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第10話

 ――バカンスは、待っててくれてなかったね。


 春から夏に掛けての学園祭の催し物のさなか、舞台上でスポットライトを浴びるクラウディウス殿下とアカリちゃんを見ながら、あたしは遠い目でそう思った。


「ユリア・アグリフィーナ公爵令嬢。――今日この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」

「ですよねー……」


 こうしてあたしは、悪役令嬢ユリアとなり、実に一二九六(・・・・)回目のチャレンジに失敗したのであった。


 アカリちゃん入学後、一年と二ヶ月目の出来事である。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 大体十八歳になる前に処刑されるから、十七年を一回のループとして、体感二万二千年ちょっと。


 それが、現在失敗を繰り返しているあたしのチャレンジ時間だ。

 『死に戻り』の戻り先指定をしてなくて、赤ちゃんからのループになってたのが大誤算だったよ。

 試してみたんだけど、転生してからだと、死に戻りの再設定ができないっぽいね。


 まあ、天界での時間と世界内での時間の流れはほぼ別枠なので、余程ループを繰り返さない限り、天界の時間には響かないけどね。

 神的には大した期間じゃないと言われればそうなんだけど、今のあたしは基本的に人間だし、結構長く感じるよね……。


 それはと言うのも、ヒロインことアカリちゃん――もはやアカリ様って呼んでもいい気がする――のしわざ、という訳では実は無くて、実際はもうちょっと根深い問題がこの世界自体にあったからなんだけど。


 さすがに入学後(・・・・・・・)いきなり三ヶ月で(・・・・・・・・)断罪イベントを(・・・・・・・)決めてきた(・・・・・)スーパーチート様相手でも、それだけで千回以上もやり直したりはしないよ、うん。


 初回のループで、それを(三ヶ月断罪)された時には、流石にどうしようかと思ったけどね。

 

いや、入学するや否や、ものすごい速度で生徒会メンバー全員、というか学園の生徒全体を篭絡していく様は、もはや芸術的と言ってよかったです、マジで。


 アカリちゃんは小柄&金髪ショートで、キレイというよりはかわいいといった方がいい感じの、庇護欲が掻き立てられるような容姿の美少女だ。

 性格は、と言えば、天真爛漫で型破りな元気っ子、って感じ。

 突然変異的に生まれる治癒の魔法の使い手、ということで、この学園には特例的に、貴族ではないけれど入学している。


 人によって態度を変えることもないし、何につけても一生懸命頑張ってる姿は、攻略対象以外の一般生徒や先生がた、また、同性への受けもいい。

 まあ、礼儀作法がなっちゃないんで、高位貴族のご子息やご息女の中には眉をひそめる人もいるけれど、彼女の人柄に触れていくうちに、結局最終的にはほだされちゃう。


 欠点と言えば、治癒の魔法を誰彼構わず使いまくって、よくぶっ倒れてるところを見るくらいかな。これも献身的って言えるし、自分の力を使い惜しみしないのも、とってもいいと思う。


 敵対する立ち位置にいなければ、あたしがファン一号を名乗ってもいいくらい。超頑張り屋さんだし、とってもいい子だよ、うん。あたしことユリア嬢に対しては、例外的によそよそしいというか遠慮している感じだけどね。


 ただ、彼女の本当のすごさは、生徒会メンバーの攻略の方だった。


 分刻みで綿密にスケジュールを組んだのか、ってくらい複数の高位貴族のご子息を同時に攻略してるんだもん。

 しかも周りにまったく悟らせず、かつ最低限逆ハーが成立するラインで、だよ。

 

 特に攻略方法もワンパターンではなく、一人ひとりのトラウマや弱点を熟知したかのような多様な攻め方は、見てて惚れ惚れしちゃう。

 乙女ゲームとかで見る、「ははっ、面白い奴だな」からの「……こんなことを話せるのはお前だけだ」に繋げる定番コンボだけじゃないんだね。いや、当たり前なんだけど。


 初回ループじゃあっという間に断罪されちゃって、どうやって攻略してるのかまったく分からなかった。

 なので、二回目のループはあえて初回と同じ行動を取って、観察というか鑑賞したくらい。


 鑑賞の結果? そりゃもう、怒りとか絶望とか、そんな感情が全く浮かばなくて、ただただ見事な攻略風景を見ることができたっていう、純粋な感動だけがそこにあったよ。


 そのせいで、お嬢様言葉とかすっぽり抜けて「ブラーヴォ! ブラーヴォ!」ってアカリちゃんに抱き着いた結果、発狂して襲い掛かった扱いになっちゃったんだけどね、うん。


 いい物見させてもらいました、はい。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 それで、最初の百回くらいは、攻略対象(おうじ)の好感度をガン上げしてみようとしたり、色々とアプローチをとってたんだけど、ユリア嬢に対する初期好感度がなぜか低いこともあり、どうにも生存期間が伸ばせない。


