釈明の使者
少し寒くなったようなきがする今ですが、日が昇るとやはり熱いです。
アバロンの本部では、連合は使者が来ることを掴んでいた。
そして、使者の娘が人質に取られている事も知っていた。 彼女が悲壮な覚悟を決めている事も。
「人質を取ってまでこっちの機嫌を取らすとか、ありえんな。」
「情報では、爆弾の様な物も携行しているとも・・・。」
「手荷物検査はしろよ?こちらに引き込むにしても死んだら娘に会えないからな。」
「それは勿論です。 暗部の女性をメイドにして、部屋付きにします。 俄かと本職の差を教えてあげますよ。」
「間違ってもやるなよ?」
「違える事はありませんよ。」
アバロンでは、すでに救出作戦が実行されており、すでに実行部隊20名がすでに現地入りしていた。
目的は彼女の娘の救出。 彼女の取り込みも計画のうちだった。
使者の女性が、アバロンに入国したことが報告された。
取り込み作戦が、本人が知らないうちに実行・進行していた。
「さて、こちらも受け入れの準備をしようか・・・。」
「御意。」
こうして、受け入れの準備が始まった。
受け入れる部屋や応接室には、メイドや文官が出入りして様々なモノを用意した。
<小国連合・釈明使節隊>
連合本部を出て、数回の補給と準備を経て、アバロンの国土を踏んだ一行。
一行の中で一番の悲壮感を持っていたのは、使者の代表の女性。
私は・・・説得が出来ないときは・・・。
彼女の脇に置かれたポシェットの中にある物体。
最後の手段がそれだった。 娘を人質に取られ、夫も裏切り、国も自身をほぼ見捨てた中では、彼女のナカには選択肢はなかった・・・。 最後は自身を巻き込み自決。 国への報復と娘と同じ所へ行くためにしたのであった。
「せめて少しでもいい条件が出せれば・・・。」
「あの・・・。 代表。 もう少しでアバロン国境です。 先行隊によると、国境にすでに複数の車両隊がいるそうです。 出迎えのようです。」
「分かりました。 こちらも急ぎましょう。」
「はっ!」
独り言を言った後に国境が近づいたことを知らせに来た衛兵に指示を出した彼女も覚悟を決め、決死の交渉に臨む。
<アバロンサイド>
使者の女性を含む一行を護衛部隊40名に守られながらアバロン本部に来た。
交渉場所となる迎賓館前に一行が就いた。
「ようこそ、使者殿。 世話役を仰せつかったゲイリーと申します。」
「そう。 よろしく。」
「まずは控室にご案内します。」
「いえ、すぐに釈明をします。 頼める?」
「いえ、我が当主がまだ準備が出来ておりません。 なのでご案内と接待を申し付かりました。」
「分かりました。 よろしく。」
眼下に肩掛け鞄を掛けた女性が、世話役に任じた暗部の小隊長に促され、控室へと向かう。
彼女の後に着くメイドも他の一行につくメイドも暗部の人間で、メイドの訓練も受けた者で編成された。
彼女らを含めた全員で自決覚悟の作戦を防ぐためだ。
そして、接待は本当に時間稼ぎだ。 ひたすら彼女の大切な物を取り返すために・・・。
「使者様、御着きになりました。」
「そうか・・・。 手はず通りに頼む。」
「はっ!」
すぐに退室した者も執事の服を着ているが、彼も暗部の人間だった。
使者の一行全員に網を掛けた。
そして、彼女の親派のグループであることもあり、一人に一人ついた。
不測の事態を防ぐためだ。
しかし、そろそろ会わない訳にもいかず、応接間で会う事を決めた。
「使者殿を応接間へ来て頂いてくれ。」
「畏まりました。」
部屋付きのメイドに依頼して、彼女の最初の交渉を始まる。
彼女の覚悟や悲壮を知りながらも牛歩交渉をしようとしている自分に少し溜息をつきながらも向かう。
「使者殿。 お待たせした。」
「いえ、こちらこそ釈明の機会を頂き、ありがとうございます。」
「釈明?私に来た報告は明らかな条約違反。 宣戦布告の使者かと思いましたぞ?」
「いえ!そのような事は・・・!」
「・・・。 まあ、良いでしょう。 話は聞きましょう。 お座りください。」
「・・・。 はい。 失礼します・・・。」
入るなりすぐに立ち上がる彼女に少しこちらは不機嫌である事を伝わるような態度を取る。
一応は話を聞くという態度は示し、彼女も座らせる。
少し尊大な感じに座り、彼女を見る。 彼女も恐縮していたが、恐れるような態度はなく、向き合う。
