逃亡
周辺は未だに騒々しくサイレンの音がけたたましく遠くの方から響いていた。
人ごみの中であるというのにその音は鳴りやまない。
行きかう人々は携帯を片手にそのサイレンの原因の情報を知ったようであり口にしていた。
「え、マジ!?」
「見に行こうぜ」
「いや、まずいっしょ」
のんきな会話にめまいを起こす。
平和ボケをした人の群れは俺の体には害でしかない。
人の群れをかき分けドンドンと奥へと進んでいく。
駅と言うだけあり人がかなりの数密集してる。
この後どうするかと券売機の前で立ち止まり路線図を見上げた。
「その前に電話をしないといけないのか」
徐々に記憶が鮮明に蘇ってくることに不安はあったがそのおかげか大分行動に迷いがなくなっていた。
駅に来たのも人ごみにまぎれて周囲に溶け込もうという策略だった。
しかし、服装があれだった。
行きかう人はこちらを伺って通り過ぎていく。
「電話もそうだが服をどうにかしないといけないのか」
黒のプロテクターを装備した衣装はまわりとは異質なものだった。それに先ほどの戦闘によって衣装はボロボロになっており異質さはより際立っている。
その内、先ほどの青い制服の連中に見つかってしまうだろう。
そうなれば、彼女と連絡を取ることなどできない。
「服はどこで‥‥」
券売機の前から離れて周囲を観察した。
一軒のお店が眼にとどまった。
「いや、待て。確か物を買うには」
『お金』という単語が脳裏によみがえった。
そのようなものが手元にあるわけでもない。
「しかたがない。やはり、連絡を済ませよう。しかし、その連絡手段もお金がいるのか。いや、人に借りて‥‥」
「おい、そこの怪しい奴何をしている?」
一人ぶつくさと思案顔で立ち止まっていたところを声をかけられ振り向いた。
そこには青い制服をした男が2名いた。
「ん? コイツ指名手配中の男の正体を知ってる目撃者とかいう重要参考人じゃないか」
「そういえば、顔写真の通り似ている」
なにやら不穏な空気を感じ改札口へ駆け込んだ。
「あ、待て!」
慌てて改札の扉を飛び越え駅のホームへの階段を下っていく。
ちょうど、いいタイミングで電車が来ており降車する人だかりと行き違う。その人だかりの中に携帯を手にしたものがいた。
指をパチンとならすと携帯を手にした女性がその手から携帯を落とした。
その携帯を素早く奪い取り電車に乗り込む。
女性がかがみながら携帯を探す。そこへ警官2名が人垣を割り行って進むも女性の存在に気づかず衝突した。
転倒した哀れな3名。
その光景を見ながらいれば電車は出発を開始した。
電車の扉にそっと背を預け座り込むとその異様な俺の背格好と姿に周囲の視線が集まった。
こちらが視線を投げれば全員が一斉にそらす。
「ちっ」
おもわずどくつきながら奪い取った携帯を手にして操作を始めた。
記憶を頼りにたどたどしい指つきで電話のアイコンをタッチして連絡先を入力した。
通話画面に切り替わり耳元に携帯を当てる。数回のコールの後――
『はい、御神楽です』
彼女の涼やかで優しげな声が俺の耳に流れ聞こえた。