表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のない転生勇者  作者: ryuu
20/20

別れと出会い

 俺がワープした先にはやはり、雪が待ていた。

 彼女は装置のそばで立ち尽くして妹たちと困惑の顔を浮かべて話をしていた。

 俺の存在に気づいて駆け寄ってくる。


「零時!」

「やっぱり、まだ逃げてなかったみたいだな」

「逃げ場がないから」


 そっと彼女は眼下に見える景色をかなしい眼差しで見下ろしていた。

 街が上空に出来た魔法陣にどんどんと吸い込まれていく。

 術者本人が気絶してなお魔法は止まらない。あの魔法がそう言う類の魔法なのだろう。

 一度発動したら止まることはない。


「ねぇ、零時あれは何? 何が起ころうとしてるの?」

「あれはこの世界をクレルラルトスに引き込んでる時空の穴だ。この地球は日本を中心にしてあの穴の中に吸い込まれ始める」


 その場にいる者たち全員が息を呑んだのがはっきりとわかる。

 顔面蒼白になって言葉を失ってる。

 そりゃぁ、そうだろう。間もなくここにいる奴らが全員何処とも知れない異世界に飛ばされようとしてるのだから。

 俺にとってはただ帰るだけになるけれども――


「それよりもその背中に背負ってる人は……」


 アリサ姉が目ざとく気付いた。


「あの穴を出現させた犯人さ。そして、この日本を騒がせた元凶」

「っ!」


 自衛隊が一斉に女へ銃口を向けてくるが零時が庇うように両手を掲げて攻撃態勢をとった。


「れ、零時!? 何でかばうのっ!?」

「お兄ちゃん!」

「零時くん?」


 大きく息を吸い込んでまず、自分からの質問から提示する。


「こいつにはまだ情報を吐かせる必要性があるから殺させない。そして、俺からも聞きたいことがある。あの機械できた穴はどこだ?」

「そ、それならここだ」


 後ろからゆっくりと誰かが歩み寄ってきた。

 それはアルバージャに腹を貫かれた久遠譲二さんだった。


「無事だったんですね、良かった」

「娘のおかげだ。だが、私も長くはもたないだろう」


 そう言いながら彼は球面ガラスに覆われた黒い輪を取り出した。黒い輪『ワールドゲート』は妙な球体装置の中におさまっていた。さっきよりも、かなり小さくなっている。


「こういう事故も想定し抑え込む機械を作っていたのだ。娘が私の命を救えなかったらこの世界はあの魔法とこのワールドゲートとの対衝突で消滅しただろう」

「わらえない冗談ですよ」

「いいや、冗談じゃない。実際、起りかけた事態だった」

「……そういえば、知ってますか? なぜ、彼女がこの世界を呑みこもうとしたのか?それはあなた方政府が世界侵略を開始したのが原因だと聞きました」

「っ……そうか。だから、君はどうしたいのだい零時君」

「今すぐあなたの上司にクレルラルトスへの侵攻計画を中止するようにつたえてていただきたい」


 譲二さんはしばらく押し黙ったあと――


「その件はもう伝えた。私も馬鹿ではないよ。あの魔法を見てわかった。私たちが彼らの怒りにふれたということを。この戦争を私も終わりにしたい。今後一切クレルラルトスに危害は加えないよ」


