4.下校
付き合おうと言われたものの、付き合うって何したら良いんだろう?
キスとかエッチとか??
いやいや、そんなんいきなりはないよねぇ。
デート?
うーん、遊園地とか?
そんなん中学生じゃお金ないし…。
動物園とか植物園?
いくらなんでも毎日は行かないよねぇ。
うーん。
電話もなぁ、毎日したらきっと怒られるだろうしなぁ…。
体育の授業が終わって、教室に戻る。
席につくと、折り畳んだメモが置いてあった。
『今日、一緒に帰ろう』
この字、あっちゃんだ!
体育の時、男子は1組の、女子は2組の教室で更衣する。
あっちゃん、着替えるときに私の席を使ったのかな?
色々想像すると鼻血出そう…。
そのメモを他の人に見られないように筆箱に隠す。
にやけそうになるのを必死でこらえる。
そっか、一緒に下校か、思い付かなかった。
私と一緒にいるの、見られたくないんじゃないかって思ってたけど…。
手、繋いだりするのかな?ドキドキする。
◆◇◆
放課後、2組の前まで行ってみる。
人がまだいっぱいで、あっちゃんに声をかけづらい。
「どうした?むんちゃん?津川?」
男子が私に声をかけてきた。
「違っ!…森たん待ってるねん。あっ!森たん!!」
教室の出口に通りかかった女友達を呼び止める。
「むんちゃん、どうしたん?」
「いや、あの…、元気?久しぶりやんな…。」
「ははーん、また私をダシに使いよって…。津川、掃除当番やし。」
よくわかっていらっしゃる。流石、小学校からの付き合い。
「あのさ、森たん、ちょっと!」
森たんの耳元でこそこそ話す。
「えっ!そうなん!?一緒に…、待ち合わせ場所決まってないの?ふむ。」
顔をあげた森たんが、大袈裟に、あっちゃんに聞こえるようにこう言った。
「むんちゃん真面目やなあ!放課後、教室に残って勉強するって!」
「も、森たん!」
「それじゃあ、頑張ってねー。バイバイ!」
森たんは私の肩を叩くと、手を振って帰っていった。
向こうで掃除しているあっちゃんと目があった。
ちょっと微笑んでくれた。小さく手を振って1組に戻った。
◆◇◆
掃除当番を手伝って、日直からも鍵を預かって、一人、教室に残って席につく。
自分の机に鞄を置いてその上に頬を乗せた。
廊下に面する窓を眺める。誰も通らない。
あっちゃんが迎えに来てくれなかったらどうしよう。
日が当たらないからまだマシだけど暑いなあ。
あ、今日、塾あるんだった。いつも昼寝してから行くのに、昼寝できないかもな…。
せいぜい30分くらいのはずなのに、すごく長く感じる。
コツンと私の頭が小突かれた。
「村井、帰るぞ。」
「ふぇ?…っ、津川!」
「半目開けて寝るなよ、怖いから。」
「!!」
「それに、頬に跡付いてる。」
「!!!」
ワタワタする私を尻目に、あっちゃんが笑いをこらえている。
「ははは!お前、もうちょっと色気とか要るやろ!」
「すみませんねぇ!色気も可愛げもなくて!」
ガタンと立ち上がり鞄を持った。
歩き出した私の後ろについて歩くあっちゃんが言う。
「ほんまやな、なんでお前みたいなんがええんやろな、俺は。」
「ほんま、趣味悪いわ…。」
教室を出て鍵をかけながら、小さく呟いた。
校門を出て歩き出したら、あっちゃんの方が歩く速さが速くて、何歩かに一回は小走りになる。
気付いたあっちゃんが私の手を握った。
「しゃーないな、トロい村井に合わせたるわ。」
「津川、憎まれ口ばっか。でも、いいや。ありがとう。」
学校から家までは5分。
たいした距離ではないけど、それでも嬉しかった。