真犯人は他にいる
「それよりも兄上、ここに来た理由は何ですか?
カイルを迎えに来ただけではなさそうですが?」
「ああ、そうだ。すっかり本題を忘れていた。
例の誘拐事件の死亡した容疑者のことだ。
まず、犯人は生まれてからずっとこのルードリアの帝都の住民で独身。
去年両親を亡くしている。その他血縁等は皆無だということが報告された。
生前はルードリアにある百貨店の外商に五年程前から所属していて、王宮にも何度か御用伺いできているものだった。
親を亡くしてからうつ病を患い休職中だったが、三か月ほど前に復帰している。
勤務態度も休職前と変わらずまじめだったそうだ。
そして、交友関係も洗ってみたようだがあの教団との接点はまったくない人間だった」
「それはもう知っていますよ」
「だが、新たに分かったことがある。
犯人は操られていたようだ」
「操られていた?
兄上、それはどんな種類であれ、禁呪の一つでは?」
「きんじゅ? なにしょれ?」
おうっ、知らない言葉が出てきたぞ。
「禁呪というのは禁止された魔術や呪いのことだよ。
魔力が高い者が弱い者に対し無理やり自分が思う通りに相手を行動させたり、また嫌いな相手に不幸が訪れるようにするものだ。
魔力の低い者が高い魔力の者に金品などで依頼して間接的に行う場合もある。
基本的にその行為はどの種族でも禁止されている。
もちろん間接的に依頼した場合は依頼者も術者も有罪だ。
この国では、禁呪が発見されたら、術に残った魔力を追って加害者を特定し、その内容によって加害者、依頼者もいたら加害者と依頼者両名にかなり重い刑を科している。
それがたとえ痴情のもつれだったとしてもな」
つまり、あれですか?
彼と結婚したいから、奥さんと別れさせてくださいとか、私の夫に手を出して、あの女許すまじ、とかそういうやつとかですか?
恐るべき世界だ。
まさか、見たらテレビから人が出てきて呪い殺されちゃうビデオとか、藁人形持った人が神社に行って五寸釘コーンコーンと打ち込む丑の刻参りとかあるんですか?
今のところビデオデッキもDVDも鳥居がある神社も見たことはないけど、怖いっ!
ああいうやつ苦手なのよっ。
どろーっと重たい感じの背筋が寒くなる怨念みたいなやつは!
「陛下、呪いって本当に効きますか?」
「おや、知らないのかい?
恨みや妬みを持つ者が、魔力の強い者の力を借りて、その憎らしいものの不幸を願い、病気やケガ、中には殺してしまうこともあるんだよ。
基本的にそういう術は相手より強い力が必要になる。
有名な話だが、昔、ある国の貴族が自国の王様を操ろうと他国の妖精族に禁呪を依頼したのはいいが、術を施した妖精が国を乗っ取ろうとして依頼した貴族と諍いをおこし、その国は滅んでしまった。
そんな事例もあるものだから、禁止されることになった」
「兄上、セシルにはまだちょっと難しい……」
「大丈夫! おとうしゃま、わかりましゅ。もう大人でしゅ!
じゃあ、今回の事件が禁呪だとわかったから、使った人はもう罰を受けましたか?
共犯の犯人は皆捕まりましたか?
もう皆お祭りいけましゅか?」
お父様、話の腰を折らないで!見た目は子供、頭脳は大人だから(某アニメみたいだな)陛下のお話はだいたいわかるんだから!
「あ、ああ。
もう大人という言葉には同意できないけれど、えっと、セシルが祭りに行きたい気持ちは、よーくわかった。
だから、落ち着こう。
残念ながら今回は禁呪の魔法陣が犯人の遺体から発見されただけで、その術者が国内にいないとしかまだ分からない。
しかもその禁呪の痕跡を追跡したが、魔術で弾かれた」
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