謎の青年との邂逅
第2主人公視点になります。
あらかじめお伝えしていた通りこの物語は二人の主人公で行きます。
雨の音が響く季節。
じめっとした空気はどこにいても感じられるそんな「梅雨」というシーズンの6月。
自然豊かに囲まれた竹林の中にひっそりと居を構えてる施設があった。
それは多くの10代から20代くらいの若者たちが勉学を学ぶ場だ。
崎野森大学。
街に出来たのはほんの数年前の新設校である。なので施設自体の新しさは目立ち、内部外部問わず敷居面積はかなり広いマンモス校だった。
「あっつーい、このむわっとした空気が嫌なのよ―夏って、そう思わない?」
「わかるー」
そのマンモス校からはいつものように本日の日中も若者の賑やかな声が響き渡る。だが、雨積る季節なので皆が施設内部で昼食をとっていた。
中には休憩時間を使って勉学にいそしむ者もいたり趣味に時間を費やす者もいる。
私もその一人であり友人たちの会話にすら入らずひたすら手元にある書籍に目を通す。
「雪はあいからわず読書?」
「何読んでるのさ?」
ボーイッシュ風な服装に顔立ちをした茶髪の友人、武藤アカネとチョイギャル風な感じの金髪の友人の斎藤優実は、清廉な白の衣装を身に纏う私こと御神楽雪を呼びつけ、友人二人は興味を持って私の手元の書籍のタイトルを確認した。
「指輪の恋?」
「何これ? 恋愛もの?」
「そうよ、ファンタジーの恋愛小説」
私は恥ずかしがることもなくしおりをはさんで本を閉じて答えた。
すると、友人たちは苦笑いする。
「あいもかわらず、ファンタジー好きね」
「ユッキーのファンタジー好きは今に始まったことじゃないけどさ」
「それ以前に雪は本当に本が好きね」
「うん、好き。本にはいろんなあふれる知識が隠されてるのだもの」
私にとっての生きがいはこれしかない。
本は何よりも私にいろんなことを与えてくれている。
そして、この本を読んでると自らもその世界観に満たされ幸福を得られる感覚があるからこそ良いもの。
友人たちは私のそのにこやかな笑顔に当てられたのか優しげな笑みを送ってくれる。
「本当にそのかわいらしい笑顔はずるい」
「女の私たちでもドキリとするんさ」
「照れること言わないで二人とも。でもね、この本は本当にお勧め。幼馴染との恋とかがロマンティックなんだよ」
「出た、雪の幼馴染もの好き発言ね」
「それって自らに重ねるから?」
「そうだね、うん」
私は二人の質問に対して頷いた。
私の亡き幼馴染を重ねてしまうのかもしれない。
昔からこういう幼馴染との恋に落ちる物語はお気に入りだった。
「雪はもう未練を断ち切って彼氏でも作ればいいじゃんね。この前だって学内一のイケメンの川上君に告白されたんでしょ? ね?」
「……された、だけど、私はあの人知らないし興味ない」
「ユッキーはもったいないんだってさ。顔がいいのにさそうやってずっと亡き幼馴染に未練たらたらでさ。幼馴染もユッキーの幸せ願ってると思うさ」
「二人は私にそうやって彼氏作れって押し付けるけど二人こそ彼氏いないじゃない」
「「うっ」」
二人して息を詰まらせて沈黙する。
この二人はいつもそう。
私の幼馴染への未練を気遣い、別の男を見つけろという気使いを起こしてるが大きなお世話だ。
「私は恋をしちゃいけないんだよ……レイジのためにも」
そう言ってからチャイムが鳴る。
午後の講義を告げる鐘の音だ。
友人二人は席を立ちあわてだす。
「まずい、私たち午後の講義あるんだったね」
「ユッキー、またあとでさ」
二人は午後の経営学の講義教室に足早に向かった。
この崎野森大学における学科の一つの重要な講義授業。崎野森大学は経済学 、経営学 、商学 、情報学 、メディア学、私の選考する学科日本文学科という学科がある大学だ。主に就職先としては公務員や企業者を目指したり、マスコミ関係者や小説家を希望する者らなどが通う大学。
友人二人は公務員志望なので経営学の講義を受けに行ったのであるが私は小説家志望ということもあり二人とは違う講義授業が多い。そんな講義が違う二人との接点は高校からの付き合いであるからだ。
