大人になってから燃やせ情熱の炎
私は主人公と同様に高校まで野球漬けの毎日を送っていました。中学時代は市内で有名な選手だったのですが、井の中の蛙でした。県内の強豪高校に入ると自分よりも上手い、体もデカい、身体能力も高い選手に囲まれて気づけばベンチを暖めること日々。なにの意味があるのか理解してないまま倒れるまでやらされる練習。昔の軍隊のような、上の者が白といえばどんだけ真っ黒でも白、のような理不尽な上下関係。高校時代はトラウマの塊です。
しかし社会人になってから始めた草野球は世界が違いました。私の入ったチームではある程度の敬語などは必要でしたが、全員が友達のようにせっしている。とても居心地のいい場所でした。
草野球とは野球競技の最底辺である。
野球競技最高峰といえばMLBやNPB、さらにその下に独立リーグ、ノンプロの呼ばれる社会人野球や大学野球。そして最後に行き着くのが草野球と呼ばれる日本独自の世界。
このお話はその草野球に情熱を燃やす1人の物語である。
俺は横山真人25歳。婚活と称した合コンを生き甲斐にしているしがないサラリーマンだ。今日は先日知り合った女の子に頼まれて草野球の助っ人とやらに呼ばれたんだけど。
甘い球見逃すなー!高めは捨てていけー!ピッチャー球浮いてるぞ!ピッチャー助けんな!バカヤロ大振りすんな!
俺が思ってたのと違う。草野球っておじさん達がワイワイ楽しくやってるんじゃないの?なんかめっちゃ怒号が飛んでるんだけど。
真人君 びっくりした?今日はリーグ戦だからいつもより熱が入ってるかなぁ。
この子が今日俺をここに呼んだ結城舞衣ちゃん。野球大好きらしくてチームのマネージャーをやってるらしいんだけど、、、この前の合コンでも野球の話ばっかりしてたな。
そのおかげで一応高校まで野球をしてた俺と意気投合して仲良くなれたんだよな。
横山君、今日は助っ人の君にサインプレーは求めないから好きにプレーしてくれて構わない。マネ情報では高校球児だったんだってね?期待してるから楽しんで帰ってくれたらいいよ。
監督さんにハードルを上げられて不安になってきた。俺の高校時代の成績は5打数1安打、この打数の少なさが物語るのはそう、補欠だった。
それでも草野球ごときのピッチャーの球ぐらい打てるだろう。舞衣ちゃんに良いとこ魅せるぜ!
3回裏1死、8番打者の俺に打席が回ってきた。
いけー元高校球児!マネに良いとこ魅せろよー!
恥ずかしい応援が飛び交う中、相手ピッチャーと対峙した。
外から見た感じそんな速くもなさそうだしいけるだろうと思ってたさっきまでの俺よ死ね!2回振って1回も前に飛ばない。なんでだ?タイミングは合ってると思うんだけど、、と思ってる間に三振した。
おかしい。確かに高校時代は補欠だったしブランクはあるとはいえ、あの速さの球を打てないなんてあるのか?
そういえば高校時代の硬式球と草野球で使われる軟式球では打ち方が全然違うって聞いた事あるな。でもどう違うとかわからないしなぁ。
真人君、もしかして軟式の打ち方わからない?
やっぱり打ち方違うの?
全然違うよー!言葉で使えるのは難しいから、本当はティー練習とかで体で覚えるんだけど今は無理だから。
簡単に言うと硬さの違いだね。軟式球は柔らかいから硬式球みたいに上から叩くイメージで球に逆回転スピンをかけようとしても、インパクトの時に球が潰れてしまって上手く回転がかからないの。だから軟式球の場合は上から叩くよりもイメージは下からすくい上げる感じかな。乗せて運ぶみたいなね。
マジか、高校時代そんな逆回転とか一切考えた事なかったな。ひたすら監督が言う上から叩けをやってたかだけでそんな知識はじめてしったよ。
とゆーかこの子野球好き過ぎだろう。こんな知識持ってる女の子初めてみたよ。
とりあえずイメージは下からすくい上げるだな。アッパースイングになるけどいいのか?まぁやってみればわかるか。
5回裏の2打席目、やる気満々で迎えた打席は死球。高校時代の悪い癖が抜けてなかった。
※高校球児達は自分に当たりそうな球に対して避けるように当たる意識を持っている選手が多い。死球はヒットと同じと考えられていた為、死球でも出塁する事を良しとしていた。さらに当たりに行く、避けていないだと判断されると死球は認められずボール判定となる為、高校球児達は避けるように当たるという謎な技術を習得する。
7回裏、草野球は7回制なので最終回になる。1死2塁で1点負けているところで打席が回ってきた。最後に舞衣ちゃんに良いとこ魅せるチャンス!
教えてもらったイメージ通り、下からすくい上げるイメージで。相手ピッチャーが投げた初球だった。下からすくい上げた打球はライトの頭上を越える!俺は全力で走り出す!
草野球あるあるだが、グランド2面あるグランドを2チームずつでまとめて2試合することはよくある。このグランドもそう、いくら飛ばしてもスタンドには届かない!でも外野はフリーだから。
3塁回ってホームイン!こんな風にランニングホームランはよくある。
ゲームセット!
歓喜の輪の中、手に残った感触を思い出していた俺は。、
真人君一緒に野球やらない?
喜んで。
居酒屋バイト時代の掛け声で即答していた。
続く。