連合で女傑との称される女性だな・・・。 明らかに不利な交渉でも怖気づくような事はない。
彼女の態度に驚きながらも話を進めることにした。
「さて、ひとまずはそちらが釈明の為と言うのであれば、そちらに合わせますよ?訳を聞きましょう。」
「では・・・。」
彼女の釈明は、連合の中に条約をはき違えた者がおり、その者の派閥が取引が禁止されている公国を含めた国に食料や嗜好品を販売してしまった。 そして、彼らが儲けている内に連合内で食料と嗜好品は売って良いんだという空気が蔓延してしまい、その火消しをしているうちに銃器を売る者が出て来てしまったのだという。 連合は元々、独立した集団の塊であるために条約の内容を徹底させていたが、困窮している集団もあり、完璧に防ぐとこが出来なかった事を説明された。 首謀者は連行し、罰したと伝えられたのだが、アバロン側には納得は行かなかった。
「では、今後またそうなった場合はどうされますか?」
「勿論、すぐに逮捕し・・・「生ぬるいですな」・・ですが・・・。」
「あなた方は勘違いをしている。 本来は禁止しているとこと取引をしている時点で、そちらの国土を攻撃されていても反論は出来ませんよ?なんでしたら今から宣戦布告しますか?こちらは構いませんよ?」
「待ってください!話を!」
「私は聞いていますよ。 もしその容疑者とその縁者すべてこちらに引き渡して下さいと、言ったら証拠と共にすぐに引き渡せますか?」
「それは!・・・困窮していたのです・・・。 慈悲を頂けませんか?」
「舐めているんですか?食料と嗜好品だけならまだ目が瞑れる案件でしたが、銃器とならば話は別だ。 そちらがわれらを下に見て、行動したと、取られたとしても仕方がないですよ?」
「・・・・。」
「まあ、話は分かりましたが、私も血が上っています。 今日の所は控室で連合からの移動の疲れを取ってください。 明日にまた交渉の時間を設けます。 では。」
「おっ、お待ちください!お話を今少し!」
バタン!
後ろ髪にかけられる声を無視して、扉が閉まる。
今日の交渉はもうしないという意思を示して、応接間を出た。
応接室を出た後ですぐに二人のメイドが就いた。
「首尾は?」
「はっ!爆発物の類はありませんでした。 毒薬はありましたので、そちらは色水にしました。」
「よし、後は彼女のポシェットの物か・・・。」
「はっ!ひとまず一行の一人一人に監視を付け、代表の女性には2名付けました。 明日までまずの接待をさせます。」
「ああ、自決もさせるな。」
「勿論です。」
後ろを歩いていたメイドの一人が離れると、その穴を埋めるように執事の一人がついてきた。
彼も暗部の人で監視任務に就いていた。
「そっちは?」
「今回の使節のうち、人質が取られている者が8名。 代表以外にも交渉担当の者すべてと探索の物2名が当たります。 それ以外は監視員ですね。」
「人質の救出は?」
「すでに8名のうち7名は救出。 代表の娘さんがいまだ・・・。」
「捜索は続けて。 その子がいないと前に進まない。 監視員の方は?」
「すでにハニートラップや絡め取りで監視員の仕事はさせていません。 眠り針で楽しい夢を見ているモノと思います。」
「それはそれは。 彼女の警戒もよろしくね。」
「御意。」
自分の執務室に向かう道の中で、状況報告を聞く。
連合は俺らからなんとしてもいい条件を得るために捨て身の交渉をさせる者とそれを監視する者をペアで送り込んだ。 しかし、純粋に仕事をする者はいなかった。 貧相な母国より裕福な敵国。
自身が使節団の一員であることを悪い意味で利用していた。 こちらもそこを狙い、仕掛けた。 それによりきれいに分けることが出来た。
取り込みに時間を稼いだ。 まずは人質の奪還に時間が必要だった。
しかし、その日の夜には全員の救出が終わり、国内脱出が始まったとの報告が来た。
「さて、本交渉に入りましょうか・・・。 明日が楽しみです。」
「ひとまずはアバロンに入国するまではじらしましょう。 それからでも問題はないと思います。」
「分かった。」
こうして、連合の人材取り込みが始まる。
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