カイル様
緊迫した空気の中、執務室の扉のほうがほんのり淡く光って、見慣れた銀髪の美少年が現れた。
「カイルっ?」
「カイルしゃま?」
「皇太子殿下……」
おかっぱヘアのお兄様とは違い前髪だけ横に長く伸ばした短い銀髪に琥珀色の瞳のカイル様は若干お兄様より背が高く、骨格がしっかりしているのか肩幅も広くがっちりと成長している。
「殿下っ」
光から現れたカイル様がいた場所から少しずれた場所が続いて輝き、多分城内で一番「焦り」という言葉が似合わない落ち着いた紳士、黒髪黒目の家令のノーランが現れた。
「ノーラン、ちょっと遅れたな。
鉄壁のノーランを出し抜けるほど、私の転移魔法の腕も上がったかな」
我が家の家令ノーランは下級貴族の出で、かつて竜王族の軍の中でも有数の騎士で魔力も力も追随を許さないと言われていた実力者で、守りの強さからついた二つ名は「鉄壁のノーラン」。
ノーランはその能力を買われてお父様の養育係に請われ、養育係から執事見習い、執事、家令へと出世。
ちなみにマーサの旦那様でもある。
満面の笑みを浮かべたカイル様はノーランなど気にも留めず金糸の刺繍で縁取られた貫頭衣の裾を翻し、一歩前に出た。
「叔父上、先ぶれも出さずに来て済みません。
セシル、葡萄のタルトと梨のゼリーを持ってきたよ。葡萄も梨も好きだろう?」
「しゅき!!」
グレイの腕の中から身を乗り出さんばかりに喜ぶ私に、カイル様は満面の笑顔で片手に持っていた白い紙袋を差し出し、それをお父様に促されたマーサが恭しく受け取った。
「カイル、いきなりここへ来てどうした?」
「ルカに邸内に入る許可は先にもらいました。
あと、王宮の方も大丈夫です。叔父上のところに行くことは護衛のアベルにも伝えてあります。
ルカはちょうど調査から戻ったベルトランに何か質問があると言っていたので、少し遅くなりますよ。
さて、聞いたよ。
私の小さなお姫様は自らおとり捜査の囮になろうと立候補したんだって?」
「おにーしゃま、カイルしゃまに話したの?
お口軽いでしゅ」
「ふふっ、ごめんね。ルカを怒るなよ?
私は可愛いセシルのことは何でも知りたいんだよ。
しかし、昔みたいにカイルでいいと言っているのに、淑女ぶってかわいらしいね」
「淑女ぶってじゃありましぇん、淑女でしゅ」
びしっと即座にカイル様の言葉に人差し指を差し出して訂正を入れると、カイル様以外なぜか皆が片手で顔を覆った。
ジェイクは片腕で私を抱きながらもう片方の手で顔を覆って笑っている。
冷静沈着なノーランですらマーサと顔をあわせて笑いをかみ殺している。
皆、失礼な。
生まれてこの方、普通の幼児より物分かりがよくて、こんなに手がかからない私を淑女と言わずなんて言うんだ!
笑いをかみ殺しているグレイの腕の中でプンスカしている私に、そんなときでもふざけた笑顔など浮かべず、私を気づかわしげに見つめるカイル様が近づいてきた。
「皆失礼だね。セシルは淑女なのに。
さあ、手土産を食べないか?
私とルカも作るのを手伝ったんだよ」
「しょれは楽しみでしゅ」
うむ、若干不満は残るが、手土産次第で皆の失礼の態度は不問に付そう。
読んでいただいてありがとうございます。
気に入っていただけましたら、ブックマークと応援よろしくお願いします。
また、お恥ずかしながら、誤字脱字ありましたら、報告よろしくお願いいたします。




