1話 出会い
チュンチュンとどこかでスズメが鳴いている。
幸せそうな朝の日差しの中、少女は顔を青くして青年は悶絶していた。
「アンタが起きないのが悪いんだからな?
あっアタシ悪くないからな!!」
「分かった、分かったからもうキンキン
騒がんでくれ、頼む」
青年は悶絶しながらも困惑していた。
何故なら、彼は知らない布団で朝を迎えていたからだ。意識を失う前に不審者に刺されたまでは
覚えているが、それ以降のことは何も分からず
病院の類いかと思っていたが起こし方が酷すぎる。股間にかかと落としって非常識すぎるだろ
っと青年は思案していた。
「えっと、アンタは誰だ?看護師じゃないよな」
「ふっアンタもその他大勢と同じか
当然、暴れるよりかはいいけどな」
したり顔で質問に答えない少女にウンザリした青年は再び布団に入る素振りを見せると少女はゲシゲシと蹴りを入れ始める。
「ちょっと起きなよ、説明するから起きろ
起きないともう一度蹴り入れるぞ?」
「わかったわかった。起きるから待ってくれ」
青年はコレはたまらんとばかりに布団から出て座りこむと少女も布団脇にある椅子に座りコホンと
一つ咳払いをし、キリリと顔を整えやけに慣れた口調、演技めいた調子で説明を始めた。
「貴方は死にました。だけどここは天国でも
地獄でもありません。言うなれば煉獄、
己が罪を知るまでは帰れない流刑地です。
精一杯ここで生きてまた死ねば解放されます。
だから、これから頑張れよ」
「ほっ本気か?」
彼女の言葉に青年は動揺を隠せずに少女に詰め寄ってしまう。
「そっそんな訳あるか!!俺はまだ死んでない。
死ねないんだよ!!ふざけんな、
第一まだ身体があるじゃないか!!
冗談もほどほどにしろよ!!」
「それでもアンタは死んだ。
認めて、アンタは死んだんだよ、死んで全部
終わったの、だからさ、落ち着きなよ」
少女が淡々と当たり前のように告げるが青年にとってそれは最悪の言葉だった。
生きたかった訳ではない、だからって死にたかった訳でもない。相対する感情。ジレンマの痛みの中で青年はふと、言葉が溢れ出してしまう。
「結局何も為さずに死んだのか俺、情けねえ。
後で取り返そうって、なっなんで、おれ、」
それは子供じみた言い訳だった。
幼い頃に夢想し、書き殴ったカレンダーの裏の未来予想図に突き動かされ、頑張り続けて努力し続けて、過去から今まで繋いできた大切なボールを腐らせ、捨て去ることも乗り越えることもせず時間を浪費してきた夢負人の嘆きだった。
そうして青年の枯れていた感情は、今、堰を切って溢れ出してしまったのだった。
「おっおれは何でこんなことになったんだよ!
逆転ホームランできるって!!なんで、」
エグエグと泣き始めてしまう青年に少女は
何も言わずただ側に居続けた。
次第に落ち着きを取り戻し始めた青年に
少女は優しく語りかけ始めた。
「落ち着いたか?息をちゃんとしろよ? 」
「あっあぁ、ごめん」
「気にしなくていい。アタシしか見てない。
アンタは未練たっぷりで死んだのか。
それでも今日、たくさん泣いて悔やんだらさ
明日からまた生き直そうよ。時間はあるから」
そのまま少女は青年を抱き寄せ、青年の頭を
ポンポンと優しく撫でる。最初は身体を強張らせていた青年もだんだんと力を抜き少女に身を預けて再び泣き始める。
「また、明日からがんばろう」
青年は次第に瞼を閉ざし始めて、
そんな姿に少女は笑みをこぼすのであった。