襲撃者 後編
石壁の中に木材や鋼鉄の物質を固めて詰め込んだかのような大きな建造物。
それは人が住まう建物のようであり零時こと俺はその場で俺を付け狙う謎の敵の襲撃を受け続けている。
そもそもの発端としてここの建造物にいる理由もまた妙な縁を感じる。
俺のことを知る女が俺を自らの住まうこの場所まで連れてきた。
俺も妙な感覚でこの建造物の近くにまで来ていたようだったし何かに引きつけられたのかもしれない。
だが、俺がこの場所に来てしまったがゆえに俺を狙う謎の襲撃者もまた追い付いてきてここの無害な住民を巻き込んでしまった。
どんどんと床を貫き、階層を一室ごとに突き破り落ちて行く。
最下層の地面に体が磔にされたように埋め込まれ血反吐を吐きながら上を仰ぎ見る。
人の悲鳴がたちどころに聞こえながら二人の男が降り立ってきた。
それも俺が落下した穴を通りぬけて。
二人組の姿はこの街にいる住民とはかなり違う。
オオカミの姿とトカゲの姿。
それが彼らの人相である。
その手にはそれぞれが武器を握り俺に攻撃を加え続ける。
この二人組と俺の関係がいったいなんだったのかは思い出せずとも心の奥底で彼らを敵と認識している。
「クケケッ、勇者様ってのは民を守るヒーローじゃなかったのかぁ? これじゃあ、俺らと変わらないなぁ。民が一人二人お前の墜落被害で死んでたぜ、クケケッ」
トカゲ男が酷薄な笑みを浮かべ舌なめずりをする。その槍には真新しい血痕が付着していた。この建物の住民の者と思われた。彼らは俺が最初にいた街でもそうであったように無害な一般市民を平然と邪魔もの、その辺にある石ころ同然のように殺す。
俺もあの現場で必死で民を守ろうとしたがあの現場に現れた青い服を着た謎の民を守る自衛組織が邪魔をした。
俺が民に対して有害だと認識されたからなのだろう。仕方がないと感じた。この建物住民らもそうだ。
俺が懸命に呼び掛けるも応じずに狼狽しその場に居座るがために攻撃に巻き込まれてしまう。
おかげで彼らの言うように攻撃の余波で墜落した結果住民を巻き込み肉片と変える。
俺の下にも今「べちゃり」とした音が聞こえる。それが人一人を下敷きにしてしまったと自責の念を痛感する。
「さぁ、立ち上がれ勇者レイジ。俺らと一緒に来てもらうぞ。姫様のもとまでな」
「俺を殺すんじゃないのか?」
「お前が抵抗をしたからだ」
「それは抵抗する。俺はお前らを知らない。それに貴様等のようなゲス野郎共についてく気はない」
「なら、もう少し痛めつければわかるか?」
オオカミの姿をした男は槍を振り上げ腹部を突き刺した。
激痛が走った。
続けて、槍からほとばしる電光。それが痺れを誘発させ頭の中が真っ白になっていく。
「あがぁ……ぁあ……っぅ……ぅあ……」
言葉にもならない悲痛の呻きをあげ懸命に体を起き上がらせようと手を手繰り寄せる。その手をトカゲが踏みつけた。
「あぐぁああああああ!」
「クケッ、腕を斬り落とされた恨みがあるんでなこんくらいは仕返しさせてもらうぜ!」
そう言ってトカゲは右手で左肩を掴むとぽっかりとそれは外れた。機械の腕をしていたのだ。
本当の手ではない。
「なんの話だ?」
「なんの話だとぉ? 忘れたとは言わせねぇぞぉ!」
手から嫌な音が上がって次第に感覚がなくなっていく。
それを見かねたオオカミがトカゲを怒鳴りつけその行動に静止を駆けた。
「やりすぎるな。王女が生きたまま連れて来いという要請だ。このままやりすぎるとショック死する可能性があるぞ」
「クケケッ、この勇者がそんなタマかよ」
「いいから、言うことを聞け。そうしないと私がお前を殺すぞ」
「ちっ」
素直に言うことを聞いたトカゲは外を見てくると言ってその場から立ち去っていく。オオカミの手が伸びて俺の体を地面から引きずり出し肩に担ぎあげた。
このままでは拉致されてしまう。
そんな思考がよぎった時だ何以下の映像が記憶の淵からわきあがる。
ここではないどこかでの戦い。
俺はそこである人を守るために戦っている。
あの時もこうして誰かに負けそうになった。
しかし、どうにか勝てたのはある種の力があったからだ。
「暗き闇より深き深遠なる劫火がすべてを燃やし万物をなぎ払う技となる」
俺の体が一種の発火装置となったように燃え上がった。火炎に焼かれオオカミが俺を突き飛ばした。火の手はオオカミの体をたちどころに回っていき焼き焦がしていく。
「ぐがぁあああああああああああ!」
「聖なる輝きはすべての闇を穿ちぬく!」
右手を振りはらうと地面から光の針が照射しオオカミの体を射抜いた。
「ぐはぁっ」
そのまま、オオカミは倒れると次第に生命の糸が切れた様に動かなくなった。
トカゲは外で見張りを行ってる隙に逃げることを考えた。俺は墜落した穴を通り自らを助けた女の住居の部屋に戻る。
ぐるりと見渡して何か役に立ちそうなものはないかと考えた。
今後逃げるにしても道具は必要だった。
その時、机の上にあるいちまいの紙が目に入りそれを手に取った。
何かの番号と「連絡をください」と一言書かれた文通である。
「これは連絡先……」
眠った記憶から呼び起こされた知識が番号の意味を認識する。次第に視線は机の下に散乱したあるものに目がいく。過去の記憶を保存する紙のようなもの。
「しゃしん……」
そんな言葉が出て、なんだったかと考えた。手にとって木造の作った棚のようなものに入ったその写真を見つめた。
ずきりと痛む頭。
どこかの広場の場所で小さい頃の俺と先ほどの彼女似ている少女ともう一人の女性が笑顔でピースをしている。
とても仲の良い姉妹弟に見えた。
「彼女は本当に俺の知り合いなのか……」
ふと、それを理解するとどこからか「ウゥウウウッ」という耳障りな音が聞こえ、半壊したベランダから下をのぞき見る。赤いランプを搭載した白い軽自動車が何台も止まりそこから青い服装をした人物が降り立ちトカゲと激戦を始めた。
『貴様は包囲されている! 直ちに両手をあげて報復なさい!』と言ってるのが聞こえた。
それは自らもまずい状況にいることを考えすぐにベランダとは反対方向へ向かった。
なんでだか、そちら側に出口があることが分かった。
「そうだ、この先が出口だ」
扉を開けると外へつながる通路が出てくる。そして、手すりに手を駆け下を見た。
「この高さからなら安全に昇れるか……、風よ疾走のごとく包みたまえ」
ふわりと体が宙へわずかに浮き上がると手すりを乗り上げ上昇していく。そのまま建造物の最上階に到達すると地に足をつけ向こう側の建物を見た。
過去の記憶から建物と建物を渡るという行動を決断した。
そうして、俺はその場から逃げるようにして立ち去るのだった。