 そう言っておもむろに装置を零時に手渡した。


「こ、これはどういう?」

「それは対魔法消滅の類だ。それをあの魔法の穴の中にぶち込めば止められるはずだ。なぁ、そうだろう? クレルラルトスのお姫様」

「あら……ずいぶんなごあいさつね」

「ルアンナ……」


 背中で今まで眠っていたはずのルアンナは目を覚まし傷の痛みに顔をしかめながら降ろすようにと要求され俺は彼女を下ろした。


「さきほどの約束、本当です?」

「ええ、約束しますよ。今後は危害を加えないと。ですから、どうか魔法を止める助力を願えますか?」

「ルアンナ、俺からも頼む。俺も一緒にあの世界へ戻るし一生お前のもとについていく」


 その発言を聞いた直後、雪たちが声を上げた。

 零時はそちらに一瞬だけ眼をやって「ごめんな」とだけつぶやいた。


「お兄ちゃん! どうして! また会えたのに……なんで……」

「もう、お前のしってる兄は死んだんだ。俺はクレルラルトス人のレイジだ」


 妹に対しても素っ気ない態度を示して俺は魔法陣の穴を見上げた。


「それで、ルアンナ止める方法はそれで正しいのか?」

「ええ、その輪を穴の中に持ち込んでいけば爆発して穴は閉じますわよ」

「そうか、ならその持ち込むのは俺とルアンナが行えばいいな」


 そう結論付けると零時はさっそく魔法を唱える。


「待って零時!」

「っ! 雪……」


 上空に浮き上がった俺を呼びとめたのは幼馴染の雪だった。

 目じりに涙が浮かんでる。


「本当に行くの?」

「ああ、俺はここにいていい人じゃないから。あっちでもまだやることがある。このルアンナの不始末もそうだしそれにここの政府との約束でもある。さらにいえば、ココにいれば俺を利用しようとするやつも出てきちまう。俺のような異人はとっと消えた方がいいんだ」

「だ、だけどあなたはここの世界の――」

「雪菜、たしかに俺はそうだったかもしれない。昔のおれはどうしようもなく気が弱くお前に頼り切ってみじめにもお前に八つ当たりするようなひどい男だった」

「れ、零時……」

「そんな俺でも活躍できる場所があのクレルラルトスに出来た。それに昔の哀れな零時は死んだ。あの時にな。そして、お前のことが好きだった零時ももういない」

「っ!」

「じゃあな、雪菜」

「まって! 零時! レイジー!」


 零時はそのままルアンナを抱え上げて輪の中に入っていく。

 最後に彼女の声が聞こえた。


「私、いつか絶対あなたのいる世界にあなたを迎えに行く! 絶対!」

「雪菜……さようなら」


 俺は魔法陣の輪の中へ姿を消していったのだった。



 *******


 ――それから数十年後。

 私、御神楽雪は大学を中退して新しい大学へ進学をした。

 それは機械工学関係の大学である。

 その大学へ入ったのはもちろん零時にまた会うために。

 それに協力してくれたのは零時のいもうとの萌花ちゃん。そして、アリサ姉さん。萌花ちゃんは私が進学した機械工学の大学の分子力学を学ぶコースへ入り私の計画の研究の手助けを数年がかりでしてくれた。

 アリサ姉も人体における病学的な観点からのリスクや検証などを助言してくれたりした。

 その結果、今この私が創設した研究所の一室で何十年と言う歳月を得て完了した結果があった。


「やっとこれで行けるのね。クレルラルトスに」

「お兄ちゃん……」

「楽しみぃーです」


 3人して大きな楕円形の輪系装置を見つめて溜息をついた。

 それは長い年月を物語る自分たちの背格好や姿を思ってだ。


「驚くわよね。これだけ変ってると」

「かも……お兄ちゃんわかるかな?」

「どうでしょうか? それよりもまずあっちで彼がどこにいるかみつけないとです」


 その言葉に雪菜は「大丈夫」と言って一枚の写真を取り出した。


「それは?」

「私たちの写真」


 それは小さい頃の萌花も一緒に移っている写真だ。あのマンションに飾ってあった写真は燃えてしまいもう手元にはなかった。だが、レイジの家に唯一この写真が残されていた。


「雪さん、これを頼りに人にでも聞いて探すの?」

「ええ」

「あっちの世界の言語しゃべれないんですよ私たち。どうやって?」

「ボディーランゲージ?」

「なぜに疑問形ですか!」


 アリサ姉が呆れたようにため息をついてどこかへ行ってしまう。

 部屋を出てから数分後彼女は一冊の本を手にして戻ってきた。


「お父さまが残していたクレルラルトスの情報です。そこに言語についてわりと解読できていたものがあってこれなら――」

「すごいわ!」


 3人でそれを見て、しばらく。雪の携帯に連絡が入った。

 それは雪たちのスポンサーである政府からの出動命令である。

 3人は出動するために今は普通の格好ではなくパイロットスーツのようなものを着こんでいた。

 あまりにも彼に会うのには不格好な装いだがしょうがない。


「なんどとなく実験はしたんだもの。平気よね」

「そうです」

「行きますよ」


 3人は息を飲んで輪をくぐりぬけた。

 ――そして、私たち3人はクレルラルトスにたどりつくとそこには偶然か奇跡か、彼が待っていた。


「やっぱり来ると思ってたよ。雪」

「零時、迎えに来たよ!」


ご愛読ありがとうございました。かなりぐだぐだでしたがこの話はこれにて完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