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同居人は喋れない  作者: 流美
5/5

ワガママ

「ぼくは」




 おどおどしている。それでもはっきりと。


 汗を浮かべて、肩を強張らせて。一つ一つ、言葉を置いていくように。長い時間をかけて次の一言を探す拓くんは、声を絞り出す。




「あなたの、こと」


「……真尋さん、の、こと」




 重石をお腹から押し出すような溜息を、数秒掛けて吐き出した。私も息が詰まりそうになって、静かに溜息を吐いた。




「真尋さん、のことっ……」




 声が震えている。交わっていた視線は、外された。俯いている拓くんを見て、私は目に涙が溜まってしまった。



 拓くんは今、どれだけの覚悟で話しているんだろう。自ら、声で伝えることを選んだその覚悟と意思は、どれだけ大きくて強いものなのか。


 私には、とても想像ができない。できないけれど、きっとそれは15歳の少年が本来持つような、生半可な覚悟なんかじゃ無いのだろう。





「――好きです、恋愛と、して」





 ドクンと心臓が跳ね上がった気がした。顔を上げた拓くんが、真っ直ぐに私を見つめてくる。その真剣な瞳に、私はなんと応えるべきなのか。



 傷付けたくない。時間をかけて、心を許してくれた相手だ。傷付けたくなんかない。


 だけど容易に、楽観的に答えるわけにもいかない。15歳だからすぐ飽きるだろうとか、傷付けたくないし付き合おうとか、そんな適当な気持ちで答えていいわけがないから。




 だから。




「ありがとう。……けど関係は、このままで、いさせて」




 拓くんが何かを堪えるように、唇を噛んだ。それを見て、私の目元がぐっと熱くなり、抑える暇も無く涙が溢れた。


 私が泣くべきではない。お門違いだ。分かっている。そんなこと分かっているのに、ナイフでも刺されたみたいに、心が痛い。




「ごめん、な、さいっ……」




 ボタボタと落ちていく涙。手で拭うことはしないで、土下座のように低く頭を下げた。


 出そうとする次の声が震えて、形にならない。できることなら、言いたくない。けれども、言わなければいけない。



 私の、身勝手なワガママで。



「でももし、18歳になって。一人でも生きていけるくらいに……なって。外のことも、沢山知って。いろんな人と、関わりを持って……」



 私の、最低な期待だけど。



「それでも、私のこと、好きでいてくれたときは、またっ……。また、考えさせて、なんて……ワガママ、かな」



 心がズキズキと痛む。涙は止まらなかった。もしかしたら、私の想像以上に拓くんを傷つけているのかもしれない。


 そうであったら、私は拓くんに顔向けできない。こんなワガママだって、言う権利など無かったのだから。


 しかしこれが、今の私からの精一杯の返事だった。



 ゆっくりと頭を上げた。軽蔑した表情で見られているのではないかと、恐る恐る拓くんと目を合わせた。


 拓くんは真剣な瞳のまま、真っ直ぐと私と視線を交えた。


 少しだけ瞳の奥底を濡らしていたけれど。少しだけ寂しそうに眉を下げていたけれど。




「ありがとう。――待ってて」




 拓くんは、そう言い切ってくれた。気遣ったような、心の底からの優しいその声音に、私は気が済むまで、声を上げて泣くことになった。




 大の大人が、みっともなくて情けない。私の隣に、ぎこちなく拓くんが座る。




 そんな今までと変わることのない時間を、私達はこれからも過ごしていく。















これにて「同居人は喋れない」完結となります。

ここまで読んでくださった方に、心よりお礼申し上げます。


2人のその後を書こうとも思ったのですが、

最終的に結婚したのか、やはり結婚はできなかったのか。こちらの判断は読者様に委ねようと思い、この終わり方にさせて頂きました。


更新したのかよ?というスローペースな毎日更新でしたが、なんとか完結させられて安心しています。


明日からは、こちらの連載で休止しておりました

「日めくりカレンダー」

(https://ncode.syosetu.com/n1166em/)

の毎日更新に戻ることになります。


こちらは1日1短編の更新で、暇つぶしにそれはそれは最適だと思いますので笑

宜しければ是非、日めくりカレンダーも宜しくお願い致します。




改めて、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。もしお時間がありましたら、レビューや感想、評価をポチッとして頂けると嬉しいです。

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