領内視察?
熱い・・・。
最近は暑さからなのか、機嫌が凄く悪いです。
少し落ち着かねば・・・。
報告書を書いた役人は、元は大貴族が寄り親だった貴族の4男の人。
報告書によると、先の大戦で家がなくなってしまったが、自身は生き残った大貴族の一子が寄り子の一つである彼の事を思い出し、彼に保護と仕官を打診するために彼の元へやってきたらしい。
その上で居座った上に仕官をしたいという事で来た面接官を悉く追い払い、マサルに仕官の面接をするようにいってきているとの事だった。
「中々迷惑な人だね。」
「スイマセン・・・。 いまだに獣王国時代の貴族の威光があると思っている方がまだおられるとは思いませんでした・・・。」
「仕方ないね。 書いた人も申し訳ないと繰り返し書いていたしね・・・。」
「その方も話を聞いて差し上げれば、少しは変化するかもしてませんしね。」
「ちなみに大貴族とは言っていたけど、伯爵家だっけ?」
「はい。 書面を出してきたのは、騎士爵で件の男性は3男で宰相軍でも重要なポジションでない場所で戦闘にも参加していない上に宰相軍撤退の際も置き去りにされたそうです。」
「それで保身と自身の身分を手に入れるために、かつての部下にすり寄った・・・か?」
「・・・。 そのようです。」
「まあ、話は聞いてあげるよ。 採用するかは分からないけど。」
「ありがとうございます。 我らもかつての事を出されると、弱い所もありますので・・・。 あっ、もうそろそろつきます。」
「おう。」
アバロンの本拠から高速機に乗り、件の管理官の管轄している場所に駐屯している航空基地に着陸した。
航空基地には、管理官が迎えに出した迎えの車両が来ていた。
「総司令官殿に敬礼!」
ざざっ!
「ご苦労。 さて、私の迎えの者はどこか?」
「はっ!自分であります!ガルズ少尉とバン兵長であります!」
「そうか・・・。 世話になる。」
「「はっ!」」
迎えに来た士官と共に後部座席に座り、ついてきた随伴員は助手席に。 兵長は運転席につくと、エンジンをかけた。 兵長が窓から手を出すと、近くに待機していた護衛部隊と思われるバイク兵やサイドカー部隊が、周りを固めた。
「さて、件の彼の話を聞かせてもらえるかな?」
「はっ、では・・・。」
少尉から聞いた男性は年は34歳で、家でもあまり良い立場ではないらしい。 家は宰相派であったが、数ある支援家の一つとしてしか見られていなかったらしく、父と弟、叔父はすでに宰相の領地にいる。 母親はすでに鬼籍になり、妻はアバロンに実家と共に移住している。 子供はいない。 自分は部下30名と共に帝国の勢力下の獣王国に残された。 今日までかつての寄り子の領地だった民に食料を貰いながら撤退をしていたが、彼の管理地が近い事で保護を求めたらしい。
追い返したのは、士官の確実さが欲しかったらしく、試行期間が終わったら放逐をされない為に居座っていたらしい。
「これくらいなら追い返した面接官でも対応してもらえそうだが?」
「それが、一役人の承認では信用が出来ないそうで、統括官か総司令官の承認が欲しいと言っており、公爵様にお伺いをしたのですが、彼の家は公爵様とは犬猿ともいえるグループらしく、マサル様にと。」
「成程ね。 感情が出てしまうからと、私に来たか・・・。 義父殿・・・。」
「すいません・・・。」
「君らが悪いわけではない。 まあ、話を聞いてみよう。」
「よろしくお願いいたします。 閣下。」
「おう。」
車内でこれから会う男の情報に目を通しながら目的の管理官執務館に到着する。
館の前では、管理官であろう獣人男性が立っていた。 その両脇をメイドと思われる獣人の女性が並んでいる。
「マサル様!この度は大変申し訳ありません!」
「君が管理官か?まあ、気にするな。 あまり頼られすぎるのは困るが。」
「はっ!」
「では彼に会おうか。」
「はい!ご案内します!」
管理官に案内され、件の彼に会う事になった。
応接の間にいた彼は細身の男性だった。
見た目は切れ目で少しキツイ印象を持ってしまうが、任務に怠惰な印象が持たなかった。
「あなたがマサル様ですか?」
「はい。 貴方が私に話があるそうですね。」
