結局、何を目指せばいいの?
女神ディメニアは怒っていた。
それはもう、めちゃくちゃに怒っていた。
ここまで盛大に怒りながら出てこられると、流石に少しだけ気まずい。
「アナタね!『勇者』ともあろう者が、そんな雑な思考パターンでどうするのですか!いい加減になさい!」
いい加減にしてほしいのはこっちも同じなんだけども。俺、来たくて来たわけじゃないし。
「…だってさぁ!いきなりそんなゴチャゴチャ詰め込まれて、納得しろっていうのがまずおかしいんだって!
何なの?!その
『転生させてあげましたよ、勇者ですよ、剣と魔法の世界ですよ、嬉しいでしょ?』
みたいなノリ!そんな簡単にノると思うなよ?!」
気まずくなりながらも、俺は諦めずに反論する。すると女神は、ほんの一瞬
「ぐぬっ」
という顔をしたような気がした。
が、すぐに呆れたようにため息をついた。
「そこまで言うなら仕方がありません。
アナタからは『神々の加護』を返上してもらわねばならないようですね。
…ただし、アナタは一度死んでいる身。
それを、神々の力で甦らされたのです。
ですから…。」
つい俺は、身体が「ギクっ」と震えるのを自覚した。
俺の今後ばかりか、生命まで、よく知りもしない神々とやらに握られているのか。
「ち、ちなみに…加護ってどうやって返すことになるの?儀式とか、やったり…?」
「そんなワケないでしょう。私が手をかざす、その一瞬で終わります。はぁ、残念ですねぇ。」
女神はこれ見よがしに、さらに大きな溜め息をついて見せた。
「選択肢は無い」、そう言わんばかりの一連の所作。
今度は俺が「ぐぬっ」という表情を、ほんの一瞬示してしまう。
そして俺は、落ち着いて考える。
剣と魔法。
与えられた、最強の力。
まだ把握しきれていない、
突如現れた、パーティメンバー。
神々の…加護。
この世界では、何が正義なのか。
いや、正しさとは何なのか。
何をもって悪と見做されるのか。
自分の眼で確かめることは、今の自分にとって重要なのは、間違いなさそうだ。
…よし、何とかやってみよう。
俺の心は…決まった。
「…わかったよ、やるよ。やるしか無さそうだし。まだ心の整理が十分についてないけどな…。ひとまず、何をすればいいんだ?」
肩を落として呟く俺を見て、女神が微笑む。
「そう、それでいいのです。勇者とは、そうでなければ。
まずは、眼前にいる少女たちと交流を深めるとよいでしょう。
きっと、アナタの力となり、そして道を示してくれるでしょう。」
そう言うと、女神ディメニアはパチン、と指を鳴らした。
「あ、あの、ユージーン様…どうしました?大丈夫ですか…?」
ミレットが心配そうに、俺の顔を覗き込んでいた。
…あの指パッチンで、女神ゾーンは終了したらしい。
「あ、あぁ、何でもないよ。大丈夫。
…それより、旅と同行の件だけど。」
「腹を括ったのかい?!」
「はい、師匠。」
「勇者に、お願い。私、連れてく。」
それぞれが、口々に希望を滲ませている。何故そこまでして俺に着いてきたがるのかは、よくわからないが。
「…決心がついたよ。勇者として旅に出ようと思うんだけど…。誰か一人よりも、みんな来てくれた方が心強いんだけど…どうかな?」
俺の言葉を聞くや否や、面々の表情が
ぱあっと明るくなる。
かと思えば、すぐさま互いを睨み合い、牽制し合う様が、側からも見てとれた。
「ま、まぁいいでしょう…。勇者様のご要望とあらば、断るワケには参りませんから、ね…!」
「おや嬢ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ…?!そんな恐い顔してるんじゃ、勇者様に嫌われちまうよ…?!」
「はい、師匠。」
「せいぜい、足、引っ張らない。私、十分。」
4人はしばらくの間、テーブルを囲んで火花を散らしていたが、俺はデザートをもらうことにした。
先が思いやられるが、勝手にやらせておこう。
何このプリンみたいなの、とろける!
諸々が落ち着いたところで、俺は切り出した。
「ところでさ。結局、勇者として俺はどこへ行って、何をすればいいと思う?」
最後の一口を味わった後、名残を惜しみながら俺は問いかけた。
「そうですね…。兎にも角にも、神殺しの団、中でも『闇の司祭』の情報を集めるのがいいんじゃないでしょうか。どうやら司祭は、謎だらけのようですからね。」
「そうだねぇ。アタシらも神殺しの団を追っていたし、ちょうどいいね。
この近くの港町『ポレポレ』にアジトがある、って情報を掴んだから、ここまで来てたのさ。だから、まずはそこを目指すのが良いと思うよ!」
「はい、師匠。」
「私、勇者様に、従う。どこでも、行く。」
港町のポレポレ、か。
海鮮料理が美味そうな響きだな。
何はなくとも、当面の目的は
「そこにたどり着くこと」
にするしかなさそうだ。
何てったって俺は、この世界について何も知らないし、「この世界の人々」についても、全く見聞がないのだから。
そう。身近な者についてだって。
自分なりに、少しずつでも考えたり、
思考を巡らせておくにこしたことはないだろう。
寝首をかかれないよう、注意しなければ。