 幸い、ユリア公爵令嬢(あたし)はアカリちゃんより一年早く学園に入学できるので、生徒会役員、というか生徒会長になって待ち受ける形にできることには気付いたので、三ヶ月のスピード断罪は防げたんだけどさ。


 それでまあ、しばらくは防衛をサボって情報収集をしてみたのだ。


 『死に戻り』の設定をミスしたので、入学するまでの時間はフルにあるわけだし、いくら相手がカリスマチートでも、何かこちら側に問題が無いと、こんな速度で学園を掌握するのは、普通無理だろうと思ってたしね。……アカリちゃんが単純にすごいだけって話もあるかもだけど。



 で、結果として分かったのは、あたしが選んだ悪役令嬢が、本当に『悪役』令嬢だったことと、どうもこの世界、技術革新が詰んでるっぽいことだった。



 仮想世界作成の段階で、すでに不自然なくらい、産業革命の直前で技術が停滞してるなあ、とは思ってたんだけど。


 思い返せば、『産業革命が起きた時点で無価値になる程度の魔法の才能』に寄って立ってる既得権益層(きぞくさま)たちが、産業革命(そんなこと)許すはず無かったよね……。


 『基準世界(リアル)』ですら市民革命には多大な犠牲が掛かってるんだから、貴族と市民の差異がより強く出るように創った魔法世界じゃあ、それはねえ……。

 パワーインフレを抑えるために魔法による戦闘力を大分低く作ってたのも、それに拍車を掛けている形だ。


 それで、そんな貴族の権益を最後まで守ろうっていう『貴族派』の長が、あたしの父上であるところのアグリフィーナ公爵でした、と。

 技術の発展を行おうとする人々に対しての弾圧とか、表立ってしてないだけで、裏で相当頑張ってるみたい。公爵家の黒い噂がそりゃもう、次々に出る。


 下位貴族の皆さんや庶民の方々に憎々しい眼差しを向けられるわけだわ。

 いや、世界の苦労を掛けさせちゃって、本当スミマセン、お父様……。


 ちなみに、事情としては他の国も似たり寄ったりだったので、この国限定じゃなくて、世界的な欠陥だね、認めたくないけど。

 いやあ、外から見たんじゃまったく気付かなかったけど、実際に降りると肌で感じるわ。できることなら、学園創設時点で満足せず、その後の展開も確認しとくべきだったよ……。


 それで、貴族の親御さん達が自分たちの権益を守るため、汚い事に手を染めたり、子供を構ってられなくなったりと、まあ子供世代の心身にダメージを与えるイベントが盛り沢山。子供たちが、貴族という物に嫌なイメージを抱いちゃってるのも、何となく分かる。


 そこへ、庶民であるアカリちゃんが皆の心や体を癒すため、一生懸命頑張ってる姿を見せたらどうなるか。まあ、惚れるというか、好印象を抱くのも分かるよね。

 攻略対象のメンバーは特にトラウマが酷いから、それらを知っているかのようなアカリちゃんの攻略に抗うのは無理っぽい。

 彼女ってば見たところ、どうも意図的に、庶民と貴族の垣根をぶっ壊そうとしてるみたいだし。


 この問題、抜本的に解決するには、もはや世界自体をなんとかするのが一番手っ取り早いんだけど。

 でも今から悪役令嬢転生を解いて創世からのやり直し、は神力的にも時間的にも、あと精神的にも心情的にもしたくなさすぎる!


 ちょっと、これ以上一人で考えるのも、らちがあかないので、詳しい人に相談してみることにしようっと。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「――事情は説明した通りよ。少しだけ貴女の知恵を貸してほしいのだけれども、如何かしら」

「ええとさ。……それ、ボクに訊くの色々間違ってないかな?」


 と言う訳で、相談相手として、生徒会長室にアカリちゃんを呼び出してみたよ!


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