第9話
「よおし、今日からバリバリ実世界の作成に入っていくよ! 創生用の世界種も一番良い奴買ってきたし、聖霊ちゃん、サポートよろしく!」
『構いませんけれど、私、仮想世界用の補助聖霊ですよ? 実世界構築は正直に申しまして範疇外ですが』
「いいのいいの。ぶっちゃけ、独学じゃ本当にやばそうなんで、ちょっとでもアドバイスが欲しいだけだからさ」
『なるほど、未経験でしたか。であれば、一本の藁となって、ご主人様の背に乗るのも悪くありませんね」
「ありがとう! ……ん? それ、最終的にあたしが潰れる奴じゃ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ふむふむ。このタイプの世界種であれば、初期設定からになりますね。元にする仮想世界の初期パラメータを提示しますよ』
「おおー! ……いつも思うけど、この十一次元のマトリクスって、見てるだけで正気度が減っていくよね」
『これを実世界の世界種に設定していきます』
「なるなる、世界種の方はまっさらなのか。これ、コピーして設定するツールみたいなものがあるんだよね?」
『ありません』
「え?」
『神力を使って、手動で設定します』
「冗談だよね?」
『一箇所でも設定値を間違えると、創生爆発が起きないので注意してくださいね』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっと……できた……」
『うまく創生爆発が発生したようです。次に、原始生命が生まれる惑星を探索しましょう』
「……もしかして、これも目で見て探すの?」
『はい、仮想世界と同じ設定なので、アタリ自体は付けられるのですが、なにぶん量子論が関わってきますので』
「うええ……」
『ご安心を。探す時間はざっと80億年ほどございますので、気長に探せますよ』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……うああ」
『候補地だった十惑星が、宇宙風の影響で全部吹き飛んだのは痛手でしたね。しかし、追加で見つけた惑星で原始生命が誕生したのはラッキーでした』
「あうあう」
『あとは、これを40億年ほどかけて進化させれば下地は整いますよ。ここでの調整は《奇蹟》使用の適用範囲外なので、細かく調整していきましょう』
「あう、あい」
『……大分壊れてらっしゃいますね。まあ、手は動いているのでよしとしますか』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「☆○×&%#!?」
『ああ、隕石の入射角にミスがあったようですね。残念ですが、全滅です。……他に候補地も無いので創世からやり直しましょう』
「&%#、&%$#? ☆○×!?」
『え? あ、はい。初期値の設定からのやり直しです。……頑張ってください、ご主人様』
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◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから四半期後、あたしは『実世界』として本命の世界を構築し終えて、いよいよ残すは、悪役令嬢転生を行うのみとなった。
ちなみに、さらっと『構築し終えて』とか言ってるけど、『実世界』構築は大変だったよ……。
どのくらい大変だったかというと、ここ四半期のあたしの記憶が大分抜け落ちてるレベルで、今でも思い出そうとすると身体にガタガタ震えが来るくらい。
『仮想世界』から情報的なものを流し込むとかで、もっと簡単にできると思ってたのにさあ……。仮想技術が発展してきてるんだから、『実世界』も、もう少し、もう少し何とかならないのかなと。
やり方、アナログすぎるよう……。
それはさておき、ここまで来たんだから、パーって婚約破棄決めてゆっくり休みたいね! 一発クリアできれば、残り四半期はバカンスできるぞー。
ただ、あたしも構築世界に単独で『降りる』のは初めてのことなので、ちょっと不安。それに……。
『すみません、ご主人様。ワタシに入れるにはあからさまに容量オーバーです。このヒロイン、一体全体、何を食べたらこんなに太れるのですか?』
「やっぱり実世界一発勝負かー……」
『リスクが高過ぎますので、実務経験者に相談することをお勧めします』
結局、容量不足で『仮想世界』に入れられなかったので、まだお姉ちゃんのヒロインさんを見れてないのだ。
なので、お姉ちゃんと義兄さんにアドバイスをもらおうと、再度お姉ちゃんのお宅にお邪魔させてもらうことにしたよ。
悪役令嬢的に、どうやってイジメれば婚約破棄にもっていけるのか、とか聞かないとね。
「あ、妹ちゃんはイジメとかしなくて大丈夫よ。何もしなければヒロインちゃんがさらっと断罪してくれるわ」
「え?」
「ただ、もし卒業式に断罪してほしいのなら、ヒロインちゃんが学園に入学してから卒業までの二年間、全力で自衛してね」
「はい?」
お姉ちゃん曰く、卒業式まで行ければあたしの勝ち、とのこと。
一体どういうことなのかを詳しく聞いてみると、ヒロインちゃんはタイムアタック重視の性格にしたとかで『逆ハーが成立し次第、悪役令嬢に隙があれば速攻で断罪イベントを吹っかけてくる』らしい。
何でやねん。確かに課題には「学園の卒業式に~」って条件があるから、卒業式まで持ってかないといけないけどさ。
「なので、妹ちゃんは逆ハーレム成立を卒業式まで妨害するか、付け入る隙を見せないのが攻略のコツね。大丈夫よ、心配しなくても、絶対に卒業式のタイミングでは断罪イベントを仕掛けてくれるから」
「お姉ちゃん、これ、そういう課題じゃない! というか、タイムアタック重視の性格って何!?」
「あらあら、きっと役に立つし、楽しいわよ? 何がとは言わないけれどね」
ダメだこの姉、楽しんでやがる。お姉ちゃんのことだから、何か考えがあるんだろうけどさ……。
あたしは救いを求めるように義兄さんを見つめるが、彼は遠い目をして首を横に振るばかりだった。
「楽しめるといいな……」
「他人事ですね、義兄さん」
「俺からは『諦めるな』位しか言えることは無いしなあ。保険をもらってきたんで、これで許せ」
苦笑する『ギルド』義兄さんは、ごそごそポケットを探って、小石大の赤い宝石を取り出した。見たところ、何かの『転生特典』に見えるけど。
「今、一緒に仕事してる『無限ループ』さんから貰った奴だ。別にお前さんが転生するのに、チート使っちゃいけない理屈はないだろ? 多少評価に影響するだろうが、こいつはまあ、言っちまえば『死に戻り』ができるって能力だ」
お、おう。結構レアなスキルですね、義兄さん。
『死に戻り』というのは、ゲームなんかで言うセーブポイントからのやり直しができる能力だよね。死んでもリスタートができる、的な。
『無限ループ』さん――黒髪黒目で軍服を着ている、軍神さん風の男性。義兄さんと同世代の人かと思ったら、実は結構上の世代の方でびっくりしちゃった――が、よく無茶な世界に転生者を転生ときにプレゼントする奴。
あ、でも、これがあれば。もしミスってもやり直せるってこと? あの悪夢のような『実世界』構築を繰り返さなくても良いってことだよね?
「そうなるな」
「義兄さん、あなたが神か」
神だったわ(二回目)
その後も、お姉ちゃんと義兄さんに転生するときのアドバイスをもらったあたしは、比較的ルンルン気分で自世界へと旅立った。
待ってて、あたしのバカンス!