「……もちろんだ」
「おとーしゃまもおにーしゃまも強い。でも強かったおかーしゃま死んじゃった。
死にゃにゃい?」
「こらこら、何を心配しているんだ。
セシルが心配することはない。
どうしたんだ?
ほらほら、泣いたら可愛いお顔が台無しだ。
あの頃は皆魔法陣というものを知らなかったし、国交もほとんどなくて北の山脈の向こうがどういう状況なのかも気にしていなかった。
だが、今はあの頃とは違い、山を越えて多少は交流しているし、情報も共有しているから大丈夫だ。
当時のお母様のように魔法陣で魔力を奪われることは起きないし、それにお父様はお母様より強いからね」
「うん、強いことは知ってましゅ。でも心配。
おとーしゃまもおにーしゃまも居なくなったら……」
「こらこら、泣くな」
「セシル、大丈夫だよ。
もし見つかっても叔父上一人で敵討ちに行くわけじゃないんだから」
「そうだよ、セシル。
心配しすぎだよ。ねえ、父上」
急に涙が止まらなくなってしまった私に焦ったお兄様とカイル様が慌てて駆け寄ってきて顔を覗き込んできた。
「ルカの言う通り、心配しすぎだ。
今からその状態だとセシルのほうが心配だよ」
やっと涙が止まって、マーサが差し出したティッシュを受け取ったお父様が鼻をつまんでちーんと鼻をかませてくれたら、一緒に悪い妄想も飛んで行って幾分冷静になってきた。
「泣いてごめんにゃしゃい」
私の右側左側に分かれて涙を拭いてくれたカイル様とお兄様も、涙が止まってほっとした表情だ。
ううっ、前世持ちの大人なはずなのに、精神年齢は大人だったはずなのに、見た目年齢通りに感情の起伏が激しくて申し訳ない。
「謝ることじゃないよ、ね、叔父上」
「そうだよ。セシル。
心配してくれてありがとう。
優しい子だね、いい子、いい子」
「おいおい、心配してもらえて鼻の下が伸びているぞ、エーミール」
「そりゃ嬉しいですよ。
兄上、うらやましいんでしょう?
セシル、その事件で気になることがあるから、お父様は明日さっそく王宮に行こうと思っているんだが、寂しくて泣いてしまうかな?」
「えー?
それなら王宮に一緒に行きたいでしゅ。ベリュトランもいないし、私一人でしゅか」
「ん-、ベルトランが教えに来てくれるまで、まだ暫くかかるかもしれないな。
連れて行ってあげたいが、明日のお仕事は大人がいっぱい集まる場所だし、カイルとルカの勉強の場は他の貴族の子もいるからなあ。
ルカも私も早く戻るからお留守番してもらいたいなあ」
「わかりました。
じゃあ、おうちでいい子にしてましゅ」
お父様とお兄様がそろって不在にすることは滅多にないが、あんな事件が起きてしまったのだから、お父様もいろいろ手伝わねばならないのだろう。仕方がない。
「じゃあ、って何だ。じゃあって。
泣いたカラスがもう笑ったな。
いい子だからグレイやマーサの言うことを聞くんだよ?」
「いちゅもいい子ですよ?
だから、お留守番できましゅ」
「そうそう、セシル様はいつもお利口だもんなあ。
陛下、エーミール様、早めに事件解決してくださいよ。
でないとセシル様が「おまちゅりいけにゃい」って言って大騒ぎしちゃいますよ」
「やめなさいよ、グレイ」
私の口真似をするグレイの横でマーサが笑いをこらえながら止めようとするが、グレイの言葉で私が泣いて壊した場の雰囲気が柔らかくなったし、認めたくなくても噛み噛みなところが似ていて悔しい。
「そうだな。
確かに言う通り早く見つけないと、セシルだけじゃない、皆不安だろうからな」
「そうでしゅ、おにーしゃまもカイルしゃまも他のおうちの子供もおまちゅり行きたいと思いましゅ」
「セシルの期待にこたえられるようにおじさん頑張るよ」
ぽんぽんと私の頭に大きな手をおいて、陛下は笑った。
「エーミール、夕飯でも食べながらちょっと話をしないか?」
「王宮でとらなくてもいいのですか?
イリア様が王宮に一人でしょう?」
「ああ、今日私が出るときにちゃんと言ってあるから心配ない」
皇帝陛下は鼻歌でも歌いだしそうなほど軽やかに立ち上がり言葉を続けた。
「エーミールと一緒に厨房で憂さを晴らすと言ってな」
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