ルアンナの企み
二重に重なる神々しいきらめきを放つ二つの交差する剣。
片方は紅蓮に燃え上がる灼熱の剣。片方は何処までもどす黒く不気味な黒煙を立ち込めさせる剣。
両方とも形状はロングブレード。
互いに一歩も譲らないせめぎ合い。
「どこで、言語を習得したんだ?」
「どこで? ここでに決まってるでしょぉ!」
ルアンナの闇色の剣がレイジの灼熱の剣を弾き飛ばし鍔競り合いに終止符が打たれる。
ルアンナはたたらを踏みうろたえる彼の隙をつき懐に潜り込んだ。
そのまま剣を振りあげ身体を切り裂く。
しかし、彼はうまく直前の段階で身体をそらし技と倒れた。
そこから後ろへ転がり起き上がる。
「ちっ、さすがは勇者と言ったところねぇ」
「……もう一度聞くルアンナ。君はどこで言語を習得した? 本当にここか? そうじゃない。言語を身につけるにはそれなりの時間が必要だ。俺の考えとしてはクレルラルトスだろ?」
「くふっ、くふふふっアハハハハハハ」
堪えていた笑みを包み隠さずに出して爆笑。
なにがおかしいのか彼女はひとしきり笑った後に落ち着いた表情で冷静に返す。
「そうよぉ。あなたに愛してもらいたいために私はあなたの世界のことを調べたのよぉ。クレルラルトスは昔からあなたのような存在が過去に来ていたことは知ってるわよねぇ。だからこそ、この世界の言語についても数多く記載されていた。そして、さっきも言うように私はこの世界に飛ぶ直前にあなたの記憶をトレースさせてもらった際に言語の記憶も読みこんだ」
「そうまでしてこの世界を支配したいのか」
「レイジ様これはすべて最強であるあなたに私と言う最強の存在が君臨するのを見てもらうための余興よ」
「余興だとふざけるな。俺はそんなの最強の証明などと認めない! しっかりと目を覚ませ!」
「レイジさまこそ現実をみてくださらないかしらぁ。この世界は生命エネルギーにあふれ魔法を使うのに最適な環境。この世界を支配できればもはや怖いものなし」
彼女の言う世界支配とはとことんくだらない幻想だ。
特に彼女は俺にそうまでして自分の強さを誇示したい。その結果、雪菜にまで罠を仕掛けていたことが許せない。
そこまでして最強にこだわるのはなんだ。
「最強に固執するのはどうしてなんだルアンナ様!」
「あなたがいったんじゃないレイジさま。強さはすべてを変えてくれると」
「なに?」
そう言いながらルアンナは雪菜に目線を送った。
雪菜は怖がったように後ずさる。
「彼女に手出しはさせないぞ!」
「もう、する気はないわよ。それに、レイジ様は私を本気でとめるつもりなのかしら? こんな世界の住人なんか守る価値あるとは思えないわ。無駄に土地を使ってやりたい放題の連中などよりも私の方がうまく扱ってやれると思わない?」
「あ?」
「それにね、レイジさまにはもう頼るべき人は私しかいないんじゃないかしらぁ。だってぇ、クレルラルトスで私のお姉さまはもう死んでしまったでしょぉ」
「っ!」
突然脳裏をかすめた最悪の光景。
血しぶき舞うどこかの祭壇。
目の前で倒れていく王冠をかぶったドレスを着た銀髪の美女。
俺の名前を呼びながら俺の腕の中で頬笑み死んで逝った彼女の亡きがらがフラッシュバックした。
「まだ、完全に記憶は戻っていないのかしらね。よほどショックだったかしらねぇ」
俺は混乱した。
彼女の言うとおりにもし、王女が死んでるのだとしたらたしかに俺にはもう頼るべきは彼女しかいない。
「俺は一人……」
今の俺が生きてくためには彼女を頼ってくそれが一番効率のよい方法――
「レイジ君! そんなことない!」
後ろからのなつかしみある女性の声で我に帰る。
雪菜が悲しい表情をしながらこちらを見ていた。
「レイジ君は2度目の人生があると言ったけど2度目だろうが人生は人生。生きた証がこの場所にもある! レイジ君の居場所はここでもある! そして、支えるべき人はココに大勢いる。帰る場所は別にその異世界でなくともここでいい!」
雪菜は切に願ってるようにそういってくれた。
だけど、この世界には苦い思い出しかない。
だからこそ、この世界から逃げ出すように俺は一度死んだ。
目覚めたら何処とも知れない魔法世界クレルラルトスという場所にいて、そこで2度目の人生を歩み、王女に出会い助けてもらったんだ。
「雪菜ちゃんありがとうな」
「レイジ君!」
「だけど、ごめん」
レイジは剣を手にした。
「わるいけど、ルアンナさま、あなたのことは止めさせてもらう。ここも俺の居場所だった場所だ。そこを壊そうとするならば止める。ただ、理由はそれだけでいいんだ」
「こんな場所を無価値に使ってる人々を守ると言うの? レイジ様を見捨てた連中よ? あんな捨てられ方をしておいて!」
「そこまで過去に読みとってたんだな」
「幾度となく戦争を一緒に経験した仲だからいつでも読み取る機会はあったわぁ。私はひどく悲しかったわぁ。レイジ様の苦労とつらさは理解した。だから、よりこの世界の住人はゆるせなくもあるのよ!」
まるで、それが本音だとでもいうように血のにじんだ拳を振り下ろす。
地面がその拳圧によって砕き割れ地響きが起った。
「……それでもここにも大事な人がいることが分かったから守るんだ」
ルアンナは鬼のような形相に変わり舌打ちをする。
「そう、がっかりねぇレイジ様。だったら、もう計画は変更をするわ」
「計画?」
「ええ。最初は穏便にゆっくりとレイジ様に強さの証明を見せてくつもりだったけど一気に破壊してこのせかいの住人に絶望を与え、レイジさまには私と言う存在の脅威にひれ伏していただくわぁ」
ルアンナは風通りのよくなった粉砕された壁際に足を踏み出す。それ以上踏み出せば下にまっさかさまだ。
「おい、ルアンナ何を――」
「わすれたの? 私たちは魔法世界の住人よ」
ルアンナはそのまま足をとんと踏み、空へ飛び立った。彼女の背から黒煙の羽が生え上空高く舞い上がってどこかへ消えさっていった。
その姿を見送りながらレイジはただ茫然とした。
「なんて奴だ」
「レイジ君」
「っ! 雪菜ちゃん」
「話詳しく聞かせて」
そう雪菜に告げられレイジは渋った表情をしながらこう付け加えた。
「そうだな。それがいいけどまずその前に日本政府関係者と話をさせてくれないかな」