二人がこうして私を気遣いつきあってこの大学を一緒に進学してくれたのはうれしくもあり申し訳なくもある。
「私も午後2の講義が始まるまで仮眠室で睡眠をとってこよう」
昨日の奇妙な夢のせいで睡眠を良くとれず頭がぼんやりとしていた。
ふらりと揺れる体を立ち上がらせ足早に仮眠室へ向かった。
******
仮眠室はベットが複数あり、薬品棚や視力検査用のシートなどがあったりするという部屋。そう、仮眠室と言うのは私がただ勝手になつけてるだけの名称で本当は保健室という場所である。
いつもながらに勝手に使えとばかりに隔絶された部屋に入室しベットで横になる。
うとうとしてくる意識は次第に途切れていく―――
『はぁはぁ、ここなら安全か』
見知らぬ黒のアーマースーツのような衣服を身にまとった青年がどこかの街の路地裏にもたれかかっている。
ここはどこだったか。
どこかで見知った景色だ。
なによりもこの青年を私は知っている。
青年は毎回毎回、私の夢に出てくる人物だからだ。
いつもはこのような見知った街ではなく私がよく愛読してるファンタジー小説のような場所にているような人物だったがどういうわけか昨日から見てる夢での青年は私の見知った街に登場する。
にしても、青年の姿はどことなく私の亡き幼馴染にそっくりだった。
この夢を見だしたのも中学の時に幼馴染が死んでからだったか。
それ以降は夢の中でこの青年が成長していく姿を見るようにした映像が何度も繰り返し見てきた。
『んだぁ? おい、なんかいんぞ』
『なんだァコイツぅ? コスプレやろうか?』
『キメェ』
数人のガラの悪そうな背格好をした不良が青年に絡み始めた。青年は鋭い眼光を突き付け腰に手をあてがうがそこには昨日に見た夢の中であった剣がない。
『しまった、剣を逃亡中に落としたか』
『んだよぉ、なにブツブツ言ってんだぁ!』
『金目の物よこせよオラァ!』
一瞬にして青年が不良たちに滅多打ちにされ始める。
やめて!
だが、私の見てるのはあくまで夢でしかない。
私はこの夢の中では傍観者だ。空中で仰ぎ見てるかのような感覚がある。手助けはできない。次第に青年が抵抗を試みて一人二人と殴り飛ばした。最後に残った頭角の不良がナイフを取り出す。青年の腹部にナイフが突き刺さり私は悲鳴を思わず上げた。
『へへっ、ざまぁねぇぜ』
不良たちは青年の首にかけられた宝石のネックレスを奪い取って行き逃げ去っていく。
青年は手を伸ばしながら――
『そのネックレスはだめだ……かえ……』
声援の意識は失われたかのようにうつぶせに倒れこんだ。
私は必死で青年を起こそうとその身に手を伸ばし――
「雪さん!」
誰かの呼びかけ声に私は目を覚ました。
顔を上げれば優しい顔を浮かべてきらっと輝く白い歯を見せる青年の顔があった。
それはここ最近私に付きまとうほどにうっとおしい男子の姿。
「川上さん?」
「ははっ、川上さんなんて他人行儀はやめてくれよ。僕のことは川上かもしくは拓斗と呼び捨てで構わない」
そう、学内一のイケメンにしてアイドルと称される男子、川上拓斗に私は目覚めさせられた。
一般的な女子なら黄色い声なり顔を赤くするなりするのだろうけどあいにくと私は彼がタイプではない。優しいと思うけど何か裏がありそうでいやな気分となる。
私の嫌悪の顔をどう受け取ったのか彼はあわてだす。
「別に何もしてないからね。君の友人に君がどこにいるか聞いたら図書室か保健室じゃないかと聞かされてね。文学の講義にも出てなかったから体調でもくずしたのかと心配したよ」
私はそう言われ保健室の時計を確認した。
時刻は17時を回っていた。
午後の講義は完全終了してる。
この川上拓斗とはその午後2の講義が一緒だったから彼は私がいないことに気付いたのだろう。
心配して見に来たというわけだ。
――放課後の時間でもう下校時刻。中にはサークルなりへ向かう学生も多くいる。
私はサークルへ入ってはいないのでいつも通り帰宅するだけである。
それにしても、ずいぶんと長い睡眠をとってしまったみたいだった。
講義をサボってしまったが単位が少々不安になった。
「えっと、大丈夫? どこか具合悪いのかい?」
