保護
私は必死に逃げる。
姉のような存在でもある彼女、アリサに手をひかれて決死の思いで辿り着いたのは電車を利用し数十分ほどの場所。
テロ事件が最近あったといわれている秋葉原。
なんで、こんな場所に来たのだろうかと彼女に問いただす。
すると、アリサ姉は答えた。
「お父様がココに来てるのです。ですから保護してもらいましょう」
久遠アリサの父は日本の政府の役人である。
昔からとても忙しい人であり私も数度しか会ったことがない人。
印象的にいえばものすごい厳格な人であるが娘に対しては凄く過保護で甘い性格。
こちらが突然仕事場に訪問したとしても無碍な扱いは受けないと思う。
「……保護って言ってもなんて説明する? 彼らは何者か分からないのに……」
何者か分からない前に私たちは狙われてるか定かではないがでも、彼が狙われておりその知人となれば狙われる可能性は見込められる。
そう考えてアリサ姉は保護と言うことを考えてるのだろうことは察しがついている。
「そうですね。だけど、お父さまは今回の事件のことを担当してらっしゃると言ってました」
「え?」
「ですから、事情を多少は理解してくださると思います」
そう言って彼女は私を先導するようにどこへ向かうかも知らない私を連れて行く。
足取りは○DX方面の道であるが事件が起きたのは中央改札口である。事件を担当しているのならばそちら側にいるのではないかと考えていると――
「お父様は担当してるために○DXを借りて仕事をしてるんだと言ってました」
補足説明をしてくれた。
これにより、向かう意味がわかる。
つまりはその部屋にいるのであろう。
連絡も携帯で先ほどからメールらしきやり取りをしてる模様だった。
しばらくして○DXの扉の前に立つ若者の警備の人がいた。それもあちこちにいていつもの○DXではない雰囲気。関係者以外立ち入り禁止の黄色のテープが張られている。
それは○DX周辺に渡ってである。
歩道橋と○DXの境界線から立ち入りはできない。○DXをすぐ前にして私とアリサ姉は立ち止るとアリサ姉が携帯を手にして電話をかける。父と話してるようであった。
「お父様が迎えに来るそうです。しばらく、待ちましょう」
○DXのエスカレーターを使い上から黒髪に優男ながら大柄の60過ぎくらいの初老が下りてきた。
すぐに黄色のテープを超えこちらに歩み寄ってきて駆け出してきた。
「お父様、お久しぶりです」
「おお! 私の愛しい娘よ、会いたかったぞ」
久遠親子の熱い抱擁が交わされる。
二人の会話を聞いて私も少しばかり感動をした。
たしか、数年ぶりの再開。
「おっと、これはこれは御神楽のお嬢さんもお久しぶりだね」
「お久しぶりです、譲二さん」
アリサ姉の父である久遠譲二はにこやかな笑顔で手を出したので社交辞令で握手を交わす。
「それで、アリサ、どうした? 緊急の用事があると聞いたが何事なんだ?」
「ここでは少し無理ですからお父様どこか誰にも聞かれない安全なところはありませんか?」
「ふむ、どうやら深刻な話題の様だな。なら、上に来るといい。ちょうど、空きの部屋がある。なんでも、イベント行事用の映写室のようだがな」
などと言われて私たちはそのままその部屋まで案内されていった。
*******
映画のような広々とした空間の雛壇席の並んだステージ部屋に入るなりアリサ姉はためらいもせずに例のテロ事件の犯人に狙われたことを話した。そうなってしまった理由である青年についても語る。
「零時君に似てる青年か……」
顎に手を起き眉間にしわがにじむほどに考えこむ譲二さん。
仕立てのいいスーツを着てるのでそんな仕草が凄く似合っていた。
「だが、記録によればしっかりと彼は……」
「わかってます。お父様。でも、事実私たちは零時君そっくりの人物に会いました」
「そっくりじゃない……あれは零時……」
「なぜ、そう思うのか聞いてもいいかな御神楽のお嬢さん」
譲二さんはかわらない呼称で私を呼びながらその真意を問いただす。
私は率直な答えを返した。
「勘です。わかる……あれは零時だって……」
「勘か……ははっ――神社の娘の君が言う勘なら零時君なんだろうな」
疑いもせずに素直に受け取った譲二さんは笑い飛ばしながら携帯を取り出した。
どこかと連絡を取ってる様子であり険しい顔つきになる。
「ほんの数時間前にアリサたちの住んでるマンションで多くの死人が出たらしいな。もうマスコミでも報道されてるそうだ。テロ事件の犯人も逃亡し、マンションの住人の証言で確かに青年がいたという報告を受けてるらしい」
言われたアリサ姉は携帯を取り出して調べていた。そして、私にも画像を見せてきた。緊急速報の一覧記事に確かに私とアリサ姉の住んでたマンションの写真が映ってる。だが、そのマンションは元の面影がなく半壊し中から負傷者が運ばれてくる絵面もあった。死傷者数は警察を含め30人になっている。
犯人はいまだ逃亡中のため近隣の住民は外出時は注意をしてくださいとの警告も出ている。
「私もこの件の調査に少ししたら駆りだされる。アリサと御神楽のお嬢さんはここで私の部下にかくまってもらうといい」
「ありがとうお父様」
「いや、娘のためならあたりまえのことだ。何よりその貴重な情報はためになる。もし奴らが未知の存在ならマスコミにかぎづけられると困る」
そうして、しばらくして部屋の扉が開き譲二さんを呼び付けた仕立てのいいスーツを着た若者。
その若者へ近づきなにやら話し込む譲二さん。
譲二さんの部下であろうことが窺える。しかも、あの襟元に徽章が見えた。どこかで、見覚えがある徽章だが遠目では判断しにくかった。譲二さんは政府の役人でもそれなりの重役でありこのような事件が専門的だと昔からアリサ姉に聞いている。
なので、今日まで不思議には思わなかったが今日をもってとある疑問に感じた。
「ねぇ、アリサ姉。アリサ姉のお父さんって政府の何してる人?」
「ん? わからないですね。ただ、役人としかいってくれませんから」
「そう。でも、そんな人が事件調査っておかしくない? ふつうは警察の仕事でしょ」
「そうですね。私もあまり深くは聞いたことはないので意識したことはありませんけど確かに事件調査はおかしいと思います。でも、父が政府のどういう立場の人間かは知りません」
「家族なのに?」
「家族だからこそ家族が嫌なことは深くは聞く気はないんです。それに、父が何者であろうと構いませんよ」
アリサ姉の言い分を良く理解してしまう私。
確かに、家族が嫌なことを問い詰めすぎるのは良くない。
特に仕事関係で聞くのは野暮ってもの。
「外交官とかじゃあ調査はしないか……」
「お父様が外交官? ありえないですよ。家が裕福ですけど外交官ではないです」
「断言できる?」
「そう言われると困りますけど、でもありえませんよ」
そんな謎に包まれた譲二さんの後姿を眺めながら会話をしてると譲二さんは出かける旨とその部下の若者に私たちの警護を任せたということを伝えてくる。
それいに対して了承した私は最後に譲二さんに頼みごとをした。
「あの、もし、零時にあったら保護してください。そして、私のもとまで」
「ああ、出来る限り努力しよう」
ステージ室の外の廊下で譲二さんの後姿を眺めながら私たちは譲二さんの部下に案内されて○DXの上階まで向かったのであった。