「はい。 私事に申し訳ありません。 私も配下の兵がおりますので、仕官をお願いしたい。」
「それは今までの面接官でも対応してくれますよ?」
「私は確実なモノが欲しいんです。 妻がそちらにおりますので。」
「父上や叔父、弟さんは宰相領におられるとか?そちらは良いのですか?」
「父たちは宰相閣下に忠誠を誓っていました。 ですが、私は疑われており、後方に追いやられました。 退却も最後にされ、ろくな武器も持たない我らは山野に隠れるしかない状態でした。 そして、山野を部下と逃げ回っているうちに妻は、実家と共にアバロンへ。 親兄弟は宰相領へと向かいました。 それを知ったのもここに来てからです。」
「そうですか・・・。 貴方はどうしますか?」
「ひとまず妻に会い、兵士達も家族の元に戻し、私はどこか静かな場所に流れます。 親の元は行っても無駄なので。」
「そうですか。 では奥様の実家に入られるのは?」
「・・・。 妻には会いたいし、義父様にも会いたい。 が、受け入れて貰えるかどうか・・・。」
「でも、貴方は破壊工作ではなく、部下の方の食料調達をしていただけですし、ここでは任務は無理ではありますが、他の任地では平気ですよ。」
「・・・。 分かりました。 貴方様の軍門に下らせてください。」
「分かりました。 手配しますよ。」
「お世話になります。」
彼はマサルの前に跪き、臣下の礼を取った。
マサルもそれを受け入れた。 彼を筆頭にした部下たちもそのまま臣下に入り、マサルの帰国から一週間遅れに執政府に出仕した。 そこで改めて奥方だった女性に会った。
その方は再婚はしていなかった。 臣下になった彼は再婚をすることはあえて望まなかった。 しかし、奥さんだった女性は、彼の実家からは縁切りをされていた彼を見捨てることなく、彼に付いて彼の任地に共に向かった。 苦難を共にした部下たちもそれに従った。
任地では、彼らは危なげなく統治をしていった。
「彼らの加入はいい方向になったな。 これからだな。」
「あとは彼らの身内が来なければですね・・・。」
「来るかな?」
「多分。 宰相領内は民の数が少なく、今は流民や親派の民、傷のある者が生産の主力ときいています。 それに自身の故郷が再興したことで国に帰る者もいますので。」
「自分の割り当てが少なければ、養えそうな身内へ、か・・・。 クズだな。 最後まで意志を通せばいいのに。」
「見栄や意地では腹は膨れません。 まあ、こちらも予防線は張ります。 どこかで捕まるでしょう。」
「分かった。 宜しく頼む。」
案の定、彼の家族は彼の任地まで来ようとしていた。
アバロン支配地に入って30キロ付近に怪しい貴族服の男が、いた報告を受けた警備隊が、20名程の貴族らしい集団を確保、基地に連行した。
彼らはやはり彼の身内で、父親と弟、叔父のそれぞれの夫妻と甥姪、妾さん達だった。
ヒキガエルの様に太った体を揺らし、ガマの油の様に汗を出している蛙族かと思えるほどの体格の獣人が20名いた。
尋問官の問いかけにも耳を貸さず、亡命させろとか、息子に会わせろの一点張りで話にならなかった。
尋問官が国境まで連れていき、放逐しようとすると、激高して襲い掛かった。 しかし、近くにいた護衛官が近づくヒキガエルの群れをスタンロッドで、黙らせた。
「あががが・・・。」
「尋問官に手を出すとは・・・。 国外追放だ!トラックに乗せろ!国境で放り出せ!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
護衛官の指揮官に命令された部下たちは、痺れている数名を含めた全員を国境まで移送し、そこで放逐したのだった。 男は抵抗したが、またもやスタンロッドで黙らされ、投げる様に彼らの領地に。 女性達は素直に従い、あちら側へ。
こうして、彼らの身内は手ひどい報酬と共に宰相領に戻っていった。
宰相領内にいる上位貴族の中には、同様の事を計画していた者がいたらしく、今回の事を様子を見ていた家もあったらしいが、今回の国外追放が良い見せしめになったらしく、その後は同様の事をする者はいなくなったと、報告も貰えた。 暫くは大人しくなるだろう。
今回は良い収穫のある視察に終わった。
最近は戦闘を書いていない・・・。