そういって手を握って私の額に触れてこようとするその手を振り払って私はそそくさとベットから起き上がり保健室を退出していく。
廊下を歩きながら数人の女子の目線に嫌悪しつつ携帯を取り出し確認すると数件の着信があり友人からいらぬ文通が入ってた。
《うまくやりなさい》
《川上君迎えに行ったから私はサキっちと先に帰るね―。がんばってねぇー》
げんなりと落胆し私は後ろから追ってくる彼に目を向ける。
「あの、ついてこないでいいし心配いらないから。あと、体調悪かったわけじゃないしただ眠くって睡眠とってただけ」
「そ、そうなんだ。ならよかった。でもさ、夜道は危険だし駅まで一緒に――」
「聞こえてないの? 私は付いてくるなっていってるのよ、それに私は用事がある。さようなら」
私は一息ついて続けて今までのうっ憤を吐き散らすように怒鳴った。
「私しつこい男は嫌いなのよ。それから、私あなたはタイプじゃないから。じゃあね」
そう言って私は彼を一人置き去りに大学の校門まで向かい歩き去っていった。
もちろん用事などあるわけもなくただの追い払うための口実である。
******
川上の元から逃れ、一人駅の電車に揺られること数分でついた自宅からの最寄り駅『新都川崎駅』。
周りにはデパートやビジネスビルなどが密集する歓楽街密集の駅である。
私の自宅はその近くにある高級マンションの一室。
改札を出てすぐ有名デパートがある方角にある道沿いのビジネスビルへ続く歩道橋を歩きながらその歩道橋の脇道を通りぬけていく。
脇道には花壇や奇妙な形をしたオブジェのベンチがあり、それに座って寝そべる老人や座りながら談笑する学生の姿が目に映る。
それぞれは曇った空の天気を気にかけて雨の静寂を待つように雨宿りでもしているのだろう。
今の季節私も傘を持ち合わせてはいるも天気が天気で土砂降りの雨。
傘をさしてもささなくても変わらないくらいひどい雨でもう少し雨が落ち着いてほしいとさえ感じる。
脇道をこうして歩いてるのも屋根があるためと言うのが大きな理由だ。本来は歩道橋を渡らずとも道中にある階段を下りて歩道橋下を歩く。
今日は少々違った道を通りつつ遠くでは電車の音が聞こえたり、近くの路上ライブの音楽が耳を通りぬけていく。
ビジネスビル裏手の階段を下りていくとすぐに大通りに差し掛かる。
いつもならそのまま大通りの歩行者用通路を左手に曲がって交差点まであるいてけばいいのだが今日は立ち止った。なぜなら、階段の角あたりでうずくまった人影を見て私は仰天した。
その人物は見覚えがあり夢をまた見てるのかと錯覚させられたからだ。
でも、実際、風の音や頬をつねれば痛みを感じる。
夢ではなく現実である。
その人物に歩み寄り傘をかざす。
「……レイジくん?」
つい、彼は幼馴染ではないとわかっていてもついその名前をつぶやいた。
その幼馴染が今成長すればこんな容姿になるのだろう姿。
それ以前に幼馴染にそっくりということ以外に見覚えがある男性であった。
(そうだ、いつも夢に出てくる)
夢に出る幼馴染にそっくりの勇者。
彼は見覚えがあって当然。幼馴染が死んでからずっと私の夢に出てきた彼の冒険譚を私は見ていた。
そう、ファンタジーが好きな要因ともなってる彼。
彼がむくりと体を起こした。
「誰だお前は? お前も俺をつけ狙う……うぐっ」
彼は腹部を抑え苦しげに呻いた。
ゆく見れば腹部から出血を起こしておりかなり瀕死の状態だ。
「いけない、今すぐ救急車を――」
――と携帯を取り出し電話をかけようとした手を止める。
この状況をどう説明をつければいいのか。
下手したら彼は捕まってしまうのではないか。
私の頭の中で様々な憶測が浮かび上がる。
無意識のうちに私は携帯をポケットにしまい黒髪に平凡な顔つきの黒の装いをした青年を背負った。
もともと高校の時は格闘技などをやって鍛え上げていたのが功をなして男性一人背負い込むのはどうにかできた。
そのまま私は彼を担ぎながら自宅マンションへ向かった。
次の話はまだどちらの視点で行くかは決めておりませんがたぶん、今回と同じ視点で行く可能性があります。
掲載日時は未定です。