幼馴染の処置
雨音に濡れながらどうにか自宅マンションについて、自動ドアの解錠を行う。
そのまま地上20階まで、エレベーターで上がりたどりつくとそそくさと足早に206号室まで向かう。
ドアを乱雑にたたき同居してる友人の名を叫んだ。
「アリサ姉! 開けて!」
私の焦ったような声色が聞こえたのかせかされたような足音が近づきドアが開いた。
部屋の中ら現れたのはスラッとした鼻梁に、猫のようなつぶらな瞳と二重の瞼、小ぶりな唇というパーツごとに神様にでも愛されてるかのように洗練された端正な美貌を備えた金髪の美女だった。
年上の幼馴染、久遠アリサは目を丸くして私を見ていた。
「どうしたんですか? その男の子は?」
いつものようにおっとりした感じで質問してくる彼女の対応に安堵をし私はすぐに彼女の脇をすり抜け部屋の中に入っていく。
「どういうことか説明してください。彼は誰ですか? ん?」
アリサが彼の体を見てから顔を見て次第に困惑した様子で私に視線をよこした。
「嘘……Какая вещь - он(どういうこと)?」
いつもの癖で動揺や驚愕したりと感情の波が激しくなるとロシア語を出す年上の幼馴染。
ロシア人の母と日本人の父の間に生まれたハーフの彼女だからこそ、そういう癖があるのかもしれない。
動揺してる彼女へ私は頼み込んだ。
「アリサ姉は確か看護師免許もう取得してるんでしょ! 彼を治してあげて!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 事情を話してください! どうして死んだはずのレージがここにいるんですか!」
「私にもどう説明すればいいかわからない。だけど、あれはこのまま放っておけないでしょアリサ姉!」
「そ、それはそうですけど事情が分かりませんよ! ああ、もう!」
ぶつくさと文句を言いながらも腕をまくって脈拍を測り腹部の傷を見た。
すぐに彼の上半身の衣服を脱がしにかかる。
四苦八苦していたようだったが無事に脱がし終えて治療をするというようにこちらに向きながら言う。
「ユキちゃん、ワタシの部屋から医療器具セットを。それから綺麗なタオルを持ってきてください! それから、お湯を」
「わかったよ、アリサ姉」
年上の幼馴染はこの日本で医療を学ぶ勉強をしている。近いうちに看護師となって働くことも決まってる。
最近になって看護師免許を取得したばかりの彼女ならば治せるのではという思いで彼を連れてきたのもあった。
「ロシアならいざ知らずこの平和の国日本で血まみれの男性を拾ってくるとはお驚いたです。処置をしていますから事情を話してください」
と言いながら処置を素早く行っていく。
私はその傍らで少しずつ事情を話し始めた。彼女は私が昔から見る夢の経緯も知ってるのでそう事情を話すのには苦労はない。
次第に彼女は処置を終えて息を吐くと彼の額に触れ、呼吸の確認をするように耳を彼の口元に近づける。
「ふぅー、どうにか安定しました」
「アリサ姉、ありがとう」
「まったく。こんなことは二度とごめんですよ。それにしても、レイジに似てます。まさか、ユキちゃんの夢に出てくる男性がここまでそっくりだとは驚きました。それにこの服装やこの傷から察するに何か厄介事に巻き込まれてますから病院に連れてけば大変な事態になったでしょうね」
「うん。どうにも零時君そっくりだからそんな事態におかせたくなかった」
「そうですか」
アリサはこの広いリビングのテレビ側にある棚にかけられた写真を見ていた。
そこには3人の男女の写真がある。
幼い頃に撮った私たち3人の写真だった。どことなくそこに映ってる少年は今手当てを受けた青年と似ているのかどうかと確認を行ってるようだった。
でも、やはり、彼に違いないとばかりに頷いた。
「レージは7年前に死にました。いじめが原因で自殺したはずです」
「そうだね、私も覚えてる。でも、ココにこうしているんだよ?」
「かもしれませんがあの時はしっかり葬儀だって行い火葬をした現場だって私は立ち会いましたよ!」
「じゃあ、彼は何者だと思う?」
「Я не понимаю его(わかりませんよ)!」
互いに混乱して精神状態が不安定だからかその荒ぶる感情を口にしてぶつけ合った。
だが、女ことをしても無意味。次第にお互いから謝罪の言葉を言いあった。
「彼が目覚めるまでここに居させていい?」
「ええ、賛成します。レージそっくりの彼を放置なんてできるはずありませんよ」
と優しい頬笑みを浮かべてアリサ姉は立ち上がる。
「どこ行くの?」
「シャワーを浴びてきます。汗で体中がむれむれなので」
肌に張り付いたワンピースの胸元を広げて苦笑する彼女はそのままリビングから立ち去り廊下側へあるバスルームに向かった。
私ただ一人リビングのソファに寝かせた彼をじっと眺め目覚めるのを待った。




