美味しいは正義
今日の夕食はお父様が作ってくれたローストポーク。
ローストポークもローストビーフも前世で作ったことがない私。
ほんと、離乳食からちょっと手の込んだ料理まで作れてしまうお父様、お偉い様なんですよね?
職業シェフじゃないですよね?
料理は気分転換なのだというお父様。
いつも食事の出来栄えのすばらしさを見るたび思ってしまうわ。
黒っぽい石の城の中。
シャンデリアが輝く立派なダイニングルームもあるけれど、私の記憶がある限り、来客や特別な何かがない限りお父様は自分の執務室の隣の続き部屋にある一枚板でできた簡素なダイニングテーブルでお父様と、子供用の椅子に座ったお兄様と私で、お父様が作った料理を食べるのだ。
今日は午前中、急遽王宮からのお客様があったからか、お父様はそのお客様が帰った後、難しい顔をして豚肉と向き合っていた。
その結果が、この美味しいローストポークである。
「おとーしゃま、ましゅたーどが欲しいでしゅ」
私のローストポークにはハニーソースはかかっていても、マスタードが添えられていないので要求する。
まだはっきり喋れないのはまだ幼児だからだ。ご愛敬だと思ってほしい。
「マスタードが欲しいのかい?」
「いりましゅ。おにーしゃまの皿にもありましゅ」
そう、お兄様の皿には添えられていて私の皿にはないとはどういうこと?
同じ子供ですよ!
指をさすのはお行儀が悪いので、視線でマスタードを睨む。
「セシルにはまだ早いと思うんだけどなあ。辛くて泣いても知らないよ?
お父様の分を分けてあげるから、今日はこれで我慢しなさい」
マスタードを取りに行くのは面倒くさいのですね、お父様。
ちょっと困ったように苦笑いを浮かべたお父様は自分の皿の上のマスタードを分けてくれる。
そう、私の記憶がある限り、おうち(お城)でのお食事は、来客時以外家族三人で食べているのです。使用人もそばには控えていない。
「ありがちょ」
たとえ思ったより量が少なくても、マスタードをもらえたのだから、言葉は噛み噛みでもお礼は言うのです。
「父上、この前のローストビーフの時もセシルはマスタードつけて食べていましたよ」
春から従兄弟のカイル様とともに帝都の王宮で帝王学を学び始めたお兄様は以前と比べ話し方が丁寧に。
でも、丁寧だからかどこか他人行儀な感じに聞こえて寂しい。
「ああ、そういえばそうだったかな。
ルカでもこの前やっとつけて食べれるようになったのになあ。下の子は上の子の真似をしたがるものなのかな」
いえ、見た目は子供、中身は前世の大人の記憶があるからだけ、なんてことは口が裂けても言えないけれど。
「ましゅたーど、大丈夫」
大丈夫だと証明するためにすでに一口サイズに切ってあるローストポークにマスタードをつけて食べる。
ハニーソースの甘みと肉の旨味、そしてマスタードの酸味のある辛みが絶妙なハーモニーで幸せ。
ああ、最高。
「しゃいこうです。
だからハムサンドもカツサンドも作るときは辛子塗って、おとーしゃま」
「しゃいこうって、どこでその使い方を覚えたんだか。
料理をほめてくれてありがとう、セシル。
しかし……ルカ、セシルに料理の本でも読ませたのか?」
「僕の本の中に料理はないですよ。
セシルはきっと味覚が発達してるんだね。大人だね」
「そう。おいしい料理好き。
アボカドは山葵醤油が好きだし、天婦羅はおつゆでも塩でも大丈夫。
トンカツは味噌でもソースでも好きでしゅ」
ちなみにそれら料理は全部お父様が作ってくれたものばかりだ。
ただ、疑問なのは、この家以外の食卓を知らないが、父よ、いったいどこでその料理を覚えた?
この世界の料理は私が知ってる世界と同じか?
「よく覚えているな……。わかったよ。それが美味しかったんだね。食いしん坊だなあ」
「どうせなら、おいしく食べたいでしゅ。
おいしいは正義でしゅ。
帝都のお祭りの屋台楽しみ!」
そう、来月は秋の豊饒祭。
しかも今年は今上帝在位三百年記念。
今年の豊饒祭は三百年記念式典と一緒に行うことが決まっていて祭りの期間も通常の倍の一か月。
通常より華やかで、お店も来客も増えるので、屋台もいつもの倍以上になると聞いた。
だから、私とお兄様と、従兄弟のカイル様とお父様と一緒に城下町へ行く約束をしているのだ。
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