プロローグ
パソコンを打つ、無機質な音がぼんやりと聞こえる。床がぐらぐらと波をうつように歪んできて、意識が朦朧とした。
「どうしてこんな時にミスをするんだ。君のせいで我が社の評判が下がったら、どう責任を取るつもりだね!」
頭の中に蚊が入ってしまったようだ。キーンとした耳鳴りが、延々と鳴り響いている。その音と混ざり合って、上司の怒鳴り声はいつもの数倍も厄介だ。
誰も私に関心を向けていない。向けていたとしても、どうせいつものことだと無視される。私の社内での立場は、そんなものだった。
誰かの失敗を押し付けられて、上司に怒られる役。誰と親しいわけでもない。だから飲み会とか打ち上げとか、何も誘われない。なのに失敗だけは、上手に私に投げてくる。
「何か言ったらどうだね!」
下げ続けた頭。見えないように、自嘲気味に笑った。他の誰かが失敗してるなど、疑わない無能な上司。こんな人の下で、どうして私は働いているんだろう。
波打っていた床が、霞んで見えなくなってくる。涙が浮かんだわけじゃない。視界だ。視界に靄がかかって、見えない。
耳鳴りもさっきとは段違いに煩くなって、上司の声も消えてしまった。もしかして怒るのをやめたのかと、念の為、顔を上げてみる。
だけど、きっと真っ赤な上司の顔を見ることはできなかった。代わりに最後に見えたのは、ぐるぐると渦巻いた、逆さまの世界だった。
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